第６回プライドがない。 | ７歳のときから空想だけで地図をつくる男‥‥の、その後。 – ほぼ日刊イトイ新聞 | 今和泉隆行

2018年にインタビューした
空想地図作家の今和泉さんが、
いままた注目を集めているようです。
現在の著者本は６冊（いま２冊執筆中）、
国内外の美術館での企画展も成功させ、
人気ドラマ『VIVANT』の地図製作、
人気ゲームや万博の仕事にもかかわり、
いまでは高校の非常勤講師として
空想地図の授業まで受け持っているとか。
いろいろ気になる話ばかりなので、
７年ぶりに近況をうかがってきました。
ほぼ日の知らない「空白の７年」を軸に、
今和泉さんのサクセスストーリーに迫ります。
聞き手は、ほぼ日の稲崎です。

＞今和泉隆行さんのプロフィール

今和泉隆行（いまいずみ・たかゆき）

7歳の頃から空想地図（実在しない都市の地図）を描く空想地図作家。大学生時代に47都道府県300都市を回って全国の土地勘をつけ、地図デザイン、テレビドラマの地理監修・地図制作にも携わる他、地図を通じた人の営みを読み解き、新たな都市の見方、伝え方作りを実践している。空想地図は現代美術作品として、各地の美術館にも出展。青森県立美術館、島根県立石見美術館、静岡県立美術館「めがねと旅する美術展」（2018年）、東京都現代美術館「ひろがる地図」（2019年）、鹿児島市立美術館「フロム・ジ・エッジ from the edge ―80年代鹿児島生まれの作家たち」（2021年）。著書に「みんなの空想地図」（2013年）、「『地図感覚』から都市を読み解く―新しい地図の読み方」（2019年）、「どんなに方向オンチでも地図が読めるようになる本」（2019年）、「考えると楽しい地図」（2022年）、「空想地図帳」（2023年）。

前回の登場コンテンツ：
７歳のときから空想だけで地図をつくる男

──: お話をうかがってると、
お仕事のジャンルがどんどん変化しています。

今和泉: すこし前のことですけど、
あるお仕事の依頼で、
「旅の思い出をエッセイで書いてください」
というのがあったんです。
「えっ、私がエッセイ？」みたいな。

──: 作家になったということですよね。

今和泉: そう、作家だと思われてる。
最初は趣味を発展させた人だったんです。
趣味を発展させつつ、
その知識を実用に持っていこうとしたけど
途中で仕事がなくなって、
いまは作家として見られはじめて、
教育方面からも声がかかりだして‥‥。

──: このあともまだ変化していきそうですね。

今和泉: 知り合いの編集者に言われたのは、
やっぱりこういう独自の趣味で
仕事を成立させてるのはすごいから、
どうやってここまでやってきたのか、
みうらじゅんさんの本でありますけど、
「ない仕事の作り方」みたいな、
そういう話は書けるんじゃないかって。

──: いわゆるビジネス本的なものを？

今和泉: はい、その方向は考えてもなかったので、
そういう考え方もあるなと。
というのも、これまで「本」を出すことで、
自分の可能性を広げてきました。
まず本を出して、それがきっかけとなって
次のチャレンジが見つかるんです。
そういう意味でも、
仕事の話を本にするというのは、
次のヒントになるかもしれません。

──: すでに原稿も書かれているんですか。

今和泉: いえ、それをやる前に本が２冊渋滞しているんです。
やるならそれを書いたあとでしょうね。

──: 今和泉さんは自分の趣味を発展させて、
それをお仕事にしてしまったわけですけど、
「自分の個性をどう活かしていくか」は、
みんなが気になるテーマですよね。

今和泉: いまの時代はとくにそうですよ。
AIが世の中に浸透しはじめて、
平均的なことなら誰でも
オートメーションに叶えられるようになった。
ということは、AIには出せない、
その人にしかない資源を探さないと
差別化できないという時代背景は、
前よりも強まったように思います。

──: 「平均的なそれっぽいもの」は、
どんどん価値が薄れていきそうですね。

今和泉: すでに量産されてる「普通」は
オートメーションで生産ができちゃう。
いままでにない新たな「普通」を
つくるのが人間の役割ではありますけど。

──: 今和泉さんのキャリアの積み方が、
これからの「普通」になる可能性もあります。

今和泉: 例えば、最初のほうでお見せした
自分年表もそうですけど、
なんでここまで自己分析するだって言われたら、
この客観視が自分を救ってきたからなんです。

──: 自分年表をつくるには、
前提として自分のことを
客観的に見られないとできないと思うんです。
事実を事実として見ないと成立しない。
その作業ってけっこうつらくないですか。

今和泉: いや、むしろ私はぜんぶ見たいです。
事実はすべて見たい。

──: 客観的事実を知りたいという欲求が、
今和泉さんには強くありますよね。

今和泉: ありますね。

──: その客観視を自分にも向けられるのが、
今和泉さんのすごさですよね。
普通はなかなかできないと思います。

今和泉: 私がなんで自分のことを
徹底的に客観視できるかっていうと、
私、プライドがないんです。
だから簡単にできちゃう。

──: 「プライドがない」というのは、
前の取材でも何度かおっしゃっていました。

今和泉: おそらくですが、人一倍ないと思います。
プライドは「ありたい自分」みたいなものを
形づくるんだと思います。
その「ありたい自分」と「実際の自分」の
ズレが大きいとうまくいかなくなる。

──: わかります。

今和泉: 一方、プライドが０というのも問題なんです。
ありたい自分、目指すべき姿がないと、
他者の影響を受けすぎて自分を見失ったり‥‥。
私は「こうなりたい」と思うことがすくなく、
「こうはなれない」と思うことばかりで、
ダメな自分から抜けられない恐れがあります。
自分ができそうなことで、
苦手なことをどうカバーしていくか、
ということはよく考えています。

──: さきほどの話にもあったように、
他の作者と共同製作できるというのは、
プライドが強すぎるとできないことですよね。

今和泉: 個人のプライドはノイズだと思います。
もし依頼された仕事での共同作業なら、
依頼主の優先順位が高いところと、
私および各作者の強みが出るところの
「円」が重なるところを見つけて進めます。
そこで、私が作家性みたいなのを出すのは、
やはり躊躇してしまいます。

──: 共同作業をするうえで、
自分のイメージとちがうものが出てきたら、
相手に「やり直してほしい」とは伝えるわけですよね。

今和泉: 依頼主の期待に追いついてなかったり、
統一感がなく、粗さが残っていたりすると、
そこはきちんと修正をお願いします。
「質を担保して期限に間に合わせねば」という
緊張感と責任感は私にもありますが、
そこにプライドがあるかないかでいうと、
「ない」だと思います。

──: 「いいものをつくりたい」という気持ちは、
プライドの話とは別だと思うのですが、
そこの境界がときどき自分でも曖昧になります。

今和泉: プライドは、個人の感情から出る目標と、
そこに至る緊張感や責任感でしょうか。
持っていることで自他ともに心地良く、
やる気が出るなら、あったほうがいい。
とはいえ、私としてはプライドあると疲れます。
ただ、自我ややりたいことはあるので、
それはプライドというより‥‥なんでしょう。

──: ‥‥欲とか？

今和泉: 私に欲があるとしても、
おそらくとてもすくない気がします。
「何かをしたい」という欲はあっても、
大抵しなくても済むことだと思っています。
ただ、ここまでの人生で、
「しなくていいこと・したくないこと」をせず、
その場を切り抜けることには力を入れました。
足し算より、引き算の人生だったと思います。

（つづきます）

Photo: Tomohiro Takeshita

2025-03-24-MON