ラジオパーソナリティのクリス智子さんが、
ご自宅の近所にひっそり建っていた
ふる〜い一軒家を引き継いで、
おもしろそうなことをはじめるみたいです。
その建物‥‥というか「場」の名前は、
cafune(カフネ)。
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥という意味を持つ
ポルトガル語なんだそうです。
いったい、何がはじまるんだろう?
わくわくしながら、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
クリス智子(くりす・ともこ)
ハワイ生まれ。上智大学卒業後、FMラジオ局・J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在も同局で『TALK TO NEIGHBORS』(月曜日〜木曜日、13:00〜13:30)に出演中。そのほかナレーションやイベントMCなど、幅広く活躍中。
- ──
- ぼくはいま東京に住んでいるんですけど、
実家は群馬の「山ん中」なんです。
まわりには数軒しか家がないような村で。
- クリスさん
- いいじゃないですか。
- ──
- そうなんです。いいんです。
- 若いころはまったくわからなかったけど、
この歳になったら、
あの「疎」な感じが妙にいいよなあって
感じるようになったんです。
- クリスさん
- ええ。
- ──
- このクリスさんちとくらべたら、
素敵さはまったく叶わないんですけど、
でも、時間の流れ方は同じようで。 - 空気の音まで聞こえるような静けさが、
そこらじゅうに満ちているというか。
- クリスさん
- わかります。わたしたちも
東京の街からこちらへ越してきたとき、
価値観とか考え方、生活のリズム、
やっぱりね、いろいろと変わったので。
- ──
- あ、そうですか。
- ダンナさん
- 家に帰ってくる楽しさが、ありますね。
- クリスさん
- うんうん。あるある。
- ダンナさん
- 逗子の家では波の音が聞こえたんです。
- そんなところへ住んでいるのに、
新橋からの終電が「11時57分」とかで、
仲間と同じように
二次会に参加してから帰ってこれたし。
- ──
- ほとんど変わんないですね、都内と。
- ダンナさん
- それなのに家に着いてテラスに出ると、
波の音が聞こえてくる。
海風も心地よくて、
帰ってきた甲斐があったなあって。
帰って来るのが楽しみになったんです。 - 鎌倉に住んでからも、
またちょっと価値観が変わりましたし。
- ──
- どんなふうに、ですか?
- ダンナさん
- 生活=レジャー、みたいな感じ(笑)。
- 薪を割るのもひと仕事だし、
家の方に木の枝が落ちてきたりすると、
対応に丸1日かかるんです。
最初のうちは対処方法もわからないし、
要領もよくないので‥‥。
- ──
- ええ、ええ。
- ダンナさん
- 落枝を袋に詰めるだけで
ヘロヘロになっていたんですけれども、
近所の人に教えてもらううちに、
「ああ、この枝は捨てる必要はないな。
勝手に堆肥になるだろう」
みたいことも判断できるようになった。 - 空気のいい場所で身体を動してるから、
労働じたいが気持ちいい。
「ああ、これそのものがレジャーだな」
と、あるときから思うようになって。
- ──
- 田舎って、季節ごとに
「やんなきゃならないこと」が
ありますもんね。
- クリスさん
- そう。わたしたち、
休みの日なんて1日中動いてるもんね。 - 田舎って「のんびりしたイメージ」が
あったりするけど、ぜんぜんちがう。
- ダンナさん
- ほんとにね。
- クリスさん
- 次から次へとやることが降ってくるの。
忙しいんですよ(笑)。
悠々自適に過ごすとか、できないです。
- ──
- うちの実家も、夏になったら、
放っとけば雑草王国になっちゃいます。
- クリスさん
- 都会のマンションに住んだほうが、
よっぽど「のんびり」はできると思う。 - でも、この家に住んでみて、
ああ、わたしは暮らしに忙しいほうが
好きなんだなあ、
身体を動かすことのできる場所が
性に合っているんだなとわかりました。
- ──
- この家や環境が、気づかせてくれた。
- クリスさん
- 何でも人にやってもらったら、
そりゃあ楽なのかもしれないんだけど、
「自分でやってわかるチャンス」が、
丸ごと、失くなっちゃいいますもんね。 - それは「もったいないなあ」と思うし、
日々の暮らしのあれこれに
自分から積極的に関わっていけないと、
わたしは、不安になるのかも。
- ──
- 飽きないですか。そうは言っても。
- クリスさん
- 自然を相手にしながら暮らすって、
ここまでやったから、もうわかった‥‥
みたいなことじゃないんですよね。 - 絶対にすべてを把握しきれないんです。
で、そこがおもしろいなあと思います。
「予想とちがった!」
みたいな展開になることも多いし、
結果の見えない過程を楽しめるというか。
- ──
- ちっちゃな驚きってのは、必要ですよね。
退屈せず生きていくにあたっては。 - 田舎に住んでいたころは、
田舎は刺激が少ないって思っていたけど、
それは自分のせいだったと気づきました。
見るところを見たら刺激にあふれてるし、
それこそ畑でもやってみたら、
毎年毎日、一喜一憂するんだろうなあと。
- クリスさん
- まさに、思いどおりになることのほうが、
飽きるかも。
大きくめぐっていくものの中にいるって、
心が落ち着くんですよね。 - ひとりの人間の短いサイクルでは、
わからないことって、たぶんあるんです。
- ──
- ええ、ええ。
- クリスさん
- 以前も、庭の木の花がうまく咲かなくて
「なんで枯れちゃったんだろう」
「伐採したほうがいいのかなあ」
なんて思っていたら、
翌年にはふつうに咲いてくれたんですね。 - 切ろうなんて思ってごめんね‥‥って。
- ──
- 自然の仕業って計り知れないですもんね。
- その木だって、何かちょっと疲れたな、
ことし1年はお休みしよう、
みたいなことだったのかもしれないし。
- クリスさん
- そうかも(笑)。
- ダンナさん
- 経験したことのない「ミッション」が、
次々やってくる感じだよね。
お金を払って
人にお願いしちゃうのは簡単だけど、
せっかくのチャンスだと捉えて
自分でやってみると
新しいことを知れるし、単純におもしろい。 - 台風のときに、木が倒れてくるんですけど、
もうね、すごく大変なんです。
「どうしよう」って、思うじゃないですか。
- ──
- 途方に暮れそうです。
- ダンナさん
- お教えしましょうか。
そういうときは、「チェーンソー」ですよ。
- ──
- わはは、それかあ(笑)。
いまだかつて触ったこともない道具です。
- クリスさん
- このあたりの人と話していると、
あのメーカーのチェーンソーはいいなとか、
そういう話になるんです(笑)。
- ダンナさん
- 巨大な倒木を目の前にしたら、
かえって、焦ってもしょうがないなあって、
肝がすわったりね。 - 実際、木が倒れてきたときには、
綺麗に処理するまでに4カ月かかりました。
最終的には、ぜんぶ薪にしたんですけど。
- ──
- すごい、有効利用。
倒れてきた木もギフトにしちゃうんですね。 - 玄関先にもたくさん積んでありましたけど、
あれは、じゃ、ダンナさまが。
- ダンナさん
- そう。製材所みたいでしょ(笑)。
(つづきます)
インタビューカットはじめ、
撮影クレジットの明記されていない写真は、
すべて編集部による撮影です。
2024-09-01-SUN
-
クリス智子さんご夫妻が
近隣の古い民家を引き受けて再生した
cafune(カフネ)という場。
ここから何がうまれるんだろう‥‥と
わくわくします。
まずは「cafune & pieces」という
オンラインショップが、
8月28日(水)の21時にオープン。
第1弾のおたのしみとして、
3つの「まあるいもの」を販売予定。
おいしいうめぼし、真っ白いお皿、
ベーグル型の鍋しきと、
どれもクリスさん一家が愛用する品
(写真は、鍋しき)。
それぞれの作家さんと
クリスさんの対話も公開予定だそう。
気になったら、cafuneのサイトを
チェックしてみてください。