28 人形操演 山田はるかさん

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山田はるか プロフィール画像

山田はるか(やまだ・はるか)

人形操演
1979年8月9日生まれ。東京都台東区出身。NHK E テレを中心にレギュラー番組を多数担当。ときどき舞台やライブに出演。趣味は動物園、水族館めぐり、切手収集、温泉とサウナ。好きなアイドルはアンジュルム(ハロプロ)。

[参加番組]

NHK Eテレ「ねほりんぱほりん」(豚、ウシ澤アナ、カエルディレクター)
NHK Eテレ「いないいないばあっ!」
NHK Eテレ「コレナンデ商会」(キーウィちゃん)
NHK Eテレ「ざわざわ森のがんこちゃん」(チョビ)
NHK Eテレ「ノージーのひらめき工房」(クラフトおじさん)
NHK 総合「 おげんさんといっしょ」(ねずみ)
NHK Eテレ「u&i」(メッチャカ)
NHK Eテレ「Q 子どものための哲学」(Qくん)
NHK Eテレ「沼にハマってきいてみた」(ぬっしー)
NHK Eテレ「みんなの手話」(シュドラ)
NHK Eテレ「ざわざわえんのがんぺーちゃん」(モイくん)
NHK Eテレ「銀河銭湯パンタくん」(バース)
NHK Eテレ「えいごでがんこちゃん」(カッパ他)
NHK Eテレ「でこぼこポン!」(ポン)
NHK Eテレ「JAPANGLE」(ベクター)
NHK 総合「 ダーウィンが来た!」(ヒゲじい)
NHK Eテレ「浮世絵 EDO LIFE」(カエル、ナマズ)
NHK 総合「地球大法廷」(ミジンコ)
NHK Eテレ「バビブベボディ」(心臓、骨、胃 他)

テレビ東京「シナぷしゅ」(ぷしゅぷしゅ)
テレビ朝日「機界戦隊ゼンカイジャー」(リッキー)

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第4回 人形劇を見に、チェコへ行く。

──
しゃべっている人の呼吸が、わかる。
だから、
生放送やライブのフリートークでも、
まるで台詞を知っているかのように、
人形を動すことができる‥‥。
山田
はい‥‥たぶん(笑)。
──
山田さんの人形操演は、
そこがすごいと言われていますよね。
その正体って、何なんですか。
その人が何を言うか先読みしている。
反射神経ともまた別ですよね。
山田
前もって、その人の特徴を
つかんでおくことは、やっています。
星野源さんのフリートークのときも、
本番前に
ずーっと観察してから、臨みました。
──
新宿でアイドルファンが集まるバーを
やっていた知人が、
教えてくれた話があるんです。
何年かまえの『ねほりんぱほりん』で、
アイドルヲタクにフィーチャーする、
という回があって、
アイドルヲタクのお客さんどうしが
「『ねほりんぱほりん』見ました?」
って熱っぽく盛り上がっていた‥‥と。
山田
はい。
──
ようするに、山田さんが動かしていた
アイドルヲタのブタさんの、
あの、なんて言うの‥‥
いわゆる「掛け声」のときの動きが、
めっちゃリアルだったと。
「ファイヤー! タイガー!」みたいな
ブタさんの動きが、
ふだん、それをやっているご本人たちに
認められていたと。すごいですね。
山田
いえいえ(笑)。
──
どうして、そんなことができるんだろう。
何か心あたりはありますか。
山田
何だろうな‥‥これまでは
がむしゃらに走ってきただけなので
あまり
よく考えてみたことはないんですが。
ただ「舞台の人形劇の人形操演」と
「映像の人形操演」の両方に
共通するところは、
もちろんたくさんあるんですけど、
ときには、
まったくちがうアプローチのほうが
見ている人に伝えられることが
多いのかもしれないなとは思います。

──
どういうことですか?
山田
たとえば『ねほりんぱほりん』って
トーク番組なので、
リップシンク‥‥
つまり、セリフのリズムやテンポに
人形の口の動きがピッタリ合わないと
違和感を感じるので、
プロデューサーさんや
ディレクターさんと話して、
リップシンクを合わせましょう‥‥と
いうことになったんです。
──
ええ。
山田
でも、このリップシンクという考えは
人形劇の世界では
必ずしもよしとされないこともあって、
わたしも長年、そう思っていたんです。
どちらが良いとか悪いという話では
ないのですが、
結果的に、
少なくとも『ねほりんぱほりん』では
リップシンクを合わせて動かすほうが、
見ている方の心に
伝えられることが多かったんです。
──
舞台と映像の違い。同じ人形操演でも。
山田
舞台出身者として、
舞台の人形劇で学んだことや、
長年、受け継がれてきた良いところは、
もちろん、しっかり
受け継いでいきたいと思っていますが。
──
舞台と映像のハイブリッドな部分が、
山田さんの独自性ってことなのかな。
山田
もともとわたしは
NHKの教育番組が大好きで、
だから映像の人形劇、
映像の人形操演を
真剣に目指してきたので‥‥。
そんな人まわりにいないから、
何かが、ちがうのかもしれないです。
──
なるほど。
ちなみに現在はどうなんですか。
映像で人形操演をやりたいという人って。
山田
若い人は、なかなか出てきません。
わたしがもうずっと、いちばん年下です。
フリーの人形操演では少なくとも。
あの、劇団を辞めてフリーになって、
はじめて『がんこちゃん』に入ったとき、
わたし、本当にうれしかったんです。
──
ええ、知恵熱が出るほど、ですもんね。
山田
はい、それほどうれしかったんですけど、
わたしは集団行動が苦手で、
他の人たちは
みんなチームワークがすごくよくて、
最初のうちは馴染めなくて、
とにかく輪に入れなかったというか‥‥。
──
ええ。
山田
率先して動いたり、手伝ったりできずに、
ただポーッとしていたら、
ある先輩から
「この場に来たいって思っている人は、
あなただけじゃない。
もっとしっかり意識を持ってやりなさい」
って怒られたんです。
──
なるほど。
山田
つまり『がんこちゃん』のシリーズって、
昔からずっとやっている番組で、
そのときわたしが入れてもらった枠には、
それまで他の誰かが、いたんです。
言ってみれば、
わたしは、その人から場所をいただいて
そこにいるってことに、
そのときは、ぜんぜん気づいてなかった。
──
「あぶれた」人がいた‥‥ことに。
山田
その先輩の言葉でハッと気づいたんです。
それから、意識が変わっていったんです。
苦手とか言ってる場合じゃない、
自分からはたらきかけていかなきゃって。
──
なるほど。
山田
フリーになってすぐのころに、
劇団の8年間に意味があったのかなって、
思ったことがあったんですね。
テレビでやる人形劇って、
当然、劇団でやっていた出遣いじゃなく、
人形操演は、
基本的に、
人形の下で動かしているだけですから。
──
衣装を着て、お化粧して、
歌って踊ってセリフを言って‥‥とかを、
人形劇団ではやっていたわけで、
スタイルがぜんぜんちがうから、
8年間の修行の意味があったのか‥‥と。
山田
そう、だから、
あの経験は無駄だったんじゃないかな、
時間だけ8年も経っちゃったって。
でも、つい最近、ある先輩と、
映像の世界に人形操演の後継者がいない、
という話になったときに、
若い人が来たらいいですねって言ったら。
──
ええ。
山田
その先輩が、こう、おっしゃったんです。
「いきなり映像に来ても、ダメだよね」
「劇団で演技を学んでからじゃないと」
って。
──
ああ‥‥。
山田
それで「あっ、そうか」と気づきました。
わたしが8年間、劇団で学んできたのは、
「人形の動かし方」じゃなくて、
「演技や芝居の基礎」だったんだなって。
──
つまり「人形の動かし方」を支えている、
「演ずること」‥‥の部分。
山田
そのキャラクターがどんな思いを抱いて、
どういう動きをするのか。
それは、役者として台詞を言ったり、
歌ったり踊ったり表情をつくったりした、
あの8年間に培われてたんだなって。
──
イヤだなあって思いながらもやっていた、
あの、人形劇団の8年間に。
山田
この人形はどうしてこう動くのかという
理由や必然性を、
そのとき、たくさん、考えていたんです。
他の人のお芝居も、たくさん見たし。
だから、大きな意味があったんだなって。
本当に最近、思えるようになったんです。
──
いまは、歌ったり踊ったり、
台詞を言ったりもしてはいないけれども。
山田
はい。
──
そのぶん山田さんの動かしている人形が、
歌ったり踊ったり、
台詞を言ったり、ヲタ芸みたいなのさえ、
披露しているわけですもんね。
8年間、劇団で修行を積んだ「役者」が、
人形を動かしている、とも言えるわけで。
山田
そのことに気づいて、びっくりしました。

──
ちなみに、学ぶと言えば、
チェコにも行かれたそうですね、一昨年。
山田
はい、チェコに行って人形劇を見るのが、
本当に夢だったんです。
ひさびさに、何日かお休みを取れたので、
思い切って行ったんですが、
もう‥‥胸がいっぱいになってしまって。
あのときの経験したことは、
いつも言葉ではうまく話せないんですが。
──
たくさん見たんですか。人形劇。
山田
はい、たくさん、あのう、見た。
──
なんで急にカタコトに(笑)。
それくらいの衝撃だったってことですか。
言葉がわからなくても、
お話じたいは理解できる感じなんですか。
山田
それが、わかったんです。
その‥‥言葉がわからなくても、
言葉がなくても、
誰でもわかるような人形劇をやりたいと
ずーーーっと思っていたので。
──
なるほど。
山田
チェコの人形劇を見て、
あらためて、そういうふうに思いました。
これが、自分の目指すべきところだって。
──
話がわかった‥‥というのは、
何を言ってるのかはわからないけど、
人形の気持ち‥‥つまり、
悲しいのかうれしいのかはもちろん、
どうして悲しいのかまで、わかった?
山田
わかったんです。
──
それって、もし人間が演じた劇だったら、
わからないかもしれないですよね。
会話劇みたいなことだったら、なおさら。
山田
そうなのかもしれないです。
人形だからわかったのかもしれないです。
ぜんぶで10日間の日程だったんですが
知り合いの旅慣れた人に、
こことこことここ‥‥という感じで
目的地リストを渡して、
旅程づくりを手伝っていただいたんです。
結果、地方都市までふくめて、
主だった人形劇場や人形博物館を、
ほとんど見てまわることができたんです。
──
おお‥‥。
山田
10日間のうちの2日間は
お隣のハンガリーにも足を伸ばしたので、
日本で言ったら、東京の浅草観光も、
福岡の太宰府天満宮も、
富士山も、北海道のオホーツク海も、
10日間かけてぜんぶまわったみたいな。
──
弾丸と化して(笑)。
山田
そうやって博物館などにも行ったりして
わかったことは、
チェコって、歴史の中で
侵略をされた過去を持った国なんですね。
ドイツとかソ連からの。
で、侵略されたら、
言葉も同化されてしまったというんです。
──
ああ、ドイツ語を使え、とか。
山田
でも、チェコの人たちは、
チェコの言葉を残したかったんですよね。
──
そうですよね‥‥母国語。
アイデンティティに関わりますものね。
山田
で‥‥そのときに、チェコの人たちは、
人形劇の人形にしゃべらせて、
そうすることで、残そうとしたようなんです。
だから、ふだんの生活はドイツ語なんだけど、
人形劇の物語の中で、
チェコ語を、守り続けてきたんだって。

──
わあ‥‥そんな歴史が。
山田
どういうことかはわからないんですが、
ドイツ軍も、
そういった人形劇の中に関しては
介入しなかった。
だからドイツに対する風刺であるとか、
迫害の歴史を、
人形劇で、チェコの言葉で、
語り継いでいったようなんです。
第二次大戦のときくらいには、
チェコのある程度の層のご家庭には、
必ずひとつ、
家庭用のちいさい人形劇場があったという話も
残っているそうです。
──
つまり、チェコの人たちは、
人形を通じて、大切な母国語をしゃべっていた。
山田
いまだにチェコで人形劇が盛んで、
世界的にも有名なのも、
その名残で、
スタート地点は、そういうことだって。
──
人形って、
人間が何かを託してしまう存在なのかも
しれないですね。
山田
はい。そう思います。
──
当時のマスメディア、
新聞なんかにも書けなかったようなことを、
チェコの人は「人形」に託した。
人間の気持ちとか、言葉そのものとか、
悲劇とか、人々の歴史みたいなものまでも。
山田
はい。
──
文楽とかを見ていても、
人にとって大事なことを伝えてますもんね。
山田
はい。
──
体制批判とかにしても、
素知らぬふりで敢えて「形式」にしといて、
じつは本質を伝えるみたいな、
そういう高等テクニックもありそうですね。
チェコの経験を経て、何か変わりましたか。
山田
いろいろ変わりました。
そうして西洋の人形のスタイルや
人形劇の歴史を深く知ったことも
大きいですが、
演技が「豊か」になったような気がします。
──
おお。
山田
うまく言えないんですが、
その人形になれている自分を感じるんです。
──
チェコの人形劇を、見てきたことで。
山田
はい。

ねずみのシーモア イラストレーターの福田利之さんがデザインした、本棚に住んでいるねずみ。チーズが大好き。 ねずみのシーモア イラストレーターの福田利之さんがデザインした、本棚に住んでいるねずみ。チーズが大好き。

2021-10-14-THU

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  • 撮影:武川 舞
    イラスト:大桃洋祐

  • MCの山里亮太さんとYOUさんの
    2匹のモグラが、
    顔出しNGのゲストがブタさんに
    根掘り葉掘り、
    いろいろ聞いちゃう人気トーク番組。
    10月からシーズン6がスタート。
    ブタを動かしているのが、山田さん。
    さらに10月12日(火)の
    『プロフェッショナル 仕事の流儀』
    にも出演予定!
    放映は午後10時30分から。
    どうぞ、お見逃しなく!
    再放送もチェックしてみてください。
    番組のHPは、こちら