──

最初の話に戻ってしまうんですけど、
目のまえで、
人形が動いてることのすごさだとか、
かけがえのなさみたいな、
あの感情って一体何なんでしょうね。

山田

何でしょうね‥‥。

自分もなんですが、
人形劇で泣いちゃう人、よくいます。

──

目の離せない感じがあるんですよね。

山田さんにとって、
人形って特別な存在なんでしょうね。
これだけ接していると。

山田

はい。もう本当に‥‥
簡単な言葉しか出ないんですけれど、
相棒って感じです。

──

ひとりひとりが、相棒？

山田

はい、今日も『ねほりんぱほりん』収録で、
ブタに、朝いちばんで行って
「今日はよろしくお願いします」
って気持ちを伝えました。

毎回毎回、その日いっしょの人形に‥‥
というか、もう人形じゃないです、本当に。

──

人形じゃない。

山田

大切な、生きてる人‥‥人っていうか。
生きてるもの、やっぱり相棒です。

──

そういう存在が、２０人以上もいると。

山田

はい。全員が相棒です（笑）。

──

ちょっと曖昧な質問になりますけど、
山田さんはいま、
人形劇ってどういうものだと思ってますか。

山田

そうですね、わたしも、人間が演じるより、
人形が演じたほうが、
スッと入ってくる感情があると思ってます。

ＮＨＫのプロデューサーの佐藤さんも、
人間の子役とか役者さんよりも、
人形を通して伝えた方が、
見る人の気持ちに寄り添えることがあると
おっしゃってくださっていて。

──

ええ。

山田

だから、うーん‥‥。

──

はい。

山田

うん。何だろう‥‥。

──

魂が入る‥‥みたいな瞬間も感じますか。
相棒の、人形たちに。

山田

はい。感じます。

──

人形ってたぶん、世界中にありますよね。
それはきっと、
人間にとって必要なものだからですよね。

山田

はい。そのことは、すごく思います。

──

何の役に立つか具体的には言えないけど、
そこにいるだけで、役に立ってる。

山田

わたしも、子どものころから、
悲しいことがあると、
いつもいっしょに寝ていた人形に
話しかけていました。

──

少しまえ、友人の映像のクリエイターが、
こんなことを言ってたんです。

最近、彼は犬を飼いはじめたんですけど、
犬がかわいいのって、
何かを伝えたがってるのがわかるからと。

山田

ああ‥‥。

──

訴えかけてくるから‥‥というか。

だから、山田さんの動かす人形も、
ただの「抜け殻」だと、
こっちも、そこまで思いを寄せられない。
でも、
まさに「動いている」というそのことで、
何かを訴えかけてくるから、
「どうしたの？」って気持ちになる。

山田

なるほど。

──

人形が、何かを伝えようとしている。
そのことに心が動くのかなあ。

山田

そうかもしれないです。

──

そして、山田さんは、そんなふうにして、
人形に魂を入れる役目の人なのかなあと。

山田

人形操演という仕事が、
じつは、そういう部分が大きいのかも。

──

さっきちょっと話に出ていたんですけど、
「動かす」前には、
かなりたっぷりした「観察」がある、と。

山田

はい、すっごくよく見ていると思います。

散歩している犬や猫、カラス、
動物園に行っても水族館に行っても、
動物や魚の動きを、すごくよく見てます。

──

もともとそういう人だったんですか。
生きものが動くのを、見ていたい人。

山田

そうですね、好きで見てたし、
いまは、
ちょっと動かしてみたいなと思って、
見てもいます。

──

「動かしてみたい」（笑）。

山田

最近は、クラゲの動きにハマっています。
クラゲの人形劇、いつかやりたいなって。

──

クラゲを‥‥動かしたい？

山田

はい、動かしたいです。
これからやってみたいことのひとつです。

──

クラゲには顔とかないですよね。

山田

なくても感情は表現できると思うんです。
動きだけで、顔がなくても、

──

クラゲの悲しみとか‥‥。

山田

表現できると思う。

──

見てみたいです。悲しみのクラゲ。

山田

この前は、ＮＨＫの番組で
ミジンコの人形をやりました。

──

あんなちっちゃい生きものを？（笑）

山田

そのときも、事前に、
狂ったようにミジンコの動画を見ました。

この動き、ぜんぶ表現したいと思って。

──

それは擬人化されたミジンコじゃなくて、
ミジンコ寄りのミジンコですか。

山田

本物のミジンコのフォルムをしています。
リアルな、あのかたちです（笑）。

でも、声は薬師丸ひろ子さんだったので、
どこか
チャーミングなミジンコを表現しました。

──

何だろう、人形を「動かす」って、
ようするに、どういうことなんですかね。

感情を表現するってことはひとつですが、
たぶん、それだけじゃないですよね。

山田

んーー‥‥うまく説明できないです。

──

人を感動させちゃうほどのことなわけで。

ご本人も、対象に対して、
すごいレベルで感情移入してるのかなあ。

山田

それはあるみたいです。

──

動いているものだとか、
生きているもの全般に対する感情移入が。

山田

そのこと、まわりの人によく言われます。
生け簀（す）とかが、見れないんです。

──

生け簀‥‥料理屋さんとかにある？

山田

はい、見れないんです。泣いちゃいます。
生魚もダメで‥‥。

──

お刺身とかは？

山田

もう、そうなっていたら大丈夫なんです。

でも、少しでも、
そうなるプロセスが想像できてしまうと、
もう‥‥ダメなんです‥‥。
板前さんのうしろで泳いでいるとか‥‥。

──

「人形操演」である前に、
「生きもの感情移入家」ってことですか。

山田

でも、『ねほりんぱほりん』の収録では、
毎回ちがうゲストを担当するのですが、
今回のゲストの人も
リハーサルから本番当日まで
１週間ずーーーーーっと、
そのゲストが自分の中に「入って」いて。

話が、けっこう重い内容だったので、
わたしも、どーんと落ち込んでしまって。
本当に具合が悪くなりそうなくらいまで、
その人が入っちゃってたんです。

──

いまのは完全に役者さんの話ですね。

山田

あ、そう。そうか。

──

実際、役者なんですよね。かなりの部分。
人形を専門に演じている役者。

ふつうの役者さんも、
自分とは別の人を演じているわけだから。

山田

そうか、人形を使うか、
自分の身体を使うかのちがいで‥‥ああ。

──

人形操演さんって、役者さんだったのか。

いま、映像のほうに来てから、
まだまだ、１０年くらいなわけですけど。

山田

そうですね。

──

これだけ、たくさんのレギュラーを持つ
売れっ子になっても、
もっともっとうまくなりたい気持ちって、
やっぱり、あるんですよね。

山田

あります。今日も思いました。

しっくりこなかったりとかは
しょっちゅうですし、
いっしょにやってる先輩の演技を見ても、
明らかに上手ですし。
もっと経験を積んで早く近づきたいです。

──

レギュラーが２０本以上あるってことは、
山田さんの出ている番組って、
毎日、何かしら放映されるわけですよね。

山田

はい。毎晩、必ずチェックしています。

はじめてレギュラーをもらった
『ざわざわ森のがんこちゃん』とかでも、
他の番組も同じですけど、
そのときは「よくできた」と思うんです。
でも、ちょっと経ってから見返すと、
何だかもう‥‥ぜんぜんよくないんです。

──

そういうものですか。

山田

そのときベストな演技だと思っていても‥‥。
だから、向上中ということなのかなって。

──

まだまだ成長中。

山田

成長中です。

──

うまくできたときは、どんな感じですか。

山田

人形になりきれている実感が、あります。

まだまだ下手だったころは、
「人形に自分が出ちゃってるよ！」って、
よく注意されていたんです。

──

それだと「ダメ」ってことですか。

山田

はい。自分の性格が表に出ちゃっていて、
そのキャラクターになりきれていない。

わたし、引っ込み思案な性格だったので、
先輩といっしょにやると、
ついつい演技も遠慮しちゃってたんです。

──

なるほど。

山田

ヘンに気を遣ってしまったりとか。

なので、そういう地の性格が出ないよう、
訓練してきたところはあります。

──

自分を出さない代わりに、
何か別のものを出しているわけですよね。

山田

はい、相棒ですね。わたしの中の。

──

なるほど。山田さんの中にいるんですね。
２０人以上の相棒が。

山田

そうです（笑）。

──

山田さんはこれから、
人形操演を目指す人が増えたらいいなと、
思っていますか。

山田

はい、それは。もちろん。

いまは、わたしがいちばん年齢が若くて、
他の先輩が、
５０代から８０代になるんです。

──

なるほど‥‥。

山田

もし、その先輩方が引退してしまったら、
大型人形劇ができなくなってしまう。

『がんこちゃん』なんかも、
１２人くらいでやっているんですけれど、
そういうことが、もう‥‥。

──

そうなったら、悲しいことですよね。

山田

はい。だからぜひ、若い人にも、
こういう仕事があるって知ってほしくて。

わたしもできることをしていきたいです。

──

弟子を取るとか？

山田

そういうかたちなのか、学校なのか、
ワークショップのようなものなのか‥‥。

でも、いつかは、わたしが、
人形操演をやってみたいという若い人に、
何か‥‥自分の知っていることを、
教えてあげられたらいいなあと思います。

カエル＆イモリのコンビ　ニホンアマガエルとアカハライモリのコンビで、ヒップホップまたはピップポップ音楽ユニットのメンバー。２０２２年発表の短編映像作品に出演予定。