ラジオパーソナリティのクリス智子さんが、
ご自宅の近所にひっそり建っていた
ふる〜い一軒家を引き継いで、
おもしろそうなことをはじめるみたいです。
その建物‥‥というか「場」の名前は、
cafune(カフネ)。
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥という意味を持つ
ポルトガル語なんだそうです。
いったい、何がはじまるんだろう?
わくわくしながら、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>クリス智子さんのプロフィール

クリス智子(くりす・ともこ)

ハワイ生まれ。上智大学卒業後、FMラジオ局・J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在も同局で『TALK TO NEIGHBORS』(月曜日〜木曜日、13:00〜13:30)に出演中。そのほかナレーションやイベントMCなど、幅広く活躍中。

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第7回 驚きと発見のある暮らし。

──
山茶花は冬に咲く‥‥ということを、
知識として知ってるだけじゃなく、
その日の朝、
実際に庭で見てきた人の言葉なら、
より「伝わる」気がします。何かが。
クリスさん
それは、そうなのかもしれませんね。
そういうことは感じています。
たとえば‥‥「ハワイの青い空」って
ラジオの原稿に書いてあっても、
もし、わたしが見たことがなかったら、
「言い切れない」と思うので。
──
なるほど。
クリスさん
逆にたとえ一回でも見たことがあれば、
自分の言葉で伝えられる部分が
確実に出てくる。
──
そこには「実感」がこもりますもんね。
クリスさんのリアル、というか。
クリスさん
そうですね。
とくにラジオなどの「声」には、
リアルって大切だと思っています。
昔からそういうものを
自分の中に増やしていきたいなあって
思っていたんですが、
いまはいっそう、
自分にとって重要なものになってます。
──
リアルということが。
クリスさん
もう何年も山茶花を愛でてきてるので、
自分の実感として、
山茶花の話ができるんです。
そこは、大きなちがいだなと思います。
──
田舎の暮らしって、いろいろなことが
具体的でリアルですよね。
地域の人たちの人間関係とかも含めて。
田舎屋敷にひとりで住んでいる母を見ると、
そんなふうに思います。
何だろう、いろんな意味で、
地に足がついていてすごいなあと思う。
クリスさん
いろいろやってくるのね、向こうから。
タケノコの季節にはたくさん採れて、
人にもあげるし、
毎日、食卓に載るくらいなんですけど、
「次はパスタにしてみるか」とか、
こっちも、
いろいろ対策を練るようになったりね。
──
おしよせるタケノコ軍団に対して(笑)。
クリスさん
鍛えられますね(笑)。
──
タケノコって「足がはやい」ですよね。
うちの実家でも、採ったらすぐに
親戚やご近所に配って歩いていますし。
だから、
向こうからいきなり来るという感覚は、
間違いないかも(笑)。
クリスさん
そうそう(笑)。
もう誰々さんからもらったよーって
なっちゃう前に、
早くあげないとって思ったり(笑)。
──
ぼくは狩猟はやったことないですが、
タケノコ掘りって、
狩猟感が高いような気がするんです。
どこにいるかな~って
竹林の斜面を探しまわるところから、
鍬(くわ)で一閃、
根本から根こそぎにしたときの手応えとか。
クリスさん
わかります。採った感ありますよね。
ダンナさん
余談だけど、植物解剖学的観点では、
根っこじゃなくて、
地下茎をシャベルを使って切ったら、
わりと簡単に採れます。
だから、掘らなくていいんですよ。
1本10秒で採れます。
──
あ、そういうコツがあるんですか。
ダンナさん
いちど全体が剥き出しになるまで
まわりの土をどかしてみたら、
「なるほど、こういう構造なのか」
とわかったんですよ。
──
毎年、5月の連休あたりに
実家のタケノコを掘ってるんですが、
おもしろいけど大変なので、
こんどくわしく教えてほしいです。
だだっ広い梅林の梅もぎとあわせて、
東京に住んではいるけど、
数少ない田舎での年中行事なんです。
ダンナさん
ここからも梅の木が見えますよ。
2月に開花して、1か月で満開。
ことしは、みごとだったな。
しばらくするともう実がなって、
「ありがとう」って感じ(笑)。
クリスさん
本当にありがたくて。
冬から春にかけて
長いこと、梅が咲いてくれるので、
梅びいきになりました。

──
これは何年か前のことなんですが、
実家に帰ったら、
庭の片隅にミョウガが生えていたんです。
高校卒業まで18年間も住んでいたのに、
庭にミョウガが生えるなんて、
ぜんぜん知らずに生活してたんですよね。
クリスさん
うれしいですよね。そういうの。
──
そうなんです! うれしいんです。
ミョウガの天ぷらとか好きだし。
で、そんなふうに、
ちっちゃいかもしれないんだけど、
驚きや発見の詰まった暮らしって、
楽しいですし、うれしいですよね。
ダンナさん
楽しいよ。
──
最後にあらためて‥‥の感想ですが、
2軒目の建物の
「cafune(カフネ)」という名前は
すごくいいなと思いました。
ポルトガル語だそうですが、
何だろう、まずは、耳に心地いいです。
クリスさん
ありがとうございます。
もうね、やっと決まった名前なんです。
わたし、名前付けるのが苦手なので、
誰かにお願いできるなら、
そうしたいって思っていたくらいです。
ダンナさん
楽しく考えてるように見えたけど。
クリスさん
いやいや‥‥そうかなあ。
絶対に自分で考えたほうがいい、
誰かに頼んだ名前にピンとこなくても、
断りづらいからと言われたので‥‥。
──
たしかに(笑)。
クリスさん
わたし的には、本当にがんばって、
くじけそうな心を奮い立たせて(笑)。
──
日本の古語とかかなって思ったくらい、
語感としても親しみを感じました。
日本語の中に混じってきても綺麗で、
いい意味で「引っかかる」っていうか。
「えっと、カフネって何だっけ?」みたいな。
クリスさん
あ、ほんとですか。よかった。
発音しやすいですよね。
そこも命名のポイントでした。
最初は「アトリエ」って呼んでたんです。
わたしの中では、
「風」「緑」「呼吸」「静と動」「緑」
「硝子」「波紋」‥‥とか、
思いつくイメージを
さんざん書きつけていたんですけど、
たどり着くまで、
もう1年以上は考え続けていましたね。
──
ポルトガル語には詳しかったんですか。
クリスさん
いえ、そんなことないんです。
ボサノバが好きだったとか、それくらい。
──
最終的に、どう行き着いたんですか。
クリスさん
いろいろな言葉を書き出していくなかで、
あるとき、誰かの髪をなでる、
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥
といった意味の言葉に、出逢ったんです。
──
それが「cafune(カフネ)」?
クリスさん
はい。誰かの髪をやさしくなでる‥‥って、
ここの時間の流れや、人との出会いで
気持ちがほぐれたりすることに、
似たような感覚なんじゃないかなあと。
決める前には、ポルトガル語や
ブラジル音楽に詳しい方にもうかがって、
「いい言葉だと思うよ」
とおっしゃってくださったこともあって、
「これだ!」って(笑)。
ダンナさん
ぼくも、最初にあの建物に入ったとき、
ハクモクレンの香りに
心をなでられたような感じがしたなあ。
──
実感としても、そういう場所だった。
クリスさん
ほら、人になでられるとほっとしたり、
ふわっとだけど、
エネルギーがあふれてきたりしますよね。
ここに集う人たちにとって、
この「cafune(カフネ)」という場が、
そんなちからを
与えてくれたらいいなあと思っています。

撮影:公文健太郎 撮影:公文健太郎

(おわります)

インタビューカットはじめ、

撮影クレジットの明記されていない写真は、

すべて編集部による撮影です。

2024-09-03-TUE

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  • 2024年8月28日の21時、 cafuneのオンラインショップが オープンします。

    撮影:藤原慶

    クリス智子さんご夫妻が
    近隣の古い民家を引き受けて再生した
    cafune(カフネ)という場。
    ここから何がうまれるんだろう‥‥と
    わくわくします。
    まずは「cafune & pieces」という
    オンラインショップが、
    8月28日(水)の21時にオープン。
    第1弾のおたのしみとして、
    3つの「まあるいもの」を販売予定。
    おいしいうめぼし、真っ白いお皿、
    ベーグル型の鍋しきと、
    どれもクリスさん一家が愛用する品
    (写真は、鍋しき)。
    それぞれの作家さんと
    クリスさんの対話も公開予定だそう。
    気になったら、cafuneのサイト
    チェックしてみてください。