暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 自分の手でいろんなものがつくれるんだ。 モデル 前田エマさん

 
モデルや執筆業、ペインティングなど
さまざまな分野で活躍されている前田エマさん。
アートやカルチャーに造詣が深く、
独自のロマンチックなセンスが魅力的です。
K-POPアイドルや韓国文学、韓国ドラマなどに
興味を持ったことをきっかけに、
韓国・ソウルに半年間語学留学をされていました。
小学生のころから
編みものに親しんできたという前田さん。
本を読みながらアイデアが浮かんだり、
友だちの編んでいる姿に触発されたり、
何年かに一度再熱するという編みもの熱が
留学先の韓国でも再熱したそう。
前田エマさんがどのように編みものと出会い、
生活のなかで楽しんできたのか。
これまでの編みものライフについて、
じっくりお話をうかがいました。

 
前田さんが初めて毛糸と針を持ったのは、
小学校低学年のころ。
「小さなときから本屋さんに行くのが好きで、
とくに工作や手芸など
ハンドメイドが好きだったので、
手芸コーナーの本棚をよくチェックしていました。
そこで出会ったのが『あみぐるみ』。
当時、流行っていたんですよね。
母親に『私もあみぐるみをつくれるのかな』
と相談してみたら、
母がある女性と会わせてくれたんです。
その方は母の中学からの親友で、
本も出版しているしテレビにも出ているような
編みもののプロ。
手取り足取りやさしく教えてくれるんですけど
当時の私にはまだ難しくて、
ほとんどつくってくれました(笑)。
でも、作品ができていく様子を
間近で見ることができて、
“自分の手でいろんなものがつくれるんだ”
という気づきをもらえたと思います」。
欲しいと思ったものは、自分でつくれる。
その気づきは、前田さんと編みものの
つながりを深く濃くしてくれました。
気づきを与えてくれたお母さまの親友は、
前田さんの編みものに
ずっと並走してくれているそう。
「お洋服屋さんに行って
『このアイテムがほしいな』と思うたびに、
母の親友の家に行っていました。
母たちが食事をしながらおしゃべりしている間、
私は編みものを一生懸命やって、
わからないことがあると聞く。
そういう編み会を定期的に開催してくれたことで、
“自分の手でいろんなものがつくれるんだ”
という感動を追うことができて、今にいたります」

 
「母の親友は『適当でも大丈夫』と、
編みものを楽しむ気持ちを尊重してくれました。
教えるのが上手だったことも、
今につながっていると思います」
あみぐるみに始まり、
マフラー、バッグ、つけ襟やボンネットなど
自分の欲しいものをつくってきた前田さん。
好きなものがハッキリしているからこそ、
理想がカタチになるよろこびは大きなものです。

 
「昔から好きなものや欲しいものが
友人たちとすこしズレていて、
メルヘンなものやロマンチックなものに心惹かれます。
絵本や外国の映画、日本の漫画など
物語からインスピレーションを受けることも多いです。
でも、物語を読みながら
『ここに登場するこんな襟がほしいな』と思っても、
それは想像のお話なので
現実のお店にはなかなか売っていなくて。
あったとしても、赤ちゃんやぬいぐるみ向けで
自分には小さくて着られなかったんです。
なので、自分の手で欲しいものをつくれるのは
すごくうれしかったですし、
ふだんから使いたいと思うものしか編まないので
毎日のおしゃれが楽しくなりました」
キャラクターのファッションにあこがれたり
物語からインスピレーションを受けたりして、
欲しいものを頭の中に描き出すため
手元に既存の編み図はありません。
参考になりそうなものや教えてもらった技を応用して、
“編む勘”を養いながら作品をつくってきました。
だからこそ、どれも前田さんに
ぴったりお似合いです。

 
「編み方はかぎ針編みだけ。
棒針にもトライしたことがあるのですが
性に合っていないみたいで、なかなか難しい。
かぎ針編みでできる小物が、私の定番です」
これまで編んだ作品の一部を、
持ってきていただきました。
「つけ襟がもともと好きで、
レースのつけ襟がほしいな、
と思ってレース用の糸を買ってつくりました」

 
「黒いワンピースやタートルネック、
あとはカジュアルなTシャツに合わせてもかわいい。
前と後ろを逆さにしても使えるので、
おしゃれの幅が広がります」
前田さんのイメージにぴったりのボンネットも、
自分に似合うものがほしい
という思いから編まれたもの。

 
「ロリータっぽいメルヘンな雰囲気の
アイテムが好きでいろいろ探したのですが、
かわいいデザインのものは赤ちゃん用ばかりで。
欲しいデザインはだいたい決まっているし、
それなら自分でつくろうと思い立って編みました。
ボンネットはよく編んでいるかもしれません」

 
「糸はつくりたいものに合わせて選びます。
ふだん柄や色のある服をあまり着ないので、
白やベージュ、グレーなど
私服に合わせやすいシンプルな糸をよく選びます」
欲しいものを思い描いて、自分でカタチにする。
夢を手で編むような行為は、
前田さんの気持ちと
フィットしているのかもしれません。

 
「できあがっていく過程が目に見えること、
そしてできあがったものを身につけられることも、
編みものが好きな理由のひとつです。
自分でつくったものはずっと愛用しています」

(後編では、韓国で出会った編みものについてご紹介します。)

写真・川村恵理

2025-01-14-TUE

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