暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。
- 編みものを生業としている折小野美貴子さん。
- 現在のお仕事に至るまでの道程をお伺いすると、
人生の岐路でひとつひとつ
「私はこっちのほうが好き」
を選んでかたちにしてきた
おおらかで、かっこいい姿が見えてきました。
- 日本を飛び出して、
スウェーデンで得た知識や考え方も
いまの、プオルッカミルの糧になっています。 - 「編みものを始めたのは、大人になってからです。
もともと服が好きで、自分で作ったら安いよなあ、と思い
最初はソーイングを趣味にしようと思いました。
でも、ミシンって怖い! と思ってしまって。
針が高速で動くのが、どうにも苦手だったんです。
そこで、母に教わりながら、棒針編みをはじめました」。
- 自分のリズムで進められる
編みものに魅せられた折小野さん。 - 「糸と針だけで作れるのも、いいなあと思っていて。
縄編みとか、すごいですよね。
針を動かしただけなのにあんなふうに交差して、
『わあお!』って思いました。 - でも、本を見ながら編んでいても
だんだんと『うまいことできひんなあ』と、
満足できないことが増えて
アヴリルの教室に通うことにしたんです。」
- 受講したのは、
日本手芸普及協会の資格を取得できる教室でした。
ここでさまざまな技法や、製図などを学び
いまの講師の仕事にもつながっています。 - 「私の教室では、
生徒さんのサイズ調整も承るので
製図や、柄の入れ方の知識が生きています。
これは生徒さんではなく、息子用ですが、
三國万里子さんのベストをリサイズして編んだものですね。
フェアアイル柄を編んだことなくて、やってみたかったのと
ちょうど七五三のお祝いに着るのに、いいかなって。」
- アヴリルの教室で得たものは、
技術だけではありません。
現在のお仕事に至る道が、そこで拓かれていきます。 - 「教室に通っていた当時の仕事は、期限付きのものでした。
次は糸のお店で働くのもいいなあ、と教室で話すと
『それやったら、うち来えへん?』と声をかけてもらい
アヴリルのスタッフとして働くことになりました。 - そこで出会った同僚が、みんなアヴリルの仕事もしつつ、
自身での活動もしている人たちばかりで。
好きなことを仕事にできる、
自分のペースでやっていける、という
仲間の姿に背中を押され、
出産を期に独立して、プオルッカミルを立ち上げました。
- 子どもの成長を見守るのと、
編みものの仕事をするのと、
どっちも実現したかったんです。」
- そんな、決断力と行動力のある折小野さんですが、
ご本人は謙遜しながらこう話します。 - 「好きなことしかできないんです。
早く動くこともできないし、
だんだんと、だんだんと形にしていっています。
教室も最初は自宅の3畳間、
月2回のレッスンから出発しましたしね。
あとは、ほんとにみなさんに助けられて、今があります。
出会う人に教わることがいっぱいあって、
仕事をいただくこともたくさんありますね。」
- アヴリルで学び、働きながら得たものと同じく、
折小野さんの中に息づいているのが、
スウェーデンで編みものを学んだ経験です。 - 「手工芸の学校のサマーコースに参加したことがあるんです。
編み込みの伝統柄が大好きで、旅行も大好きなので
行ったことのない土地の柄を
たくさん知りたい、と思ってこのクラスを選びました。
毎日、スウェーデン各地の模様を教えてくれるんですが、
地域によって考えが違うのが面白くて。」
- 「織物が盛んな地域では、
同じ柄をニットにも取り入れるので
大振りな柄が多いんです。
織物だと、どんな大きな柄でも作れるんですが、
手編みにすると、
裏の渡り糸がすごいことになりますね(笑) - いっぽう、ゴットランド島など、
自然が豊かな地域はお花、
ブルーベリーなどのモチーフがあったり。 - そして、ハッランドという地域は『仕事』として
編みものが盛んに行われているので、
生産性をあげるために
覚えやすい規則的な模様が多いんです。」
- 細い糸と針で編む伝統柄。
その緻密さに魅せられ、
帰国後もいくつも美しい作品を編まれています。
- 伝統柄を学ぶいっぽうで、
学校で触れたスウェーデンの家族の姿が
折小野さんの心に強い印象を残したそうです。 - 「この学校は、いろんなことを学べるんです。
かごを編んだり、彫刻だったり。
なので家族で来て、お母さんは編みもの、お父さんは木工、
子どももまた別のクラスに‥‥と
ばらばらに過ごす風景をたびたび見かけました。」
- 「家族がそれぞれ好きなことをやる。
日本では子どもに合わせて過ごすことが多いけれど、
お父さんお母さんも好きなことをして、
その姿を子どもも見ているのがいいなあと思いました。 - 私の教室でも、
編みものをひとりの人間として楽しんでもらいたい。
- だから、お子さんがいらっしゃる方にも
「おひとりでいらしてください」とお願いしています。
わたしも子どもがいるので、
連れてこれたら楽なのはわかるのですが
編みものを楽しむ時は
『お母さん』という役割から離れてほしいなと。 - 同じ理由で、今年から男性向けのクラスもはじめました。
性別や年齢、立場に関係なく、
やりたいことを、やりたいひとが
できたらいいなと思っています。」
(おわり)
写真・川村恵理
2022-12-22-THU
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キットのような編みものの本、
『Miknits TO GO』販売中です。おうちで、バスの中で、公園で。
どこでも、だれでも、気軽に編みものを楽しんでほしい。
そんな思いがつまったムック本「Miknits TO GO」。
三國さん監修の編み図と編み針、
オリジナルのアラン糸がセットになっているため、
この一冊で作品を編みはじめることができます。
no.3は葉っぱ柄のベレー帽「木の葉のタム・オシャンター」、
no.4は編み込み柄が素敵な「オーロラミトン」を編めます。