ポリネシアの海、
日本各地に伝わる来訪神、洞窟壁画‥‥。
10代のころより、幅広い興味関心から、
さまざまな世界を旅してきた
石川直樹さんが、
いま、この地球上に14座ある
8000メートル峰すべての登頂を目指し、
挑戦を続けています。
写真家が向き合っているもの、第15弾。
石川直樹、14座。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第6回 チョ・オユーは魔人ブウ?

──
ブロード・ピークにいきましょう。
じつにかっこいい名前です。
標高8051メートルで、世界12位。

BROADPEAK ©Naoki Ishikawa BROADPEAK ©Naoki Ishikawa

石川
K2のとなりにそびえる山なんですが、
「ブロード・ピーク」って、
「広い頂上」って意味じゃないですか。
──
日本語に訳せば。ええ。
石川
だから、頂上まで行ったら
野球場みたいに広いのかなと思ったら、
頂上自体は、狭いんですよ。
──
えっ。じゃあ、なんで‥‥。
石川
頂上へ続く稜線がむっちゃ長いんです。
まだ着かへんのかい、
まだ着かへんのかいみたいな感じで、
えんえん行かなきゃならないんです。
着かねぇ、着かねぇ、着かねぇ‥‥。
あ、着いた、みたいな(笑)。
──
なるほど(笑)。
石川
たしかにブロードだったわって思った。
ただし頂上へ着くまでがね‥‥って。
頂上へ至るまでの道のりが異常に長い。
──
しかも、頂上自体は、ふつう。
石川
むしろ、どこからが雪庇なのかわからず、
決して広くは感じないかなあ。
──
それはビックリですね。
その場合の目指す「頂上」というのは、
目視でわかるものなんですか。
石川
わかりますよ。
ああ、他よりも高いところがあるなあ、
あそこに登ればいいのかと。
でも、すっごい遠いなみたいな(笑)。
──
それが、ブロード・ピーク‥‥。
石川
お次はナンガ・パルバット。
──
はい。えーと、8126メートル。
世界で第9位。

NANGAPARBAT ©Naoki Ishikawa NANGAPARBAT ©Naoki Ishikawa

石川
別名、キラーマウンテン。
もう何人もの登山家を飲み込んできた、
怖い怪物みたいな山です。
パキスタンのカラコルム山脈にあるのが、
K2、ブロードピーク、
そしてガッシャブルム山群なんですが、
ナンガ・パルバットも
パキスタンにあるけど、
カラコルム山脈ではなくて、
地勢的にはヒマラヤ山脈の端っこ。
ぽつんと孤立していて、
K2とかから離れたところにあるんですね。
──
それだけでキラー感、高まりますね。
石川
そう。孤高のキラーマウンテンです。
でも、ベースキャンプは
標高4200メートルくらいで、
草花が生えてるんですよ。
他の山のベースキャンプって、
すでに森林限界を超えているんで、
植生の痕跡がほとんどないんですけど。
──
草花を愛でる、殺人山‥‥。
石川
ナンガ・パルバットは、
ベースキャンプだけは天国ですね。
でもひとたび山に入ったら、地獄。
──
石川さんも、大変な目に‥‥?
石川
まあまあ、遭いましたね。
1回目の挑戦では登れなかったし。
大きな雪崩で、
いろんなものが流されちゃったり。
2回目でやっと登れたんですけど、
キャラ化するなら、
花柄ロングスカートの
キラー・カーンみたいな山ですね。
──
あの昭和の名悪役レスラーの(笑)。
金曜夜8時の
ワールドプロレスリング世代的には、
たいへん残念なことに、
先日、お亡くなりになられましたが、
ご冥福をお祈りしつつ、なるほど。
つまり、下半身はお花畑なのに‥‥。
石川
そうそう。上半身は
むっちゃ怖い化け物みたいなんです。
──
石川さん、そんなことを考えながら
キラーマウンテンに登って‥‥。
で、先日登頂したチョ・オユーは、
別名「トルコ石の女神」‥‥ですか。
13番目に登った山、ですね。
石川
チョ・オユーは饅頭みたいな山です。
──
ま、饅頭!? 女神なのに!?

CHO-OYU ©Naoki Ishikawa CHO-OYU ©Naoki Ishikawa

石川
だって、シルエットが、
ぜんぜんかっこよくなくてブサイク。
のっぺりしてるんで
頂上、最高点がわかりにくいんです。
山頂付近で背景にエベレストを入れて
写真を撮ると「登頂したね!」って
認められるくらい、
いろいろぼんやりしてるんですけど。
──
そうなんですか。おもしろいなあ。
石川
ぼくは「本当の頂上」にこだわって、
つまりは最高点まで行ったんだけど、
超大変。
──
あ、そうなんですか。
標高も8188メートルで、高いです。
世界6位の威容を誇ります。
石川
だから、キャラ化するとすれば、
饅頭みたいにボテッとしているのに、
なぜか神々しい‥‥みたいな。
太ったお坊さんって感じかな。
チョ・オユーって、チベット語では
「神の頭」って意味だし。
──
ブサイクだけど強い。
魔人ブウみたい‥‥。
石川
あ、そうそう。魔人ブウ魔人ブウ。
ぼくにとっては、
3回めでやっと登れたK2よりも、
頂上を間違えて登り直した
カンチェンジュンガよりも、
もしかしたら大変だったくらい。
天候が悪すぎて苦労させられたんです。
──
最後が、登れなかったシシャパンマ。
石川
はい、まだ登ってない最後の山です。
またの名を「ゴサインタン」、
チベット語で
「麦も枯れ、牛馬も命ほつるところ」
みたいな意味です。
荒れ地の中の荒れ地みたいな感じで、
イメージ的には、
杖をついた「枯れた亀仙人」かなあ。
──
そのこころは。
石川
ガリガリにやせ細って、
もう、いまにも倒れそうなんだけど、
本気を出すと超強い。
──
つまり、手強い‥‥と。
石川
ですね。難しいです。

SHISHAPANGMA ©Naoki Ishikawa SHISHAPANGMA ©Naoki Ishikawa

──
‥‥っていうか、石川さんの
その14座のキャラ設定いいですね。
聞いてておもしろいです。
石川
だって、本当に個性的なんですよ。
個々のシルエットや形はもちろん、
登りやすい山もあれば、
難しい山もある、
こっちは雪崩や落石が多いけど、
こっちは壁みたいな斜面が長すぎる‥‥とか。
──
ええ、ええ。
石川
14の山をそれぞれキャラ化して、
ビックリマンシールみたいなのをつくれないか、
前々からずっと考えてるんです。
──
ビッ‥‥クリマンシール!?

(つづきます)

2024-01-28-SUN

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  • インタビューでもたっぷりふれてますが、
    いま、石川さんは、
    世界で「14座」ある8000メートル峰
    すべてに登るという挑戦をしています。
    現時点では、
    あと「シシャパンマ」に登頂できれば、
    14座達成、というところ。
    この展覧会では、
    これまでに、石川さんが撮影してきた
    14座の写真に加えて、
    「その山を初登頂した人の書いた本から、
    登頂の瞬間の描写を抜粋し展示する」
    という、じつに興味深い内容です。
    その「本」自体も、展示されています。
    2024年2月18日までの開催ですが、
    展覧会って
    行こう行こうと思っているうちに
    知らぬ間に終わっちゃってたりするので、
    ぜひ、おはやめに。
    詳しくは公式サイトで、ぜひチェックを。

  • 特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

    007 森山大道/荒野

    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。

    010 中井菜央+田附勝+佐藤雅一/雪。

    011 本城直季/街。

    012 伊丹豪 中心と周縁

    013 平間至/自由

    014 ヤジマオサム/クルマ。

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