ポリネシアの海、
日本各地に伝わる来訪神、洞窟壁画‥‥。
10代のころより、幅広い興味関心から、
さまざまな世界を旅してきた
石川直樹さんが、
いま、この地球上に14座ある
8000メートル峰すべての登頂を目指し、
挑戦を続けています。
写真家が向き合っているもの、第15弾。
石川直樹、14座。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- シシャパンマの雪崩の件もですけど、
石川さんって、何度か、
危険な目に遭ってるじゃないですか。 - 熱気球で太平洋を横断しようとして、
海に落ちちゃったりとか‥‥。
- 石川
- ああ、はい。
- ──
- そのつど大変でしたでしょうけど、
でも、最終的には「無事」ですよね。
- 石川
- いちおう‥‥。
- 今回は頬に凍傷の跡が残っちゃって。
1ヶ月以上、ビタミン剤や
チョコラBBを飲み続けて、
だんだん白くなってはきましたけど。
- ──
- シシャパンマから帰って来たのが。
- 石川
- (2023年の)10月中旬くらいです。
- ──
- 14座への登頂達成は、
2024年へと持ち越しになった、と。
- 石川
- 今年(2024年)の3月末に
行けたらいいんですけど、
今回の雪崩の件もあって
チベット山岳協会の方々が、
スムーズに許可を出してくれるのか、
ちょっとわからなくて。
- ──
- 前回、石川さんにお会いしたのって、
2020年の春だったんです。 - コロナ禍がはじまったくらいのころ。
そのとき石川さん、いわゆる
「43歳デンジャラス説」について、
お話してくださったんですよ。
- 石川
- ああ、はい。
自分が、それくらいの歳だったんで。
- ──
- 冒険家や探検家には、
43歳で亡くなっている人が多い、と。 - 植村直己さん、星野道夫さん、
登山家の谷口けいさん、
長谷川恒男さん、
北極探検家の河野兵市さん‥‥。
- 石川
- それって、単なる偶然じゃなくて、
みなさん、
それくらいまでに、
探検や冒険に対する技術や哲学が
研ぎ澄まされて
「もっともっと格段にすごいこと」
をやろうとする反面、
20代、30代のころとくらべたら、
体力自体は落ちはじめているんです。
- ──
- つまり、
思考の冒険と身体的な冒険の間に、
齟齬が生じてしまって‥‥。 - で、そんなこともあって、
43歳では、
おとなしくしてる人もいるという、
そういう話だったんですけど。
- 石川
- ええ。
- ──
- その43の歳を超えた石川さん、
めっちゃヒマラヤ登ってますよね。 - とくに、2022年と2023年。
- 石川
- ひとつにはコロナが明けたことが、
大きかったですね。やっぱり。 - 2020年にコロナ禍がはじまって、
それから2年くらい、
あまり旅に出られなかったでしょう。
でも、コロナが明けた2022年は、
狂ったように‥‥
6つの山へ行って5つに登頂して。
- ──
- それも、ただの山じゃなくて、
ぜんぶヒマラヤの8000メートル峰。
- 石川
- 2023年も、5つの山に登って、
そのうち4つの山に登頂しました。 - 2年間、後ろにジーッと
引っ張ったままだったチョロQが、
コロナが明けたとたん、
ポーンと飛び出したって感じです。
- ──
- それにしたって、5つも6つも。
- 次々に登りたくなったんですか。
次、次、次‥‥って、どんどん
挑戦をし続けたい気持ちが‥‥。
- 石川
- うん、まあ、湧き上がってきた‥‥のかなあ。
- 綿密な計画は立ててなかったけど、
友だちになったシェルパから
「また、行く?」とか誘われたり。
- ──
- そうやって、次々と。
- 石川
- あと、それだけ登り続けていると、
体が高所に順応しやすくなっていて、
山についたら、すぐ登れる感じなんです。 - 通常ベースキャンプに入ってから
ゆっくり順応して、
天候を見計らっていると
1ヶ月以上かかるんですけど、
もう順応してるんで、
すぐに登りはじめられたんですよ。
こりゃあ、かったるくなくて、
どんどん登れておもしろいぞって。
- ──
- 8000メートル峰全14座登頂については、
いつごろから意識してたんですか。
- 石川
- ぜんぜん。ぜんぶ登りたいなとか、
とくに思ってなかったし。 - でも、2022年に2つ3つ登っていくうちに、
あ、このペースなら
ぜんぶ登れちゃうのかもなあって
思いはじめたのと‥‥。
- ──
- ええ。
- 石川
- このところ何年か
「本当の頂上」みたいなテーマが、
登山家の間で、語られるようになって。 - たとえばマナスルとかなんだけど、
それが、おもしろいなあと思って。
- ──
- あ、石川さん‥‥
たしか頂上を間違えてらっしゃった。 - それがマナスル、でしたっけ?
- 石川
- いえ、ぼくが頂上を間違えたことに
気づいて登り直したのは
カンチェンジュンガなんだけど、
マナスルも10年の時を経て
二度登ることになりました。
ちなみに、マナスルって、14座のうち、
唯一、日本の人が初登頂した山なんです。 - そのせいもあって、
当時、日本に登山ブームを巻き起こした
世界8位の標高を誇る山なんですが、
ここ最近、だいたい20年近く、
ほとんどの人が「本当の頂上」に
登ることがなかったんです。
- ──
- へええ‥‥
ちなみに初登頂した方というのは?
- 石川
- 日本山岳会の今西壽雄(としお)さん、
それに
ギャルツェン・ノルブというシェルパ、
その2人で初登頂しました。
彼らはもちろん本当の頂上に立ちました。 - そしてモノクロ映画がつくられたりして
全国に登山ブームが起きたんですけど、
最近は、頂上手前の
ちょっとだけ低いところに到達したら、
みんな「登頂しました」
という時代がずいぶん長く続いていて。
- ──
- それって‥‥「本当の頂上」の存在に、
気づいていなかったということですか。
- 石川
- いや、なんとなく気づいていた人は
おそらくいたんですが、
そこへ到達しなくてもまあいいかあ、
みたいな。
最後の最後が
けっこう危険だということもあって。 - 標高差にしたら、
わずか3メートルくらいの差なんですが。
- ──
- つまり、ここでもいいか‥‥と?
あそこまで行かなくても‥‥と?
- 石川
- そう、そういう雰囲気で、
なんとなく「登頂」とされていたのが、
ここ1、2年で、
ふと、みんなが「いやいや」って。 - 「いちばん高いところに立たなければ、
登頂と言えないんじゃない?」って。
(つづきます)
2024-01-24-WED
-
インタビューでもたっぷりふれてますが、
いま、石川さんは、
世界で「14座」ある8000メートル峰
すべてに登るという挑戦をしています。
現時点では、
あと「シシャパンマ」に登頂できれば、
14座達成、というところ。
この展覧会では、
これまでに、石川さんが撮影してきた
14座の写真に加えて、
「その山を初登頂した人の書いた本から、
登頂の瞬間の描写を抜粋し展示する」
という、じつに興味深い内容です。
その「本」自体も、展示されています。
2024年2月18日までの開催ですが、
展覧会って
行こう行こうと思っているうちに
知らぬ間に終わっちゃってたりするので、
ぜひ、おはやめに。
詳しくは公式サイトで、ぜひチェックを。