暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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後編 気がついたら前に進んでいる。 横田株式会社デザイナー・牧野貴子さん

 
休みの日は四六時中編んでいるとは思えないほど、
編みもの道具は最小限。
ここにも、シンプルで愛らしい、
牧野さんの“好き”が厳選されています。

 
「ちょっとした外出時間でも編めるように、
布製の軽い巾着袋に作品を入れています。
針は、切替輪針をメインに。
HiyaHiyaというブランドの、金属針です。
コンパクトなので持ち歩きやすいですし、
どんな作品もこれで編んでいます。
ステッチマーカーなど細かいものは、
ブリキケースの中にまとめて。
針を入れるケースは自分で作りました。
サイズを決めて、
ポケットなど好きな位置にデザインして、
横田のテキスタイルから気になった布で
作ってみました」

 
仕事でも私生活でも、
編みものライフを楽しんでいる牧野さん。
この日巾着袋に入っていたベビーピンクの糸は、
海外ブランドの毛糸だそう。

 
「日本と海外では糸の感じが全然違います。
日本の作家さんですと、
三國さんのほかにも野口智子さんやくげなつみさん、
那須早苗さんなどの作品が好きですね。
個性豊かでかわいいものがたくさんあります。

 
日本の編み図も豊富なので、
そちらに必死であまり詳しくはないのですが、
気になった海外のブランドがあると
毛糸を買ってみて勉強がてら
編んでみるようにしています。
そうすると、次の作品へのイメージが
湧いたりするので、
仕事の役にも立つし編めるし一石二鳥ですね」

 
一年中編んでいるという、牧野さん。
コロナ禍になり、休日は家で一日中編む生活が
続くようになったそうで、
編むときは3作品ほど同時進行で編んでいるそう。

 
「メリヤスベースのウェアを編んだら、
次は編みこみ模様や、
ケーブル模様の小物でリフレッシュしたり。
あまり糸がたまったら、それだけで編んでみたり。
あれこれ計画を立てながら編んでいます。

 
編むときは、配信の動画やYouTubeを見ながら
編んでいます。今は韓国ドラマにハマっていて。
トイレに行くついでに飲みものを飲むくらいで、
お昼を食べ忘れてしまうことも、しばしば(笑)。
電子レンジを待っている合間にも編みたいんです。
最近のことを聞かれると、
気づけば編みものしかしていないんです」

 
それだけ牧野さんを魅了する、
編みものの魅力とは。
「なんでしょうね……
1本の糸から、セーターや靴下が生まれて、
いろんな模様を出すことができる自由さと、
時間を費やした分だけ形になるのが
おもしろいんだと思います。
間違ってしまって、ほどくこともありますけど、
もう怖くなくなりました。
「仕方ない、ほどこう」って。

 
編んでいると、瞑想のように
頭がスッキリする感じがあります。
具体的に悩みを解決するわけじゃないんだけれど、
無心で手を動かして、ギュッと集中すると、
気がついたら心が軽くなっているんですよね。
いつの間にか頭の中がまとまっていて、
前に進む感じがあります」
これからはカラフルなものを
編んでみたいという牧野さん。
ピンクや黄色、はなやかな色で作品を作ると、
また違った気分を味わえそうです。

(終わります)

写真・川村恵理

2022-02-18-FRI

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