世界各地のヴィンテージボタンを取り揃えている、
東京・東神田にある専門店「CO-」。
そのなかでも、昨年から力をいれているのが
「ベツレヘムパール」です。
これは、パレスチナ暫定自治区・ベツレヘムで作られた
マザーオブパール(白蝶貝)の工芸品のこと。
職人の手で彫られる、複雑で美しい模様が特徴的なことから
地名を冠した、この愛称で呼ばれています。
16世紀からキリスト教徒によって
つくられてきた希少な手工芸品ですが
現代ものでも出会うのは難しく、
さらにヴィンテージ品となると「街の宝」レベル。
なかなか世に出ないアイテムでしたが
「CO-」の店主・小坂直子さんは、
懇意にしている熟練職人ブロス・コムシィーエさんを通し
80年代のデッドストック品を仕入れることができました。

今回、奇跡的に見つかったヴィンテージ品のこと。
そして伝統の技を現代に受け継ぐブロスさんのことを
小坂さんに伺いました。

ほぼ日では、
この貴重なヴィンテージベツレヘムパールを
ネックレス、ブローチに仕立てたジュエリーと
小坂さんが「ベツレヘムいちの技術」と太鼓判を押す職人
ブロスさんの手による新作ピアス、イヤリングを
11月9日から販売します。

>CO-さんプロフィール

 プロフィール画像

まるで工芸品のような、素敵なヴィンテージボタンを取り揃えている、東神田にあるボタン専門店「CO-」。小坂直子さんは買い付けを担当されています。
ヨーロッパを中心に、世界各地で買い付けたボタンを取り揃えていて、これまでMiknitsやほぼ日手帳でもご一緒しています。繊細できれいなボタンは、服につけるだけでなく、ブローチにしたりリングにしたり、ジュエリーとしてのたのしみ方もCO-さんは提案されています。たったひとつの、お気に入りのボタンを見つけに、ぜひ店舗にも遊びに行かれてみてください。

CO-
〒101-0031 東京都千代田区東神田1-8-11 森波ビル1F
Tel & FAX : 03-5821-0170
営業時間:12:00-19:00 休業日:日・祝
https://co-ws.com/

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第二回

熟練職人だから作れる、芸術作品。

今回は、ヴィンテージ品のほかに
熟練職人・ブロスさんによるアイテムも
お届けすることになりました。
この販売のために作ってくださったデザインですが
透かし模様が細やかで、
ベツレヘムパールらしさをとても感じます。
小坂
この繊細さは、素晴らしいですよね。
ベツレヘムパールは
昔からほぼ変わらぬ手法で、
祈りを込めてつくられるものですが
巡礼者にとって”お守り”のような存在であることに
ブロスさんは誇りを持って作られている感じがします。
昨年はネックレスやボタンを作っていただきましたが、
今年はイヤリングとピアスです。
小さなデザインなのに、
模様がとても細かくて、綺麗‥‥!

小坂
私がベツレヘムの職人さんたちとお会いした中で、
ブロスさんはもっとも技術力が高いと感じました。
「マザーオブパール」とよばれる白蝶貝に
小さな穴をあけて、糸のこを通して
透かし模様を完成させていくのですが、
ブロスさんはものすごく細かい模様も作れるんです。
こんなに集中して、素早く作っていくんだと知れて
おもしろい動画でした。
小坂
結構早いですよね。
ただこのパーツは、小さいからとっても大変なはず。
今回は真ん中のモチーフだけリクエストして、
周囲の縁の模様はお任せしたのですが、
ここまで繊細な透かし模様を入れられるのは、
ベツレヘムでもブロスさんだけだと思います。
ブロスさんに期待して、いろんなデザインで
オーダーしたくなってしまいますね。
小坂
そうなんですよ。
今回はヴィンテージのベツレヘムパールで見つかった
「ハート」のモチーフを活かしてもらいたいと思ったのと、
ベツレヘムを代表する「星」のモチーフは
欠かせないかなと思って、オーダーしました。

ブロスさんは、
おいくつくらいなんですか?
小坂
今年で66歳になるそうです。
15歳からこの職業に就かれていて、
51年目だと聞きました。
まさに、熟練職人さんですね。
小坂
こんなに綺麗な模様を掘れるようになるまで、
人それぞれかかる時間は違っても、
大体10~15年ほど技術習得に時間がかかるそうです。
そんなに長い時間かかるんですか。
小坂
一通り作れるようになるのには、
それくらいかかるみたいですね。
それだけの年数をかけても全ての工程をできるとは限らず、
堪えられる若者がいないみたいで、
後継者が育ってないそうです。
どんな世界でも、同じ問題を抱えていますね。
小坂
すごく細かい作業が多いので、
ふつうなら引退をしている年齢だそうです。
目も悪くなっていきますしね。
だけどブロスさんは技術力もあるし、センスもある。
あと、彼はとにかくベツレヘムパールを作ることが
大好きでたまらないんだと思います。
作るのが大好きなんですか。
小坂
国同士で紛争が起こった時、
彼はとても落ち込んでいました。
だけど、「やっぱり自分は作っているのが好きだから、
こういう時こそ作りたい!」と一念発起したみたいで、
そんなタイミングでこのピアスとイヤリングを
お願いできたんです。
ああ、それはブロスさんにとっていいタイミングだったんですね。
小坂
はい。でも、これを作り終えて、
まだまだその熱が冷めなかったみたいで、
「こんなの作ったぞ!」って写真を
送ってきてくれたんですけど、それが、
驚くくらい大きなもので。
気軽に販売できるようなものではないんですけど。

ええ!これを作ったんですか?
小坂
すごいですよね。
芸術作品というか、
ブロスさんの技術力を感じました。
これは、キリスト降臨の様子を彫ったもので、
直径85センチもあるそうです。
すごいです!
全部貝ですか?
小坂
もちろん、ベツレヘムパールと同じ白蝶貝です。
虹色に輝く部分はパウア貝を使用しているそうです。
こんなに大きな貝はないので、
小さなものをたくさん作って、
貼り合わせているんです。
よく見れば見るほど、
とっても細かい技術に感動しますね。
小坂
時々、こういう連絡が入るんですよ。
「こんなの作ったぞ!」って、
とっても嬉しそうに連絡をくれるので、
本当に作ることが好きなんだなと思います。
この写真も、本人がすごくうれしそうじゃないですか?
うれしそうな表情で、いいですね。
どこか、美術館に置いたりするんでしょうか?
小坂
そういう場所は、ベツレヘムではなかなかないと思います。
今は観光客も来ないですし、
売るあてもないですよね。
だけど、作らずにはいられなかったんじゃないかなと
思います。
作らずにはいられなかった。
小坂
はい。
日本など海外で売れる機会があったらいいんですけどね。
大作なので、ミュージアムとか学校とか公共の施設とか、
たくさんの方が
みられるような場所に設置されたら嬉しいなと
個人的には思っています。
ブロスさんは、この作品を日本へ届けることが夢のようです。
せっかく作ったからには、報われてほしいんですが。
ブロスさんには長く続けてほしいですしね。
前回はどんな反響がありましたか?
小坂
手元に届いてからの感想で、
「綺麗で、癒されます」と言ってくださる方が多くて
うれしかったですね。
あと、「代々受け継ぎます」と言ってくださる方もいて、
大切に長く愛用してもらいたいです。
時代を選ばないアイテムなので、
受け継ぎたくなる気持ちはわかります。
お手入れ方法を聞いてもいいですか?
小坂
定期的なお手入れは、
真珠用の柔らかい「磨きクロス」で
拭いてあげるとツヤを保てます。
お店で先に受注販売会をしたのですが、
ブローチとイヤリングなど
お一人でいくつか購入される方もいて、
気に入ってくださっているんだなと思いました。
迷ったら買っちゃう、というのは共感しちゃうなあ。
ヴィンテージもブロスさんの作品も
いつでも購入できるものではないですしね。
小坂
特にヴィンテージは今のところ
これしかみつかっていないので希少だと思います。
みなさんがどんな風にたのしんでくださるのか、
とってもわくわくします。

(おわります。)

Staff List

写真|池ノ谷侑花(ゆかい)
スタイリング|CO- 、ほぼ日
モデル|元嶋奈津子(ほぼ日)
撮影協力|AWABEES

2021-11-05-FRI

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  • 2020年1月にベツレヘムを訪れた小坂さん。

    ベツレヘムパールとの出会いやその魅力、
    現地で職人を尋ね回った様子などについて
    ご紹介しています。