ラジオパーソナリティのクリス智子さんが、
ご自宅の近所にひっそり建っていた
ふる〜い一軒家を引き継いで、
おもしろそうなことをはじめるみたいです。
その建物‥‥というか「場」の名前は、
cafune(カフネ)。
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥という意味を持つ
ポルトガル語なんだそうです。
いったい、何がはじまるんだろう?
わくわくしながら、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
クリス智子(くりす・ともこ)
ハワイ生まれ。上智大学卒業後、FMラジオ局・J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在も同局で『TALK TO NEIGHBORS』(月曜日〜木曜日、13:00〜13:30)に出演中。そのほかナレーションやイベントMCなど、幅広く活躍中。
- ──
- ちなみにですけど、おふたりとも、
鎌倉にゆかりはあったんですか。
- クリスさん
- ないです。でも、わたし、
5年生の遠足で北鎌倉に来たとき、
「ここ好き」って思ったことを、
もうね、ハッキリ覚えてるんです。 - 2週間後に
自分で遠足の栞をつくりなおして、
何人かの友だちと
もう一回、遠足にきたくらいです。
- ──
- えー、すごい。
それで実際に住むことになるとは。 - ぼくも、引っ越しを
まあまあしてるほうなんですけど、
都内を回っているだけなので、
まったく知らない、
ゆかりもない土地に移住するのに
不安や緊張感は感じないんですか。
- クリスさん
- 引っ越しをすると、
「駅までどうやって行くんだろう」
とか、
「郵便局ってどこにあるんだろう」
とか、
「ふだんの買いものはここかなあ」
とかって、そのあたりのことが、
ゼロからスタートになりますよね。 - その感覚が好きなんです。
- ──
- あ、「好き」なんですか。
それは向いてますね。引っ越しに。
- クリスさん
- 逆に、日常に慣れ過ぎちゃうのは、
ちょっと退屈だったりします。 - いまは少し変わりましたけど、
身についてしまった価値観を
いったん置いて、
また違った目で、
社会を見た方がいいように思うことが
あって。
- ──
- リセットを楽しんでる。
- クリスさん
- そうかもしれないです。
- ちいさいころから
引っ越しばっかりしてきたことも
大きいと思います。
当時はSNSなんかありませんし、
「さよなら」って、
「本当にさよなら」だったんです。
- ──
- ああ、そうか。
もう二度と会えないかもしれない。
- クリスさん
- 実際、ちいさいころの友だちには、
ほぼ会ってないし、会えないです。
ハワイや
フィラデルフィアの友だちなんか、
連絡の取りようもないですし。 - さよならの次の日に、
いきなり言語自体もちがう場所へ
放り込まれるという経験を
何度もしてきたので、
「引っ越しは、楽しむしかない!」
という気持ちを、
持たざるを得なかったんだと思う。
- ──
- 子どもごころに。なるほど。
- クリスさん
- ここってどんな土地なんだろうと、
環境を観察したり察知する感覚が、
どうしたって、
身についちゃったんだと思います。 - わあ、また知らない街だ、
もしかしたら
うまくやってけないんじゃないか、
みたいな心配をするヒマが
なかったんですよ、たぶん(笑)。
- ダンナさん
- ぼくは、逗子に引っ越したときは、
ドキドキしてたよ。 - 「どういう暮らしになるんだろう」
みたいな感じで。
- クリスさん
- そう? けっこうノリがいいと思うけど。
引っ越し23回のわたしからしても。 - 「えっ、行く?」みたいな(笑)。
- ──
- フットワークが軽そうに見えますね。
おふたりともに。
- クリスさん
- 軽いですね。彼は、慣れるのも早い。
- ダンナさん
- 仕事柄‥‥パッパッパッと
判断しなきゃならない場面が多くて。
- ──
- 即断即決が必要なご職業。
- ダンナさん
- で、いったん決めたら、
もうああだこうだと考えない。
それをやりだすと、
身動きが取れなくなっちゃうんです。
それがいちばんイヤなんです。
- ──
- だから「引っ越しもしちゃおう」と。
いろいろと考える前に。 - なぜなら、引っ越してみなかったら、
わからない何かがあるから‥‥。
- ダンナさん
- どんな仕事でもそうでしょうけど、
頭でいろいろ考えるよりも、
「どれだけアクションを起こせるか」
じゃないかなあと思うので。
- ──
- ようするに、結局のところ、
クリスさんの活発な引っ越し活動に、
ピッタリな方だったと(笑)。
- ダンナさん
- そうかもしれないです。
- クリスさん
- そうかも(笑)。
- ──
- あらためてですけれど、
この家に、鎌倉に住むようになって、
変化した価値観を教えてください。
- クリスさん
- 東京でラジオ番組をやっているので、
情報というものに対しては、
いろいろと考えさせられていますね。 - 東京では、最新の情報が左から右へ
次々に発信されていって、
それも
メディアの役割のひとつだろうとは
思うんですけど、
わたしは、少し違った角度から
番組を届けたいとずっと思っていて。
- ──
- ええ。
- クリスさん
- こうやって自然の中で過ごしてると、
自然からの語りかけが
たくさんあるんです。
この数年は、あえて、わたしの言葉として、
そういうものを伝えようという気持ちを
強く持つようになりました。
バランスは考えながら、ですけど。 - たとえば朝、
庭に咲いていた山茶花のことを話すことで、
聴いてくださっている方の脳内で
自然の景色が広がったり、
わたしの話した山茶花の色が、
聴いている方の
「ピンク」の中のひとつに
加わったらいいなぁ‥‥というような、
ちいさなもくろみ、です(笑)。
- ──
- いわゆる「最新情報」ではないけど、
クリスさんにとっての、リアルな情報。
- クリスさん
- そうですね、まさに。
世の中の最新情報と、
暮らしの中の最新情報の違いを、
意識したいんですかね。 - 東京にいたときは、
山茶花の花は冬の時期に咲くんだと、
意識したこともなかった。
椿とのちがいもわからなかったし。
- ──
- 自分がまさにそうです。
で、知りたいなあと思っています。
- クリスさん
- わたしも、いま、
そういうことを知りたいんですよ。
薬草に詳しいおばあちゃんとか
いるじゃないですか、田舎には。
自分のおばあちゃんもそうでしたけど、
もうね、大尊敬なんです。
- ダンナさん
- 薬草ばあちゃんになるって(笑)。
- クリスさん
- なれたらいいなと思ってます。
道のりは遠いかもしれないけど、
自然とも会話ができる人になりたい。
暮らしと生命に直結した情報だから。
- ──
- 住むところが変わっても、
お仕事は変わらないわけですけれど、
それでも、
今朝、庭に山茶花が咲いたことを知る
クリスさんになったら、
やっぱり、
何を話すかも変わってきそうですね。
- クリスさん
- 自分にどういう影響が出ているかは
自分ではわからないんですが、
でも、わたしの仕事って、
いろんな人とお話をすることなので。
どうしたって、
すべての自分が出てしまうんですね。 - 生放送や対談って、
決まったことをなぞるより、
たがいの反応の連続に
おもしろみがあるので、
自分らしい反応をするために、
ふだん身を置く環境は
すごく意識しています。
- ──
- ああ、なるほど。
- クリスさん
- 仮に、わたしが山茶花の話をしたら、
聴く人ごとに
反応はちがうと思うんですけど、
わたしとしては、情報の伝達よりは、
ちゃんと心で感動したことで声はつくられる、
と思っているので。 - 伝わる、伝えたいことがあるんですよね、
そこに。
- ──
- はい。
- クリスさん
- 冬に咲くピンクの花って、
春の花とは、また別の美しさがあるんです。
(つづきます)
インタビューカットはじめ、
撮影クレジットの明記されていない写真は、
すべて編集部による撮影です。
2024-09-02-MON
-
クリス智子さんご夫妻が
近隣の古い民家を引き受けて再生した
cafune(カフネ)という場。
ここから何がうまれるんだろう‥‥と
わくわくします。
まずは「cafune & pieces」という
オンラインショップが、
8月28日(水)の21時にオープン。
第1弾のおたのしみとして、
3つの「まあるいもの」を販売予定。
おいしいうめぼし、真っ白いお皿、
ベーグル型の鍋しきと、
どれもクリスさん一家が愛用する品
(写真は、鍋しき)。
それぞれの作家さんと
クリスさんの対話も公開予定だそう。
気になったら、cafuneのサイトを
チェックしてみてください。