ポリネシアの海、
日本各地に伝わる来訪神、洞窟壁画‥‥。
10代のころより、幅広い興味関心から、
さまざまな世界を旅してきた
石川直樹さんが、
いま、この地球上に14座ある
8000メートル峰すべての登頂を目指し、
挑戦を続けています。
写真家が向き合っているもの、第15弾。
石川直樹、14座。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- まさかの、世界8000メートル峰14座、
ビックリマンシール化計画(笑)。
- 石川
- いや、マジでつくりたいです。
それくらい、それぞれ個性があるので。 - それぞれの特徴をもとにキャラ化して。
14座は、キラキラ光ってる、
スーパーゼウス級の扱いにしたいです。
- ──
- ホログラム仕様とかで(笑)。
- 石川
- お菓子の部分はチョコでもなんでも。
行動食として山で食べられるやつが
いいかもしれない。
- ──
- なるほど、そして、
14座を擬人化したキャラのシール付き。 - 魔人ブウみたいなチョ・オユー、
やさしい女神さまのようなアンナプルナ、
花柄スカートを穿いた
キラー・カーン風のナンガ・パルバット、
枯れた亀仙人のシシャパンマ‥‥。
- 石川
- そうそう。
- ──
- 集めたいかも‥‥しれない‥‥。
- 石川
- ですよね?
ぼくはほしいんですよね、それ。 - 14座がキラキラしてる神さまシールで、
日本百名山なんかもシールにして、
そっちは、
キラキラしてないふつうの天使シール。
あ、でも、富士山は、
キラキラの仲間に入れてあげたいなあ。
- ──
- 七大陸の最高峰もありますね。
- 石川
- そうですね。14座と7大陸最高峰。
そして、日本なら富士山とか百名山とか。 - 14座と7大陸で21だけど、
エベレストが重複してるから「20」で、
でも、そこに富士山を入れて、
「出たらうれしいキラキラシール」は、
やっぱり結局「21枚」か‥‥。
- ──
- その意味では、エベレストは
2パターンあってもいいかもしれない。 - 14座バージョンと7大陸バージョンと。
- 石川
- たしかに。
- ──
- おもしろ‥‥って、石川さん、
できあがってるじゃないですか(笑)。 - これもう、つくればいいだけですよ。
- 石川
- そうっスね。
- 山が好きな人はたくさんいるんで、
おもしろがってもらえたらいいなあ。
K2だったら、
「山の中の山。
かっこいいけど気軽に触れちゃダメ」
みたいに、
いい感じのキャッチコピーをつけたり。
- ──
- ああー、「地獄のナンバー2」とかね。
- マンガの『キングダム』の
王騎将軍の副官の騰(とう)みたい。
強そうでいいですね。
- 石川
- そうそう、知らないけど、何かそういうやつ。
気の利いた枕詞がほしいです。
- ──
- それは、14座を登った人じゃないと
つけられませんよね。
シシャパンマに登頂して、
14座達成したらぜひやってください。
- 石川
- マナスル、ニセの頂上にご用心‥‥
とか。で、二つの角があったりね。
- ──
- ザ・ギザギザ・カンチェンジュンガ、
とかとか。
チェンソーマンみたいなキャラかな。 - こんなこと、いつ考えてるんですか。
- 石川
- ヒマなときには、いつでも考えてる。
- ──
- 石川さんって、写真もカッコいいし、
文章も素晴らしいですけど、
「企画」の部分に、感心するんです。 - 日比谷図書文化館でやってる展覧会も、
コンセプトがすごいし。
石川さんが撮った14座の写真に、
それぞれの山に
初登頂した人の著書から抜き出した
登頂の瞬間の文章を組み合わせていて。
- 石川
- ああ、ありがとうございます。
- ──
- 山へ行って撮ってくるだけじゃなくて、
それも当然いいんだけど、
街ん中なのか、自分の部屋なのか、
とにかく、山から帰って来て
考えていることがおもしろいんですよ。
- 石川
- 初登頂のときに書かれた本は、
どれもむちゃ古いんです。
1950年代だとか。 - 誰も足を踏み入れたことのない
とてつもなく高い山に分け入り、
自らルートを切り拓く初登頂って、
もうね、とんでもないことなんですよ。
すごすぎる描写ばかりなのに、
このままだと、
あんまり人の目に触れないまま、
図書館や古本屋の片隅に
うずもれちゃうなあ‥‥って。
- ──
- なるほど。そういう思いから。
- 石川
- 全員、本当に苦労して登ってるんです。
14座、それぞれに。 - ぼくなんかが
現代の装備とノウハウとで登る労力と、
1950年代、60年代に
初登頂した人たちのすさまじい苦労は、
比較にさえならない。
彼らの偉業に敬意を払いつつ、
多くの人に知ってもらいたいと思って。
- ──
- あの展覧会、すごいおもしろくて
自分もかなり長い間滞在したんですが、
石川さんの写真とテキストとで、
すべての山に
行ったことのない自分も、
すべての山に
それぞれの顔があることがわかったし。
- 石川
- そうでしょ。
- ──
- 多くの初登頂者が、登頂した瞬間に、
征服感というか、
圧倒的な勝利を感じるというよりも、
どこか現実感に欠いたような、
じわじわ湧きあがるような嬉しさを
語っていたのが、印象的でした。
- 石川
- そうそう。
- ──
- ただ、シシャパンマの中国隊だけが
「党と毛沢東の勝利である」
とハッキリと書いていて、
それも、すごいおもしろかったです。 - でも、そんなにも古い文献ばっかり、
よくもまあ見つけ出しましたね。
- 石川
- そこは、ネットのおかげですね。
- Amazonとか古本屋のサイトなどで
調べまくって買い集めました。
ガッシャブルムⅡの初登頂の本だけ、
見つけられなかったんだけど、
それ以外はすべて、
日本語バージョンで手に入れました。
何十年も前に出たものばかりで、
ボッロボロの本ばっかりですけどね。
- ──
- ぜんぶ読んでる‥‥わけですよね。
- 石川
- 隅から隅まで読んだわけではないけど、
とにかく、どれも尋常じゃない。
それぞれの山を知ってるぼくでも、
というか知っているからこそ、
彼らが想像を絶するようなことを
やっているのがよくわかる。 - 「初登頂者」の人は
名前が記録されるかもしれないけど、
実際、どんな苦労をして登ったかが、
忘れられたら残念なので。
- ──
- その人たちの切り拓いたルートが、
現代の石川さんたちの登るルートに
なってたりもするんですか。
- 石川
- ちょっとだけちがう部分もありますが、
「ノーマルルート」あるいは
「クラシックルート」っていえば、
初登頂のルートとほぼ同じですね。
- ──
- つまり、いまでも合理的なルートだと。
- そういうルートを見つけられたから、
登頂できたということなんでしょうか。
- 石川
- それもあるでしょうね。
- ただ、それを見つけるまでの苦労と、
そこに至るまでの苦労たるや。
当然、こっちですよって
立て札が立ってるわけでもないし。
ぼくらは、
初登頂の人たちが行けたんだから、
行けるだろうと思って登っているけど、
はじめての人たちは、
行けるかどうかもわからないルートを、
手探りの状態で登っていったわけだし。
- ──
- ですよね‥‥なるほど。
- そんな14座の最後の山、
シシャパンマへのチャレンジの成功を、
日本から祈ってますね。
- 石川
- はい、ありがとうございます。
行ってきます。
(終わります)
2024-01-29-MON
-
インタビューでもたっぷりふれてますが、
いま、石川さんは、
世界で「14座」ある8000メートル峰
すべてに登るという挑戦をしています。
現時点では、
あと「シシャパンマ」に登頂できれば、
14座達成、というところ。
この展覧会では、
これまでに、石川さんが撮影してきた
14座の写真に加えて、
「その山を初登頂した人の書いた本から、
登頂の瞬間の描写を抜粋し展示する」
という、じつに興味深い内容です。
その「本」自体も、展示されています。
2024年2月18日までの開催ですが、
展覧会って
行こう行こうと思っているうちに
知らぬ間に終わっちゃってたりするので、
ぜひ、おはやめに。
詳しくは公式サイトで、ぜひチェックを。