ポリネシアの海、
日本各地に伝わる来訪神、洞窟壁画‥‥。
10代のころより、幅広い興味関心から、
さまざまな世界を旅してきた
石川直樹さんが、
いま、この地球上に14座ある
8000メートル峰すべての登頂を目指し、
挑戦を続けています。
写真家が向き合っているもの、第15弾。
石川直樹、14座。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第4回 個性あふれる14座。

──
極限までゼンマイを引きしぼった
チョロQが弾け飛んでいくみたいに、
ここ数年で、
世界14座の8000メートル峰を
次から次へと登ってきたわけですが、
それより前って、
そんなに山へ行ってなかった時期も、
あったと思うんです。
石川
そうですね。
──
たとえば、ポリネシアの海へ行ったり、
まれびと‥‥
すなわち日本各地の来訪神を撮ったり、
洞窟壁画を追いかけたり。
7大陸の最高峰をすべて登頂したのも、
だいぶ若いころですよね。
石川
そうですね。最後エベレストへ登って
7大陸最高峰を登頂したのが、
2001年‥‥23歳のときなんですが、
それ以降、10年くらい
高所には行っていませんでした。
でも、2011年に
もういちどエベレストに登ったんです。
前回の2001年は
チベット側からだったんで、今度は
反対側のネパール側から登りたいなと。
そのあと、2012年にマナスル、
2013年にローツェ、
2014年にマカルー、
2015年にK2に挑戦して、失敗して。
──
1年にひとつずつ、
ヒマラヤの大きな山に登りはじめた。
石川
そう。

──
金沢で、展覧会や出版業をなさっている
SLANTさんから、
『Lhotse』(ローツェ)とか、
『Qomolangma』(チョモランマ)、
『Manaslu』(マナスル)など
山ごとの写真集を出していたころですね。
あれ、えらいかっこいいシリーズでした。
石川
ぼくも好きなシリーズですよ。
その後、コロナで動けない2年があって、
そのあとに、
チョロQ現象みたいなのが起こって。
──
今回、こうやってたくさん登ってますが、
山に対する気持ちって、
何か、変化のようなものはありましたか。
石川
未知の世界に触れて、
自分の体で世界のことを理解したい、
という気持ちで、
ぼくはずっと、
いろいろなところを旅してきたんです。
今回は、それが、たまたまヒマラヤへ
戻ってきたってことなんだけど、
端的に言って、
すげぇ楽しくなっちゃったんですよね。
──
わはは、シンプルでいい!
楽しくなっちゃった。14座ハイ的な。
石川
いや、もうね、めっちゃ楽しいですよ。
あとひとつで終わっちゃうけど、
これで楽しみがなくなっちゃうなあと、
いまからもう、さみしいくらい。
──
その楽しさって、
昔も知ってた楽しさなんでしょうかね。
石川
そうなんですけど、
昔とはほんの少し、ちがうかもしれませんね。
シェルパの仲間もたくさんできたし、
外国の人と
いっしょに登ったりするんですけど、
いろんな人生の話とか聞いていると
おもしろいし‥‥
ヒマラヤの山の中ではみんな対等だし。
──
登っておかないと、いずれ体力的に、
みたいな気持ちもあるんでしょうか。
石川
まあ、ありますよ。
10年後に、いまと同じ登りかたが
できるとは思えないので。
ただ、いまはまだ、ものすごく
体力がなくなってきたなあって感じも、
そんなにはしてないんだけど。
──
あ、すごい。
トレーニングと本番連続の賜物ですね。
石川
まあ、激しくて濃密な2年だったなと
思います。
──
ぼくらInstagramを見ている側も、
「え、石川さん、またどっか行ってる」
みたいな感じでしたから。
石川
実際、わけわかんなかったでしょうね。
昔だったら
数年に1回あるかないかの大遠征で
挑むような
大きな山に登り続けてたんで、
ぼくにとっては激動の2年だったけど、
まわりのみんなにとっては、
「あ、また行ってる」くらいですよね。
たぶん、山の名前も知らないだろうし。
──
いや、そんな軽くは思ってませんけど、
とにかく「すごいな」ですよ。
ちなみになんですが、
「ヒマラヤの8000メートル峰」って、
ひとことで括ってますけど、
それぞれの山の特徴とか個性って‥‥。
石川
いや、めちゃくちゃありますよ、個性。
ぜんぜんちがう、どの山も。
たんなる白くてデカい山が14個ある、
みたいなことじゃないんです。
ぜんぶ、めっちゃキャラ立ちしてる。
みんな個性がバラバラなんです。
──
たとえば、じゃあ‥‥アンナプルナ。
アンナプルナは、どういう山ですか。
石川
サンスクリット語で「豊穣の女神」
という意味です。
恵みの水がたくさん流れ出していて、
ネパール中の田畑を潤している。
標高は8091メートル、10番目に高い山で、
人類がはじめて登った
8000メートル以上の山ですね。

ANNAPURNA ©Naoki Ishikawa ANNAPURNA ©Naoki Ishikawa

──
おお‥‥。
石川
8000メートル以上の場所へ、
まだ、誰も到達してなかった時代に、
フランス隊が登頂に成功した。
つまり8000メートル登山の時代は、
アンナプルナから幕が開けたんです。
──
なるほど、おもしろい。
いまみたいなやつ、
14座ぜんぶで言ってくれませんか。
すごく、おもしろいので。
石川
はい、ぜんぜん言えますよ。
じゃあ、まあ‥‥エベレスト‥‥は、
世界最高峰、
みんなが知ってるエベレストですね。
──
はい、標高約8848メートル、
チョモランマとか、
サガルマータって別名もありますね。
石川さんの7大陸最高峰の挑戦で
最後に登った山でありつつ、
8000メートル峰14座の制覇では、
最初に登った山でもある。

EVEREST ©Naoki Ishikawa EVEREST ©Naoki Ishikawa

石川
世界2位の山はK2、8611メートル。
「非情の山」なんていう呼ばれ方も
されています。
──
非情の山?
石川
これまで何人も遭難者を出していて、
「Mountain of Mountains」
とかって言われています。
とにかく危険で、どこから登っても難しい。
──
何が難しいんですか。
石川
カラコルム山脈にありますが、
独立峰のように突き立ってるんです。
シルエットも鋭角な三角形ですし。
そういう山って天候が読みにくく、
落石・雪崩も、しょっちゅう起こる。
そして、休めるような
平らなところがほとんどないんです。
──
石川さんも、失敗されてますよね。
石川
2回失敗してますね。
2015年に失敗、2019年に失敗、
2022年、3回目でやっと登頂。
──
3回もチャレンジしてる山って‥‥。
石川
他には、ないです。

K2 ©Naoki Ishikawa K2 ©Naoki Ishikawa

2024-01-26-FRI

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  • インタビューでもたっぷりふれてますが、
    いま、石川さんは、
    世界で「14座」ある8000メートル峰
    すべてに登るという挑戦をしています。
    現時点では、
    あと「シシャパンマ」に登頂できれば、
    14座達成、というところ。
    この展覧会では、
    これまでに、石川さんが撮影してきた
    14座の写真に加えて、
    「その山を初登頂した人の書いた本から、
    登頂の瞬間の描写を抜粋し展示する」
    という、じつに興味深い内容です。
    その「本」自体も、展示されています。
    2024年2月18日までの開催ですが、
    展覧会って
    行こう行こうと思っているうちに
    知らぬ間に終わっちゃってたりするので、
    ぜひ、おはやめに。
    詳しくは公式サイトで、ぜひチェックを。

  • 特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

    007 森山大道/荒野

    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。

    010 中井菜央+田附勝+佐藤雅一/雪。

    011 本城直季/街。

    012 伊丹豪 中心と周縁

    013 平間至/自由

    014 ヤジマオサム/クルマ。

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