暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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達成感が日々の原動力になる。 下村朋美さん

 
10年目をむかえたMiknits。
長い月日のなかで、読者のみなさんは
どんなふうに編みものに夢中になっているのだろう。
「お話を聞かせてください」と募集をかけたところ、
想像以上に、たくさんの方にご応募いただきました。
この場を借りて、みなさんに御礼をもうしあげます。
今回から「編む人。」特別編をおとどけ。
読者の方に編んだものを見せてもらいながら、
Miknitsとの思い出をうかがいました。

 
1人目は下村朋美さんです。
過去「ニット風景」にも登場いただき、
そのニットの美しさと編むスピードの早さに
いつも気になる存在でした。
私たちは下村さんの住む、福岡へ。

 
下村さんのご自宅は家具や小物ひとつとっても、
ご自身の「好き」がはっきりと
伝わってくるものが並んでいます。
壁にかざられた一点物の作品たちは、
どれも下村さんの一目惚れ。
作家さんの手製のものが多く、
Instagramで出会うこともあるそうです。

 
出産を間近にひかえていることもあり、
ご自宅にはベビーグッズも。
ベビーベッドのまわりには、下村さんお手製の
ヒンメリのモビールがかざられています。
編みものをはじめ、
工作をしたりお菓子をつくったり
手を動かすことが
原動力になっていると感じられます。

 
下村さんが編みものを始めたのは、
2009年に刊行された三國万里子さんの
『編みものこもの』(文化出版局)がきっかけ。
「高校生のころ、
母に教えてもらってメリヤス編みの
マフラーをつくったことはありましたが、
編みごたえもないし、可愛くなくて、
まったく編みものに興味がわきませんでした。
ミシンで服をつくったり刺繍をしたり、
ひと通り手芸関係に手を出したのですが
どれもあまり続かなくて。
でも、10年前に三國さんの本を見かけたとき、
あまりの可愛さに目からウロコが落ちるようでした。
手編みは、どこか野暮ったいイメージがあったのですが
三國さんの作品はどれもかわいくて
『何としてでも編みたい』という
気持ちがふつふつとわいてきたんです。
本を読みながら、一生懸命編みました。
針と糸がセットになっているキットも購入して、
くわしいプロセス解説に助けられました。」

 
「せっかく時間をかけて編むのに失敗したくないし、
代用糸を考えるよりもすぐ編みたいので、指定糸で。
三國さんの作品に出会ってからは
次々と編みたいものがあらわれるので、
編みものだけはずっと飽きずに続いています。」

 
幼い子どもの子育てに奮闘していた当時、
やることが尽きない日々のなかで
編みものは“達成感”をあじわえて、
下村さんをはげます存在だったそう。
「あまり家事が得意ではないので、
編みものをご褒美にがんばっていました。
編む時間をつくるために
家事を早めに終わらせて、片付けもして。
編みものがなかったら、
毎日ダラダラと過ごしていた気がします。
なにもないところから、
自分の手でこんなにかわいいものが作れるんだ
という達成感がやみつきになり、
最初は帽子やミトンなど小物からはじまり、
だんだんとセーターやカーディガンなど
大物も編めるようになりました。」

 
はじめて編んだ大物のアラン模様のニットは、
いまでもいちばんのお気に入り。
ワードローブにも頻繁に登場します。
「きれいなアラン模様は、
編み上がったときがとてもうれしくて。
いまでも当時のよろこびがよみがえります。
何年経っても飽きないデザインで、
寒い冬には手放せない存在です。」

 
仕事や子育てとの兼ね合いで
編む時間が少ない年もありましたが、
たくさんのMiknits作品がズラッとならびます。

 
産休育休中の今は、1日中編みもの。
「編みものをしたいので、
早く朝ごはんを食べて片付けをしています。
1時間くらい編んだら掃除機をかけて、
また1時間編んだら別の家事をして、
とにかく編みものが最優先です。
産後はきっと時間が減ってしまうので、
今はたくさん編みたいと集中モードです。」

 
編みかけのニットを入れたかごには
三國さんの最新作品集『またたびニット』から、
「アランのセーター」がありました。

 
「三國さんの作品は、
ふつうにないデザインや柄が素敵で、
ぱっと見で『ああ、かわいい!』と
ものすごくトキメキます。
よく、友だちに『次はなにを編もうかな?』と
質問されることがあるのですが、私は必ず、
『自分がかわいいと思うもの、
編みたいと心が動いたものにしたほうがいい』
と話します。練習のために編んでも続かない。
編むのはたいへんなときもあるので、
トキメクものだとやる気が出るし、
手に入れたいという気持ちが燃料になります。
私にとって三國さんの作品は、
そんなトキメキがつまっています。」

(つづきます。)

写真・川村恵理

2023-12-21-THU

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