キリスト生誕の地と言われる、
パレスチナ暫定自治区にある「ベツレヘム」。
そこで、15世紀からキリスト教徒によって
祈りを込めてつくられてきた、
「ベツレヘムパール」という美しい手工芸品があります。
巡礼者にとっては”お守り”のような存在。
しかし、希少品でなかなかみつかりません。
東京・東神田にあるヴィンテージボタン専門店「CO-」の
店主である小坂直子さんは、今年の1月にベツレヘムを訪れ、
ベツレヘムパールのボタンを復刻することを試みました。
小坂さんが長年追い求めた、念願のボタンのお話。
10月15日から、
「DELIな生活のたのしみ展」でもお目見えしますよ!

写真 | CO-(ベツレヘム)、池ノ谷侑花(商品)

>CO-さんプロフィール

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まるで工芸品のような、素敵なヴィンテージボタンを取り揃えている、東神田にあるヴィンテージボタン専門店「CO-」。小坂直子さんは買い付けを担当されています。

ヨーロッパを中心に、世界各地で買い付けたボタンを取り揃えていて、これまでMiknitsほぼ日手帳でもご一緒しています。繊細できれいなボタンは、服につけるだけでなく、ブローチにしたりリングにしたり、ジュエリーとしてのたのしみ方もCO-さんは提案されています。たったひとつの、お気に入りのボタンを見つけに、ぜひ店舗にも遊びに行かれてみてください!

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第一回 もう、つくれる人はいないかもしれない。

──
「ベツレヘムパール」の現物をはじめてみました。
なんてきれいなんでしょう‥‥。
存在感がありますね。

▲五芒星をかたどったブローチ。
 10月15日から「DELIな生活のたのしみ展」にて販売します。 ▲五芒星をかたどったブローチ。
 10月15日から「DELIな生活のたのしみ展」にて販売します。

小坂
とってもきれいですよね。
この精巧な透し模様は
すべて職人さんの手作業なので、
高い技術が必要なんです。
──
「ベツレヘムパール」というのは、
そもそもどこで、なんのために、
つくられていたものなんですか?
小坂
「ベツレヘムパール」はその名の通り、
パレスチナ暫定自治区にある「ベツレヘム」という場所で
15世紀から代々受け継がれてきた手工芸品です。

▲繊細なベツレヘムパールのボタンとキルトピン。
鳥と、百合の模様は
「DELIな生活のたのしみ展」にて初お目見えです。 ▲繊細なベツレヘムパールのボタンとキルトピン。
鳥と、百合の模様は
「DELIな生活のたのしみ展」にて初お目見えです。

──
小坂さんがベツレヘムパールを知った
きっかけは?
小坂
17、8年前にボタン屋になることを決めたときに、
イギリスのアンティーク屋さんでみつけました。
当時は、ベツレヘムパールのボタンだとわからず、
その価値や希少性もわからず、
ただ「すっごくきれい」だと思って買いました。
1年目だったから、
「こんなにきれいなモノに出会える仕事なんだ!
こういう素敵なものをどんどん見つけるぞ!」
って、能天気に考えてしまって、
その後すぐに、貝ボタンを集めていらっしゃる方に
譲ってしまったんです。
でも、これはアンティーク初心者あるあるで、
そういうものに限って
巡り会えないんですよ、もう二度と。
──
なかなか珍しいものだったぞ、と。
小坂
はい。そのあとに本で調べて、
譲ったボタンが「ベツレヘムパール」だと知りました。
今でもブローチはお土産品としてつくられているのですが、
ボタンは40~50年代につくられていたもので、
今はつくられていない。
蚤の市でも出回っていないんです。
ボタンにくわしい人に聞いて回っても、
「もうつくれる人はいないんじゃないか」って
言われてショックでした。
幻のボタンだったんだと思いました。
──
幻のボタン!

小坂
それならベツレヘムに行って、
実情を知りたいじゃないですか。
でも、行くのにも勇気が必要な場所なので
行きたい気持ちはあったけど、
後回しにしてしまって。
昨年のことですかね。
2020年はもっとおもしろいことをしたい、
今まで行けなかったところに行こうと決めて
真っ先に思いついたのがベツレヘムでした。
──
あてもなく行かれたんですか?
小坂
まったく、なにも。
インターネット環境が整っていない土地なので、
情報が外に出ていないんです。
ヨーロッパにいるボタン界のカリスマで、
私が師匠と仰いでいるロイック・アリオさんにも
「もうつくれる人はいないよ」と言われてしまって。
──
ベツレヘムパールに出会える可能性は、
いちかばちかだったんですね。
小坂
はい。どうしよう‥‥と思いながら、
とりあえず行かなきゃわからないし、
見つからなかったら残念、くらいの気持ちで行きました。
ボタンをつくっていたことはたしかだから、
最悪ヴィンテージのものが見つかればいいなって。

小坂
でも、行ってみたら、町のショップには
簡素な作りのブローチしかない上、
お土産感が半端ない。
「Bethlehem(ベツレヘム)」とか
彫られているんですよ。
ようやく見つけたビンテージものとなると、
ベツレヘムの人たちにとっても
「宝」みたいな扱いになっていました。
先代達が残した貴重なコレクションということで、
ヨーロッパの蚤の市で買うより全然高い。
──
現地の方が、価値が高かったんですね。
小坂
職人さんに会うのもほんとうに大変で。
コーディネーターさんも探してくださったり
私も事前に何軒かピックアップしたのですが、
情報が古くて、ほとんどの工房がなくなっていました。
産業が盛んだった頃は職人さんの工房が
300軒とかあったそうなんです。
でも、今はほんの数軒。
情報のない中、現地でなんとか
今回つくっていただいた
職人さんおふたりに出会えました。
──
出会えてよかったです‥‥。
小坂
おふたりに出会えたのはラッキーでした。
おひとりは、若い職人さんです。
はじめに訪れた工房の職人さんでした。
その前にいくつかお土産屋さんに寄って
ベツレヘムパールをチェックしましたけど、
そうとうイマイチだったんです。
もっと雑で、ステキさが足りなくて。
でも、彼の工房で作品をみせてもらったとき、
まだこんなにいいものがつくれるんだと感動しました。
ボリュームがあって、カッコいいんですよね。
──
たしかにベツレヘムパールの存在感が
強いように思います。
小坂
こういう手工芸品って、
やっぱり技術の伝承が難しい。
職人さんも高齢化しているので、
若い職人さんが頑張っているのは
とてもすてきなことですよね。
──
熟練職人さんのものは、
精密さが明らかに違いますよね。
小坂
このかたは、ベツレヘムパールの職人さんの中で、
いちばん上手な方なんだと思います。
40年以上お仕事をされていて、
経験もいちばんある方だと聞きましたし。

小坂
ベツレヘムパールって、
模様を彫る腕前はもちろんですが、
穴の数でも価値が決まるそうなんですね。
──
穴の数ですか。
小坂
若手の方と比べていただくと一目瞭然だと思うんですが、
穴の数が全然違うんです。
貝に小さな穴を開けて、そこから糸のこを通して、
ひとつひとつ柄を手作業でつくっていくので
それだけ手間もかかるし、技術も必要だし。
──
はあーー、なるほど。
どちらにもそれぞれの良さがありますよね。
小坂
おふたりともボタンはつくったことなかったんですよ。
ボタンがつくられていたのは相当昔だから、
「つくれるの?」って半信半疑な感じで。
でも、そこから一生懸命がんばってくれて、
とてもいいものができました。
うれしくて、ロイックにも自慢しちゃいました。
──
小坂さん念願のベツレヘムパールを。
小坂
はい。出来上がったものを買い付けるんじゃなくて
つくるところから関わることができて、
念願のきれいなベツレヘムパールのボタンが
できたと思います。

(つづきます。)

2020-10-06-TUE

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  • ベツレヘムパール買付けのようす、
    「あさイチ」でも見られます!

    今年4月に放映された『世界はほしいモノにあふれてる』。
    小坂さんが、ベツレヘムやヨーロッパでボタンを買い付ける旅の様子や、
    ボタンの歴史、面白さをたっぷり伝える番組だったのですが、
    10月7日の「あさイチ」内にて、
    この番組をぎゅっと濃縮したバージョンが放送されます。
    よろしければ、あわせてご覧になってくださいね。

     


     NHK総合テレビ「あさイチ」
    10月7日(水)午前8:15〜9:54

    臨時ニュースなどで放送予定が変更になる場合がございます。
    *『世界はほしいモノにあふれてる』のコーナーは

    9:05ごろからの予定です。 
    *放映後1週間は「NHKプラス」にて、  見逃し視聴が可能です。