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2019年8月、阪急うめだの
「カレーとカレーのためのうつわ展」で、
水野仁輔さんと糸井重里が対談をしました。
「カレーの取調室」と題した
水野さんがさまざまなかたと
話をするトークイベントで、
この回は、カレーにくわしい水野さんが、
糸井重里に「カレーの恩返し」の秘密を
聞いていくというものでした。
このときの話がおもしろかったので、
ほぼ日編集バージョンでご紹介します。
- 水野
- はい、ということで「カレーの取調室」です。
本日の容疑者は糸井重里さんです。
- 糸井
- どうも、なんでも白状します(笑)。
- 水野
- 今日は前半がフリートーク、
後半は「カレーの恩返し」の秘密について
白状していただけたらと。
- 糸井
- わかりました。
- 水野
- ‥‥で、さっそく前半ですが、
まず糸井さんがカレーが好きということを
あまり知らない人がいるんじゃないかと。
- 糸井
- いや、好きでもないんじゃないの?
水野さんみたいな人に比べたらさ。
- 水野
- いやぁ、そうですか?
- 糸井
- 僕は穏やかですよ。
作ることもありますけど、
食べる頻度もそこまで多くないし。
- 水野
- ずいぶん控えめじゃないですか。
- 糸井
- そうですよ。
- 水野
- でも以前、カレー作りに
ものすごく凝っていたというお話を
聞いたような‥‥。
- 糸井
- 僕の場合は、そういった激しい時期もあり、
まったく何もない時期もあり、なんです。
混ぜてならすと、
だいたい普通のカレー好きくらいになる。
- 水野
- あ、なるほど(笑)。
- 糸井
- 僕がなにかにのめり込むときはそういう感じで、
さっきもうちのほぼ日のメンバーと
釣りの話をしてたんだけど、
僕はある時期、2年間で140回釣りしてたんです。
‥‥で、現在、ゼロですよ。
今でも釣りは趣味だと思ってますけど。
- 水野
- でもじゃあ、釣りにガーッと行くとか、
カレーにガーッと行くとかあるじゃないですか。
でも、行っちゃったあと、
どうしてちゃんと戻ってこれるんですか?
- 糸井
- ああ、僕はミイラ取りがミイラにならないですね。
- 水野
- 僕なんか戻れなくなった人代表ですよ。
カレーで戻れなくなっちゃった(笑)。
糸井さんが戻れるのは、どうしてですか。
- 糸井
- ‥‥それはやっぱり、
家族を愛してるからじゃないでしょうか。
- 水野
- えぇ? そんなこと言われると、
僕の印象が悪い(笑)。
- 糸井
- (笑)
- 水野
- 家族を愛することと関係ありますか、
戻ってくること。
- 糸井
- 鳥でいえばさ、お母さん鳥がどこかで
虫とかを捕ってきて、
巣にいるひな鳥とかにあげるわけじゃない?
で、お母さん鳥がもし、いつまでも
「あのコマドリはかわいいわ。
私も森に住んじゃおうかしら」
とか言ってたら、
餌をあげる人がなくなっちゃうじゃないですか。
で、たぶん僕はやっぱり、
自分は餌をあげる仕事をしなくちゃという
意識があるんで。
- 水野
- ほかの巣に行っちゃって
帰って来なかったりしたら、
もうダメですからね。
- 糸井
- ダメです、ダメです。
そういうのは若いときにやっとけばいいんで。
- 水野
- じゃあ、すこし違う話で、
糸井さんがそんなふうに釣りやカレーに
ガーッとのめり込んだとき、
飽きることはありますか?
- 糸井
- ぼくは何にしても、
飽きるはもう、すぐに飽きるんです。
だけど、飽きたと言っている
自分との付き合いは飽きないんですよ。
- 水野
- あ、なるほど。そうですね。
- 糸井
- 飽きてる自分に、もう一人の自分が
「どこに飽きたの?」とか聞いていると、
また次におもしろそうなことが見えてくる。
そうやって違う自分が見つかるから、
「飽きる」から離れられるわけですね。
- 水野
- そこはすごくわかります。
僕はカレーの世界で、
ずっとそういうことをやってきてるんです。
今、「東京カリ~番長」を立ち上げて20年で、
「20年間カレーのことばかりやって、
よく飽きませんね」
とか言われるんですけど、
僕は飽きっぽいから、片っ端から飽きてるんです。
でも、いろんなカレーと関わりがあるから、
ひとつのカレーに飽きても、
すぐに別のカレーに興味が出るんです。
だから外から見たら、
「あの人はずっとカレーだな」ってなる。
- 糸井
- そういうことですよね。
- 水野
- でもそれ、すごく共感するんですけど‥‥。
- 糸井
- ええ。
- 水野
- 実は僕は、いつか自分が、
カレーが好きな自分にも飽きるんじゃないか、
っていう恐怖心があるんです。
いま、そんな気配はまったくないけれども、
もしも将来、自分が
「カレーが好きな自分には飽きた!」
となったら‥‥終わりじゃないですか。
- 糸井
- ああ、そこは水野さんと僕の違いで、
僕はそういうのは恐怖じゃないから。
- 水野
- え? だって、どうするんですか。
- 糸井
- どうせ飽きるんだから。
- 水野
- いや‥‥どんな物事も飽きるかもしれないけど、
飽きたとき、どうすればいいんですか。
次にのめり込むものを
たくさん準備しておけばいいんですか。
のめり込んでも、また何かきっと見つかるからと
鷹揚に構えておけばいいんですか。
- 糸井
- 僕は別に、のめり込む対象がなくても
いいと思ってるから。
- 水野
- あ、そうですか。
- 糸井
- そう。カレーだって、僕も水野さんも、
何かが違えばのめり込まなかったかもしれない。
でも、いいじゃん、そんなこと。
のめり込む対象がなくても
元気にやってる人はいっぱいいるわけだから、
そこはどっちでもいいと思うんですよ。
- 水野
- まあ、なんとなく、わかります。
- 糸井
- たぶん水野さんも、もうちょっと年取ると、
「終わりだ」とか思わなくなるんで。
- 水野
- そういうものですか。
- 糸井
- うん。おそらくは。
趣味で、いろいろなものを集める人がいますよね。
たとえば根付(ねつけ)とかさ。
そうすると、いい根付が
だんだんわかるようになるわけだよね。
- 水野
- はい、はい。
- 糸井
- そしてだんだん、
「江戸時代の有名な職人さんが作った根付が
国立博物館にあるんだよ」
とか、なっていくじゃない。
だけど、そんな根付なんて買えないし、
手に入らないわけです。
そうすると「じゃあどうしよう」となって、
気持ちを横にずらして、
「俺はおかめばっかり集めるんだよ」とか、
「天狗ばっかり集めるんだよ」
とかになったりするんです。
それが本当におもしろくてやっているなら
何の問題もないんだけど、
追い詰められるような気持ちで
そんなことをしても、もう楽しくないんだよ。
- 水野
- ああー。
- 糸井
- だから、自分が楽しいと思えなくなったら、
やめちゃえばいいんだよね。
- 水野
- なるほど。
- 糸井
- たとえば「俺はすごくパンチが強いぞ」
ということを自慢にして、
生きてきた人がいたとするじゃない?
だけど70になったら、
やっぱりパンチは弱くなるんですよ。
でも、強く見せなきゃと思って、
若い人に「まだまだだ」とか言うとしたら、
そういうのって、
なにか違うような気がしない?
- 水野
- そうですね。
- 糸井
- だから、70になって本当にパンチが
弱くなったときには、
正直に「あ、俺はもう全然ダメ」って言うほうが
自然だ‥‥みたいなことがわかってくると、
「もうどっちでもいいや」ってなる。
僕、この数日、
横尾忠則さんと一緒にいたんだけど、
横尾さんはこれをもっと極端にした感じで(笑)。
- 水野
- なんか、でも、わかる気がします。
そして今日は
僕が糸井さんを尋問していくはずが‥‥。
- 糸井
- なぜか尋問される側のようなことに
なっちゃってますね(笑)。
(次回、ようやくカレーの話になります)
2019-10-11-FRI
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