こんにちは。ほぼ日の永田泰大です。
オリンピックのたびに、
たくさんの投稿を編集して更新する
「観たぞ、オリンピック」という
コンテンツをつくっていました。
東京オリンピックでそれもひと区切りして、
この北京オリンピックはものすごく久しぶりに
ひとりでのんびり観戦しようと思っていたのですが、
なにもしないのも、なんだかちょっと落ち着かない。
そこで、このオリンピックの期間中、
自由に更新できる場所をつくっておくことにしました。
いつ、なにを、どのくらい書くか、決めてません。
一日に何度も更新するかもしれません。
意外にあんまり書かないかもしれません。
観ながら「 #mitazo 」のハッシュタグで、
あれこれTweetはすると思います。
とりあえず、やっぱりたのしみです、オリンピック。
◆永田のTwitterアカウントはこちらです。
Twitter:@1101_nagata
◆投稿フォームはありませんが、
感想のメールはこちらからどうぞ。
>メールを送る
8 男子フィギュアスケート
羽生結弦の北京2022オリンピック
- 競技がすべて終わったあと、
何個目かのインタビューを受けていた羽生結弦は、
記者からいま入った情報として
「4回転アクセル、公認されました」と伝えられて、
あっ、そうなんですか、と文字通り目を丸くして驚いた。 - そして「そっか」とつぶやいたあと、
照れ隠しみたいに「ハハハ」と笑い、
目をそらし、何かを噛みしめるみたいにうなずいたあと、
もう一度、「‥‥そっか」と繰り返した。 - そのまま自分の世界に入っていきそうだった羽生結弦は
我に返ってインタビューアーとすこし専門的な話をしたが、
やがてまた噛みしめるように下を向いて黙り、
「あー‥‥」と安堵の声をもらしたあと、
すこし目を潤ませながら、
「なんかちょっと報われました」と笑った。 - まるでドラマのセリフみたいだな、とぼくは思った。
象徴的な意味ではなく、ほんとに台本があるみたいな、
どこかからそういうシーンを抜き出してきたみたいな
ことばと間と表情だった。 - 羽生結弦はしばしばそういう、
ドラマに出てくるような振る舞いをする。
いや、自分の印象をもっと正確に言うと、
ドラマより似ているものがある。 - 羽生結弦のことばや行動は、
ときどきアニメのワンシーンみたいだとぼくは思う。
完全に主観で申し訳ないけど、
漫画でもドラマでも映画でもなく、アニメが近い。 - 自分を焚きつけるような独り言を言うとき、
ギアが入ったときと力が抜けたときのギャップ、
会心の演技が終わったときの雄叫び。
そしてなによりあのフォルム。 - 危険な場面だったから
例として挙げるのは不謹慎かもしれないけど、
試合前の6分間練習でほかの選手とぶつかって
大怪我をしたとき、血をしたたらせながら
ゆらりと戻ってきたときなんかも
いま思えばアニメの一場面みたいだった。 - そして彼のトレードマークのひとつ、
くまのプーさんは、
主人公のおともとしてついてまわる
世界観の設定から例外的にはみ出した
マスコットキャラクターみたいだ。 - 羽生結弦はぼそぼそしゃべらない。
笑うときは「ハハハ」と笑う。
声を張ってしゃべるわけではないが、
ひとつひとつ確かめるように選ぶことばの
輪郭ははっきりしていて滑舌がいい。
そもそもあの声は誰かがあててるんじゃないか? - そして、羽生結弦は奇跡を起こす。
土壇場でものすごい力を発揮する。
ロシアの王子様みたいなスケーターに憧れ、
その伝説的な人から才能を認められてもいる。 - 彼は4年に一度開催される世界一を決める大会で
2回続けてチャンピオンになり、
世界中のライバルたちに注目されている。
3度目の挑戦となる今回は、
まだ誰も見たことのない必殺技を繰り出すという。
しかも、戦うときは特別な
コスチュームを身に纏う(当たり前だ)。 - ああ、なんて主人公なんだ、羽生結弦。
こんな人が、ほんとにいるんですよ、日本に。
そりゃぁ、海外で大人気になるよなと思う。 - そんな主人公だから、人々は期待したかもしれない。
追い詰められた絶体絶命のフリーで
奇跡の4回転アクセルを決めて
大逆転の金メダル、なんてことを。
でも、そういうウソみたいな展開は、
かえっていまのアニメっぽくはないのかもしれない。 - 羽生結弦はお話の主人公みたいだけど、リアルだ。
ショートプログラムの最初の4回転サルコウのとき、
氷上の穴に足をとられて踏み切る力が分散され、
失敗すらできなかった。
4年間のすべてをかけた本番が台無しになった瞬間、
彼はいったいどうしたか。 - 滑りながらその穴を確認したのだ。
憤るでも落ち込むでもなく、
切り替えようとすらせずに、
ただその穴をちらりと見たのだ。
いま自分の足がとられたのはあの穴か、と。 - その場面が何度もリプレイされるたび、
ぼくはそれを確認してちょっとゾッとした。
どういうレベルの冷静さだ、それは。 - 羽生結弦は特別だと思う。
スポーツ観戦が好きなぼくはたくさんの
トップアスリートを見てきたけど、
こんな人はちょっといないと思う。 - 才能があって、練習し続けて、冷静で、リアルで、
ちょっと変なところもそうとうあって、
ぜんぶひっくるめてどうかというと、かっこいい。 - かっこわるいことはなんてかっこいいんだろう、
という使い古されたフレーズがある。
でも、ほんとにそうなんだ。
かっこわるいことって、なんてかっこいいんだろう。 - 羽生結弦も、かっこわるくてかっこいい。
- 彼は宣言する。彼はチャレンジする。彼は努力する。
限界を超えようとのたうち回り、
自分にキレたり、氷に話しかけたりする。
周囲に聞こえるような独り言を言うし、
失敗するし、顔色が変わるし、
急にふにゃふにゃしたりする。 - 思えばそれってぜんぶ、
自分にとってマイナスになることを
背負い込みたくない人が
絶対にやらないようにしようと
慎重に避けていることだと思う。 - そういうことをぜんぶやるのが羽生結弦だ。
立ち向かうのが羽生結弦だ。
かっこいい。かっこわるい。かっこいい。
このオリンピックもやっぱりかっこよかったな、と思う。 - 羽生結弦の北京2022オリンピックは終わった。
主人公の物語に続編があるのか、誰にもわからない。
たぶん、本人にもわかっていないのだろう。 - でも、多くの人に愛されるアニメって、
とうとう終わったと思っても、
また続編が出たりするからね。
(つづきます)
2022-02-11-FRI
-
ハッシュタグ「#mitazo」をつけてTweetしよう!
北京2022オリンピックを観ながら「#mitazo」を読んだり
「#mitazo」をつけてTweetしたりすると最高にたのしいです。
Twitterのアカウントを持ってない人は、
もういっそ、この機会にはじめちゃいましょうよ。
この下には最近のTweetがいくつか自動で表示されています。これまでの「観たぞ!」シリーズ
2004年 アテネオリンピック
『昨夜、オレは観た!』2006年 トリノオリンピック
『観たぞ、トリノオリンピック!』2008年 北京オリンピック
『観たぞ、北京オリンピック!』2010年 バンクーバーオリンピック
『観たぞ、バンクーバーオリンピック!』2012年 ロンドンオリンピック
『観たぞ、ロンドンオリンピック!』2014年 ソチオリンピック
『観たぞ、ソチオリンピック!』2016年 リオデジャネイロオリンピック
『観たぞ、リオデジャネイロオリンピック!』2018年 平昌オリンピック
『観たぞ、平昌オリンピック!』2021年 東京オリンピック
『観たぞ、東京オリンピック!』オリンピックじゃないけど
2005年 全国高校野球選手権大会
『おらが夏の甲子園。』2007年 大阪世界陸上
『観たぞ、大阪世界陸上!』wiki 読者がつくる「観たぞ」用語集・ミタゾペディアはこちら。
https://w.atwiki.jp/mitazo/Twitter 担当・永田のTwitterはこちら。
https://twitter.com/1101_nagata