いろんなところに思い出がある。
今回、配信されるのは、
シリーズ2作目の『MOTHER2』なんですが、
どうして最初の『MOTHER』じゃなくて
『MOTHER2』なのかというのを、
うかがってもいいですか。
- 糸井
- あー、なんでだろうね。
岩田さんから、どうしますかって言われて、
話し合いながら、自然に選んだんだけど‥‥。
やっぱり、たくさんの人がやったもの、
大勢の人が思い出してたのしいもの
っていうことかなぁ‥‥。
- 岩田
- そうですね。
あの、ご存じのように『MOTHER』というゲームは
いまでもたくさんの人たちが忘れずにいて、
よく糸井さんのところにも、
当時遊んだ人の声が届いているかと思うんですけど、
やっぱり、『2』のことを語る人が多いんですね。
そうですね。
- 岩田
- もうひとつは、時代的に、
当時といまのゲームってだいぶ違うと思うんですが、
まっさらの人に遊んでもらうとしたら、
『MOTHER』よりも『MOTHER2』の仕組みのほうが
入りやすいんじゃないかなとも思います。
なるほど、そうですね。
個人的な印象になりますが、
『MOTHER』のほうが『MOTHER2』よりも
ゲームのバランスとしてシビアですよね。
- 糸井
- うん。
『MOTHER』シリーズは、
世界観は共通してますけど、
話が明確につながっているわけではないですから、
「前の作品をやらないと話がわからない」
ということもないですし。
- 岩田
- そういう感じで『MOTHER2』にしましょうと。
私が開発に関わったということは、
まぁ、もちろん思い入れとしてはありますけど、
今回の決定に関しては関係ありません。
- 糸井
- そう、そこは、関係ない。
- 岩田
- 永田さんは、遊び手としてはどうですか?
ぼくも、いま、経験したことのない人に
どちらか1本を遊んでもらうとしたら
『MOTHER2』を選ぶと思います。
やっぱり、『MOTHER』が出たころ、
ファミコンの全盛期というのは、
『ドラゴンクエスト』でRPGという遊びが
日本に浸透したばかりで、
やっぱりまだまだマニアックなものだった
という印象があります。
『MOTHER2』はスーパーファミコンのソフトですけど
発売されたのがハードの末期なんですよね。
つまり、スーパーファミコンの技術が
もっとも熟していたころで、
ハードを持っているお客さんの層も
ずいぶん広がっていたころ。
そういう余裕のようなものが
『MOTHER2』というゲームのなかに
すごくうまく反映されているような気がするんです。
- 糸井
- うん、いまのは、俺のセリフにしておこう。
だから(笑)、コメントしてくださいよ。
- 糸井
- どうも、じぶんが作者だとやりづらい‥‥。
つまりあれだよ、『MOTHER2』は、
「おとなも こどもも おねーさんも。」
(糸井重里が書いた『MOTHER2』のコピー)だから。
そう!
- 糸井
- ね。
- 岩田
- やっぱり、いま遊んでもらうのに
必然性があるんですよね。
ちなみにその『MOTHER2』のコピーは、
私が任天堂の社長になってから掲げた
「ゲーム人口の拡大」というコンセプトに
つながっていくんです。
というか、「ゲーム人口の拡大」って、
「おとなも こどもも おねーさんも。」
なんですよね(笑)。
- 糸井
- そうだ(笑)。
あと、ゲームを長時間遊んでるとパパから
「すこし休憩したらどうかね?」って
電話がかかってくるシステムも、
Wiiのコンセプトのなかに活きていると聞きました。
- 岩田
- はい、あの「2時間パパ」のシステムがなかったら、
ゲームの総合的なプレイ時間を記録するという
Wiiの仕様はなかったんじゃないかなと思います。
だから、『MOTHER2』というのは、
自分が開発に携わった作品という以上に、
たくさんのインスパイアをいただいた、
すごく特別な1本なんですよね。
- 糸井
- いや、みんな、いいこと言うなぁ(笑)。
- 岩田
- あはははは。
話を戻しますけれども、
配信するのは『MOTHER2』にしましょう、
という話し合いがあったのって、
今年に入ってからですよね。
- 岩田
- そうなんです(笑)。
なんというか、端から見ていて、
このプロジェクトはいろんなことがうまく噛み合って
あっという間に動いたような印象があります。
- 糸井
- うん、あれは、どうだっけ。
- 岩田
- きっかけは去年の暮れに、糸井さんが、
ツイッターでのやり取りのなかで、
『MOTHER』をまた遊びたいみたいな話を受けて、
「じゃあ、今日岩田さんに会うから言おうかな」
みたいなことをツイートされて。
- 糸井
- そう、そう。
- 岩田
- で、ほんとにその日に糸井さんとお会いして、
こういうやり取りがあってね、という話をお聞きして、
どこかで機会があればやりたいですね、
っていうふうにお話ししたことがひとつ。
それから、Wii Uに「Miiverse(ミーバース)」という
新しい仕組みができて、ゲームを遊びながら、
じぶんの思いを語れるようになったんですね。
で、このふたつが、Wii Uの発売直後に
私の頭の中でくっついたんです。
じゃ、ほんとに、Wii Uの発売後に
すべてがスタートしたんですね。
- 岩田
- 発売後なんですよ。
あ、『MOTHER』もう一回遊ぶとしたら、
「Miiverse(ミーバース)」の仕組みをつかって
みんなで思いを語りながら遊ぶのが
いちばんいいぞ、って思ったんです。
しかも、その、みんなで語り合う場に、
糸井さん本人がご自分のMiiで
ご参加くださったら、みんなうれしいに違いない。
それで、年明けに糸井さんところに来て、
こういうことやりたいんですけど、って
ご提案させていただいたわけなんです。
「Miiverse(ミーバース)」について
もう少しくわしく教えてください。
- 岩田
- 「Miiverse(ミーバース)」というのは
Wii Uの中に内蔵されている
ネットワークサービスなんですけど、
自分のMiiをアイコンにして、世界中の人と、
自分の思いを共有することができるんです。
基本的には、それぞれのタイトルごとに
個別のコミュニティがあって、
その中で、投稿したり、読んだり、
コメントをつけたりできるんです。
で、さきほども言いましたけど、
『MOTHER』って、昔からすごく愛されていて、
「自分はここが好きだ」って
語られることの多いソフトなんですね。
しかも、人によって語る思い出のポイントが
すごく違ってたりする。
ほんと、そうですね。
音楽っていう人もいるし、
ことばだっていう人もいるし、
好きな場面もみんな違うし。
- 岩田
- あのひと言が泣けたっていう人もいるし、
ゲップーの音がイヤだったっていう人もいる。
もう、いろんなところに思い出があるんですよね。
で、ほかの人が語るのを聞くと、
自分のポイントとは違うところなのに、
「そうそうそう!」って思えるんですよ。
また、自分が思い出を語ると、あちこちから
「そうそうそう」っていう声が聞こえてきたり。
ということは、「Miiverse(ミーバース)」と
これほど相性のいいソフトはないのではないかと。
- 糸井
- なるほどねぇ。
- 岩田
- あと、もうひとつは、
「Miiverse(ミーバース)」って
ふつうにことばをタイピングする投稿のほかに、
GamePadのタッチスクリーンをつかって
「手書き」の文字やイラストを
投稿することもできるんですよ。
で、糸井さん、『MOTHER2』のころって、
糸井さん、原稿用紙に鉛筆書きだったじゃないですか。
- 糸井
- あー、そうですね。
- 岩田
- 糸井さんの手書きの原稿って
ものすごく魅力があると私は当時から思っていて、
「どせいさん文字」もそういう
手書き文字のなかから生まれたものじゃないですか。
そういうものも、「Miiverse(ミーバース)」で
直接伝えることができるなと思って。
- 糸井
- ああ、できますよ、それは。
- 岩田
- だって、『MOTHER』ファンからすると、
糸井さんが描いたどせいさんの絵とかが
ひょいとその場で投稿されたとしたら‥‥
これは、たまらないだろうな、と。
なるほど(笑)。
- 岩田
- そういうこともあって、なんか、いろんな意味で、
いま、これをやるべき時期なのかもしれないな、と。
しかもね、この話を社内の人間に話すと、
みんな目がきらきらするんですよ(笑)。
- 糸井
- ああ。
- 岩田
- そんなにみんなおもしろがるんだから、
これは世に問いかける価値があるなぁって
私は確信を深めたわけです。
- 糸井
- いや、なるほど。
糸井さん、相づちばっかりじゃないですか。
- 糸井
- ‥‥しょうがないだろう。
- 岩田
- (笑)