bonobosという、
スゴ腕ぞろいのメンバーのなかで、
ボーカルの蔡さんは、
もともと画家を目指す青年でした。
趣味でやっていたバンドで
デビューが決まり、
プロのバンドマンとなってからも、
しばらく自覚はなかったそうです。
でも、あるときから、
「自分の仕事はこれだ」と決める。
バンドがあったからこそ、
自分は歌ってるんだ‥‥とも言う。
蔡忠浩さんのバンド論、全6回。
担当は「ほぼ日」の奥野です。

>蔡忠浩さんのプロフィール

蔡忠浩(さいちゅんほ)

1975年うまれ、関西出身。bonobosのボーカル&ギターで作詞曲担当でもある。酸いも甘いも、多少包み隠しながら書く、人間味のある歌詞と、言葉にならない気持ちを音に変換させ、音楽を作り、奏でる。ここ数年はバンドやソロ活動の枠を越え、舞台の音楽監督や映像への音楽提供なども行う。

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第4回 絶対に「音を止めない」ために。

──
そうやって音楽を続けてきたけど、
どこかの瞬間で
「ああ、ここが俺の場所なんだな」
と自覚するわけですよね。
まず、プロになった理由は明確で。
──
というと?
美術で食っていきたかったときに、
月の半分くらいは
制作の時間に充てたかったので、
大学卒業後は、
郵便局でバイトをしてたんですね。
──
あ、そうなんですか。
ギリギリ生活できるだけを稼いで、
他の時間は制作に充ててました。
でも、バンドもやっていましたし、
スタジオ代だ、楽器代だ、
酒代だ‥‥とかってお金が必要で、
いまだから言えますけど、
ちょいちょい、
いわゆる「消費者金融」のお世話に。
──
それは‥‥!
気づけばまぁまぁな額になってて。
郵便局のバイトだけでは
返せる金額じゃなくなったときに、
デビューの話がきたんです。
──
なんと‥‥渡りに船じゃないけど。
いやあ、完全に渡りに船でしたね。
これで返済できるぞ‥‥と、
話に、すぐに飛びついたんですよ。
めちゃくちゃ不純な理由なんです。
つまり、最初のところでは。
──
人生ごと、生活ごと飛び込んだんですね。
音楽業界、プロの世界へ。
そうです。で、入ったらいきなり、
インディーズで
4曲入りアルバムをつくることになりました。
同時にメジャーデビューの時期や
シングル曲も決まり、
次のアルバムの構想も進んでいく。
──
わあ、そんななっちゃうんですか。
プロになったとたんに、一気に。
そう。目の前のことに、
必死に食らいついていくしかなかった。
でも、何かを生み出すことも、
創作に自分のすべてを出し尽くすことも
好きではあったんで、
後悔や妥協は一切なかったんです。
──
楽しかったってことですね。
ただ、プロのミュージシャンとしての
自覚だけが、なかった。
──
突っ走ってはいるけれど。はあ‥‥。
でも、デビューアルバムが出る直前に、
ドラムの辻くんが、
元のバンドに戻りたいと言い出して。
そこで、ドラムどうすんのってなって。
──
大事件じゃないですか。
そうなってはじめて、
ぼくは‥‥自分たちのバンドのことを、
真剣に考えたんです。
──
おお。
そのときに、
バンドが「自分のこと」になったんです。
俺の仕事は音楽で、
これは俺たちのバンドなんだ‥‥って。
──
bonobosというバンドは、
そこで、
改めて生まれたのかもしれないですね。
誰かの言うことをやってるだけでは、
たしかに、
ギアを自分側にグッと引く気持ちには
なれないでしょうし。
そう。
──
それが、たとえ「バンド」と言えども。
そうなんです。
──
いまはバンドのフロントマンとして、
今後の方向性とか考えてるわけですよね。
bonobosが自分のバンドだ、
これが俺の仕事なんだと自覚してからは、
アルバムのことはもちろん、
個々の曲のアレンジなんかについても、
積極的に口を出すようにはなりましたね。
そうやって、ずっと続いている感じです。
──
ここまでバンドをやってきて、
メンバーの関係性って変わるものですか。
結成当時から
まったく変わっていないバンドもあるし、
どんどん入れ替わるバンドもあるし、
まあ、いろいろだとは思うんですが‥‥。
──
ええ。
ぼくらの場合は‥‥前のギターが辞めて、
パーカッションが辞めたタイミングで、
管楽器や弦楽器をサポートに入れて、
いわゆるロックバンドとは
ちょっとちがう形態を一度はさみました。
──
そうですよね。
ロックバンドって「自由」なようでいて、
シンプルな編成であるぶん、
音楽的には、
不自由な部分もけっこうあるんですよね。
そこから、いちど離れたかったんです。
──
ロックバンドの、不自由?
それって、たとえばどういうことですか。
単純にメンバーにドラムがいる場合には、
ドラムの出てこない曲を、
たくさんはやりにくかったりしますから。
──
ああ、なるほど。
めちゃくちゃギラついた派手なギターを
持ってる人がいるのに、
ギターの入っていない曲ばかりできない。
──
ホントだ(笑)。
あるいは、音楽的な部分でも、
ドラム、ベース、ギターという編成って、
最もシンプルなスリーピース、
古典的なバンドスタイルじゃないですか。
そればっかりやってると、
ドラムとかベースの8ビートのリズムや、
ギターの伴奏なんかも、
どこか記号的になっちゃうと感じていて。
──
記号的?
言葉ではうまく言い表しづらいんですが。
──
いや、何となくわかります。音楽として
ぜんぜんちがうことや
まったく新しいことがしにくいみたいな。
それも、そうだし‥‥たとえばですけど、
人間が楽器を演奏する場合、
譜面には現れないヨレとか強弱が出ます。
シンプルな編成では、
そういう部分がとくに重要になるんです。
でも、そこで、
ロックを記号的に解釈してしまった場合、
音楽が機械的になって、
どんどんつまらないものになる気がする。
──
ただ譜面どおりに、上手にやるだけでは、
ダメだってことですかね。
楽器の上手い人、譜面を渡したら
すぐにボロロンと弾ける人は多いんです。
時間と労力をかけずに
高いクオリティで音を出してくれるけど、
でも、そのままで‥‥
つまりスタジオミュージシャン的な
メンタルのままで
ロックバンドに入ると浮いちゃうんです。
──
へええ‥‥。
ある種の記号性を帯びたままの状態だと、
バンドに入ったときに、
そこをすり合わせるのに苦労するというか。
──
それこそ、バンドの不思議さ、ですよね。
同じ8ビートでも、
そのバンド固有のリズムを刻んでる的な。
それは、あると思う。
いくら有能なフォワードが外から来ても、
テクニックだけでは機能しない。
チームの中での役割まで理解してないと。
──
サッカーで言えば。なるほど。
ライブでも、たとえばドラムのテンポが
速くなってしまったとき、
ギターは、ベースはどうするのか‥‥
瞬時に対応していかないといけないです。
で、対応していくためには、
日頃から準備しておく必要があるんです。
リハーサルもそうだけど、
ふだんからいろいろしゃべっている中で、
そこの意識を共有しておかないと。
──
ライブの現場でのバンドの「危機」って、
ぼくらは気づかないけれど、
微小な部分では、
いろいろ刻々と起こってるんでしょうね。
bonobosの音楽って、
構成が、どこか緻密な感じもありますし。
ほんのちっちゃな「異常」でも、
気づいたらリカバーしていく必要がある。
自分じゃ何もできなくても、
ただ「頼む!」って気持ちで歌ってたら、
後ろが汲み取ってくれたり。
──
付け焼刃の集団じゃできないことですね。
その、以心伝心的な支え合いって。
音楽って「時間の芸術」だから、
止まってしまったら、すべてが破綻する。
それは、あってはならないことなんです。
全員が、そう思ってる。
──
なるほど。音楽を止めないために。
ぼくらは、バンドは、必死にやってます。
音楽を止めないために。
たとえグズグズになったとしても、
全員が「絶対に、止めない」って意識で。

(つづきます)

2021-02-04-THU

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    写真:田口純也

    協力:酒場FUKUSUKE