アリのおしゃべりを解明する研究や
日本におけるヒアリの水際対策の第一人者、
九州大学の村上貴弘さんが、
なんといま、宇宙飛行士に挑戦しています。
なぜアリの先生が? なぜ50歳を超えて?
そんな疑問はぜんぶ、
「夢」ということばが吹き飛ばしてくれます。
JAXAが実施する宇宙飛行士候補者の
選抜試験に挑戦中の村上貴弘さんから
原稿が届く、毎週木曜日の連載です。
地球の裏側までアリを研究しに行く先生が、
地球から離れる日がやってくるかも?
どうか、宇宙へ飛び立つその日まで‥‥!

>村上貴弘さんのプロフィール

村上貴弘 プロフィール画像

村上貴弘(むらかみ たかひろ)

九州大学
「持続可能な社会のための決断科学センター」准教授。
1971年、神奈川県生まれ。
茨城大学理学部卒、
北海道大学地球環境科学研究科博士課程修了。
博士(地球環境科学)。
研究テーマは菌食アリの行動生態、
社会性生物の社会進化など。
NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」ほか
ヒアリの生態についてなどメディア出演も多い。
近著に『アリ語で寝言を言いました』(扶桑社新書)、
共著に『アリの社会 小さな虫の大きな知恵』(東海大学出版部)など。
ほぼ日ではこれまでのコンテンツで、
特定外来生物のヒアリについての知識や
ハキリアリのおしゃべりについて解説いただきました。

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第2回 宇宙に行けたら 何を研究したい?

前回、この連載をはじめるにあたって
宇宙飛行士への挑戦を表明した僕ですが、
ただ漫然と宇宙に行きたいなぁ、
と指をくわえて
夜空を見上げているわけではありません。

拙著『アリ語で寝言を言いました』のあとがきで
「宇宙に活路を見出そうとしても
結局は生態系の枠には出られない。
足元のアリたちをよく見てみようよ」
と訴えた僕ではあります。
その主張と矛盾するようですが、
宇宙空間で生物がどのような反応を示すのかは、
昔からずっと気になっておりました。

宇宙でどんな研究をしたいのか、
を説明する前に、
まずは僕が今探求している
研究テーマの説明をさせてください。

僕はこの30年間、
ずっとアリの研究をしています。
アリの中でも、パナマという中米の国で
キノコを育てる「農業をする」アリの研究を
ずっと続けてきました。
そしてこの10年近くは、
このハキリアリたちが出す
「音」の研究を中心にしています。

アリがおしゃべりするのか?
するのです。
それもかなりおしゃべりなのです。

一番おしゃべりをする個体で、
なんと15分間で7700回を超える音を発しています。
この個体のデータを解析するだけで
1ヶ月以上の時間を要しました。

この研究の肝にあたる部分を解説すると、
ハキリアリの仲間を進化段階ごとに並べて
おしゃべりの頻度を比べてみると、
社会が複雑になればなるほど
おしゃべりであることがわかりました。

社会を持つ生き物にとっては、
「コミュニケーション」が
これまで考えられていたよりも
ずっと重要なのだ、ということですね。

これまでアリという生物は、
どちらかというと
フェロモンなどの化学物質を使った
コミュニケーションが得意だとされてきました。

それならば、このアリたちを、
宇宙空間に連れていったらどうなるのかな?

単純ですが、興味深い疑問です。
複雑で大きな集団を作るハキリアリと
小さくて単純な集団を作る別の農業をするアリを
宇宙空間で飼育して、
行動の違いや適応の様子を記録できたら
貴重な研究になるのではないでしょうか。

無重力状態で、フェロモン分泌はどう変化する?
音の伝わり方が違うと
コミュニケーションは変化するのだろうか?

次から次へと疑問が湧いてきます。

これは実際に行ってみるしかないでしょう!

極論を言うと、
たとえ僕が行けなくても
アリたちを宇宙に連れて行ってあげたい!
そういうモチベーションで、
いま、一生懸命に勉強しております。

(次回の更新は6月16日の予定。
村上先生の挑戦はつづいています)

2022-06-09-THU

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  • 村上貴弘さんの過去のコンテンツ

    正しく恐れるためのヒアリ講座

    アリがしゃべった!