暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 編みものを贈るよろこび。 新津保梓さん

 
そこに差し込む光や
流れる風の動きさえも取り込んでしまうような、
透明度の高い写真を撮る
写真家の新津保建秀(しんつぼ・けんしゅう)さん。
数々の媒体で活躍されていて、
三國さんもご一緒される機会がありました。

 
そこで耳にしたのは、
「新津保さんのパートナーは、
相当な編みもの好き」というお話。
聞けば、四六時中編みものをしていて、
しかも三國さんの作品も
たくさん編んでいるという
うれしいエピソードも。
晴れ間が気持ちのいいおだやかな休日に、
新津保梓さんに会いに行きました。
 
都内で会社員をしている梓さん。
子育てからすこしずつ手が離れて
自分の時間ができるようになり、
編みものをする時間が
ますます増えたそう。
「仕事の忙しさにもよるのですが、
編むとなったら“過集中”というか、
それだけに熱中してしまうタイプ。
起きている間はほぼずっと編んでいて、
休みの日になると
10時間以上編むこともあります。
家族は心配に思うこともあったようですが(笑)、
この状況に慣れてくれたようで、
いまは静かに見守ってくれています。」
 
大物と小物なら、
小物を編むのが好きだという梓さん。
「基本的に同じものを編まないタイプなので、
手袋やソックスは2つ目の気が重たくて(笑)、
帽子のように一気に編めるものが
個人的に好きです。

 
ただ、いっとき、アランの指出し手袋を
10個くらい編んだことがありました。
アランは毛糸が太くて、
編み方も単調だったので、
手が慣れてしまえば早く編めました。
娘や周りの友人にプレゼントすると、
とってもよろこんでくださることも
うれしくて、
ぜんぶ人にあげてしまいました。」
よろこんでもらえるのがうれしくて、
編むとどんどん人に上げてしまう
という、梓さん。
手元に残っているお気に入りを
いくつか見せていただきました。
モデルは、中学生の娘さんが
つとめてくださいました。
 
三國万里子さんの作品集
『編みものワードローブ』より、
三角ショールは最近のお気に入り。

 
「あたたかくて、軽くて、
とても気に入っています。
編んでいて肌寒いときに
サッと羽織ったり、ひざにかけたり、
おうちの中で大活躍です。
模様編みに手が慣れてくると、
すごく集中して編むことができて、
“大物でもショールはいけるんだ”と
自信になりました。」
光をまとった白いショールは
とても幻想的で、
お部屋の中にあるだけで
うれしい気持ちになります。

 
藍色と小豆色、
ブルーグリーンがアクセントの
編み込み模様の指出し手袋は、
年末年始に編んだもの。
娘さんと旦那さんが愛用中です。
「多色編みは苦手なのですが、
ちょうどよい毛糸が手元にたくさんあったので
この手袋を編もうと決めました。
娘がほんとによろこんでくれて、
『いつ私にくれるの?』と
何度も聞いてくれるくらい。
撮影が終わったら娘にプレゼントします。」

 
帽子は梓さんのふだんづかいに、
大活躍しているそうです。
毛糸はチクチクしない、
DARUMAのウールアルパカです。
「デザインがとても好きで、
友人のプレゼント用に編んで贈りました。
帽子と手袋は毎年いくつか編みますが、
中でも帽子が一番好きですね。
減らし目から形になっていくところ、
あっという間に編める気軽さ、
実用的でふだん使いやすいというのも
編むのが好きなポイントです。」

 
よろこんでもらえることがうれしい。
そう言って、編む手間暇を惜しまず、
仲のいい人たちへプレゼントすることは
梓さんにとって“日常”のよう。
「お世辞ではなく、
三國さんのデザインは使いたくなりますし、
着るととってもおしゃれ。
わたしなら、もらったらうれしいので、
手編みを嫌がらない人に限りますが、
小さな子どもから自分の母親世代まで、
親しい友人に自信を持ってあげられます。」

(次回は梓さんの編みもののおともについて。)

写真・新津保建秀

2023-11-29-WED

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