ラジオパーソナリティのクリス智子さんが、
ご自宅の近所にひっそり建っていた
ふる〜い一軒家を引き継いで、
おもしろそうなことをはじめるみたいです。
その建物‥‥というか「場」の名前は、
cafune(カフネ)。
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥という意味を持つ
ポルトガル語なんだそうです。
いったい、何がはじまるんだろう?
わくわくしながら、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>クリス智子さんのプロフィール

クリス智子(くりす・ともこ)

ハワイ生まれ。上智大学卒業後、FMラジオ局・J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在も同局で『TALK TO NEIGHBORS』(月曜日〜木曜日、13:00〜13:30)に出演中。そのほかナレーションやイベントMCなど、幅広く活躍中。

前へ目次ページへ次へ

第4回 cafune。

──
素敵な雰囲気をまとってるんだけれども、
そのぶん「古い」建物を
ああして生まれ変わらせるにあたっては、
難しいこともありましたよね。
ダンナさん
ふつうの工務店に相談したら、
おそらく「NO」だったろうと思います。
でも、昔からこのあたりの土地の
古い家の再生に熱意を持って
取り組んでいる出口建具店さんに
お願いできたので、
さまざま工法を工夫してくださって。
──
おお。
ダンナさん
最初は、2階に上がっただけで、
家全体がユラユラ揺れちゃってたんです。
それも柱をぜんぶ入れ替えることで、
きちんとした家にしてくださったんです。
クリスさん
ちょっと怖かったもんね。
1階も歩くだけで床が抜けそうだったし。
ダンナさん
実際、ぼくが歩いてたら床が抜けました。
でも家の湛えている雰囲気を活かしたい、
という思いはやはりあったので、
そう伝えました。
工務店の方も
「わかりました。何とかします」って。
──
やっぱり「何とかするレベル」だった。
クリスさん
床を剥がしたりてみないことには、
わからないところばっかりだったみたい。
結果的にダメでもしかたない、
できるだけ残せるようやってみようって。
慎重に調べてもらって、最終的に
「できる」という判断になったんですよ。
ダンナさん
8割くらいの柱が、腐っていたそうです。
当初は、新しい柱をサンドイッチする
「抱き柱」しかないだろうって話でした。
でも、そうすると柱が太くなって、
居住スペースが狭くなってしまうんです。
それで、最終的には
柱を丸ごと交換することになったんです。
──
どうやって、丸ごと‥‥?
ダンナさん
駆体事態は華奢で軽かったんです。
そこで、ジャッキアップで
建物を宙に浮かせて、
そのスキに柱を1本ずつ抜いては、
新しいものに交換していきました。
──
すごい‥‥ダイナミックというか、
アクロバティックというか。
まさしく「換骨」って感じですね。
ダンナさん
そうしたおかげで、材料費も作業工賃も
安くあがったんです。結果的に。
──
半ば降って湧いたようにして
2軒目の家を持つことになったけれども、
その建物を何に使うかについては‥‥。
ダンナさん
そこは、彼女の希望があったんです。
人が集まる場所にしたいって。
クリスさん
わたしが何十回も引っ越ししてきたのは、
ひとつには、
空間をつくることが好きだったから。
そこで、この2軒目の建物は、
住居ではなく、
絵を描く人だとか、アーティストだとか、
何かをつくっている人たちと、
ご一緒できる空間をつくってみたいなと、
ぼんやり考えていたんです。
──
へええ‥‥。
クリスさん
そういうことをやりたいなあって思いを、
ずーっと持っていたんですね。
ひょんなことから
あの建物を手に入れることができたので、
「もしや、今がそのとき?」って。
──
アーティストレジデンスというか、
一定期間、滞在して作品を制作するとか、
そういう場所‥‥ですか?
クリスさん
あるいは、音楽のライブでもいいし、
みんなでお料理を囲んだり、
詩を読んだりする会もいいなとか。
もっとふつうに仲間とお茶したり、
誰かが、何かのワークショップをしたり。
いろんな人が集まってきて、
そこから何かが生まれたらいいなあって。
具体的には、まだまだ構想中なんですが。

──
いや、すごくワクワクする計画ですけど、
そういう思いって、
何がきっかけで育ってきたんでしょうね。
クリスさん
ラジオの仕事が、
ひとつのヒントになっているんですよ。
コロナの初期の1か月ほど‥‥と、
その後も何度か、
この家の部屋から放送していたんです。
それまでは、
スタジオから放送するのが当たり前で、
「家の中にスタジオが入ってくること」が、
わたしには、
ものすごくストレスに感じたんですね。
──
そうなんですか。
コロナの時期って、人によっては、
出勤する必要がなくなって楽だねとか、
自宅で仕事ができちゃうから、
地方へ移住する人とかもいましたけど。
クリスさん
わたしはぜんぜん楽じゃなかったんです。
往復4時間の移動がなくなって
楽なはずなのに、しっくりこなかった。
やっぱり、
ラジオの生放送前の移動時間に、
いかに物事を考えたり、
気持ちを整えているか、
ということがあったんだなあと。
それが、ごそっと削がれたという戸惑いは、
予想以上に大きかったんだと思います。
──
なるほど‥‥。
クリスさん
いまはスタジオからの放送じゃなくても、
音はきれいで、聴感上は、
どこから放送しようがわからないんです。
そのことが、逆にストレスだったのかも。
どんな情報や事柄も、
心身を通した言葉で話すことを
心がけていた自分にとっては、
どうも、リアルに欠けてしまうというか。
──
六本木のスタジオであるかのように
オンエアできてしまうことが、
むしろ、ストレスになってしまった。
クリスさん
少なくとも違和感がありました。当初は。
過去に、沖縄やイギリスから
生放送をしたこともありますけど、
現地で連日取材をしながらだったので、
むしろリアルで、
家からほぼ出ない、コロナのときとは、
まったくちがったんですね
ただ、スタッフともリスナーのみなさんとも
それまでの関係性があったから、
ぐるぐる考えすぎるきらいはあったけれど、
最終的には、わたしも、
声を届けることに集中できたとは思いますが。
──
クリスさんも、コロナ禍に直面して、
葛藤や試行錯誤があったんですね。
‥‥ありますよね、それは。
誰しも、多少なりとも。
クリスさん
そして、そういう経験を経たら、
2軒めの家でやりたいことも、
ある意味「ラジオと同じだ」と思えた。
距離が離れていようがいまいが、
時間と空間を共有する‥‥ということは、
わたし、ずっとやってきたことだなって。
それを、ここでやろう。
むしろ、ここでしかできないことも
たくさんあるだろうと思い出してからは、
早かったですね。
いまはインターネットで発信できるので、
たとえ遠くにいる人とでも、
いっしょに何かを楽しめる
ラジオのような空間をつくりたいな、と。
ダンナさん
やるべきことが見えてきた感じだったね。
で、その、やるべきことをベースにして、
建物をどうするかも決めていったんです。
クリスさん
そうそう。
ダンナさん
たとえば、建物の1階は
コンクリート打ちっぱなしにしています。
いろんな人が気軽に出入りできるように。
クリスさん
2階には、ツリーハウスみたいな
ガラス窓に囲まれたひと間が、あるだけ。
時間によって雰囲気がかなり変わるので、
時間帯によって、
お茶会や、ワイン会もいいかも、と。
ダンナさん
アーティストに滞在制作していただいて、
何かおもしろいものがうまれたら
おもしろいなあ、なんて話もはじまって。
──
クリスさんたちとの会話や、
場所との「交歓」が刺激になりそうです。
何かをうみだす人にとって。
で、建物の名前は「cafune(カフネ)」。
クリスさん
はい。
あの建物に集まる人たちとの出会いから、
何かがはじまる。
そんな場所になったらいいなあという
思いもあって、
この「cafune(カフネ)」はうまれました。

撮影:公文健太郎 撮影:公文健太郎

(つづきます)

インタビューカットはじめ、

撮影クレジットの明記されていない写真は、

すべて編集部による撮影です。

2024-08-31-SAT

前へ目次ページへ次へ
  • 2024年8月28日の21時、 cafuneのオンラインショップが オープンします。

    撮影:藤原慶

    クリス智子さんご夫妻が
    近隣の古い民家を引き受けて再生した
    cafune(カフネ)という場。
    ここから何がうまれるんだろう‥‥と
    わくわくします。
    まずは「cafune & pieces」という
    オンラインショップが、
    8月28日(水)の21時にオープン。
    第1弾のおたのしみとして、
    3つの「まあるいもの」を販売予定。
    おいしいうめぼし、真っ白いお皿、
    ベーグル型の鍋しきと、
    どれもクリスさん一家が愛用する品
    (写真は、鍋しき)。
    それぞれの作家さんと
    クリスさんの対話も公開予定だそう。
    気になったら、cafuneのサイト
    チェックしてみてください。