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2019年8月、阪急うめだの
「カレーとカレーのためのうつわ展」で、
水野仁輔さんと糸井重里が対談をしました。
「カレーの取調室」と題した
水野さんがさまざまなかたと
話をするトークイベントで、
この回は、カレーにくわしい水野さんが、
糸井重里に「カレーの恩返し」の秘密を
聞いていくというものでした。
このときの話がおもしろかったので、
ほぼ日編集バージョンでご紹介します。
- 水野
- (小休止のあとで)さて、後半です。
実はいま、全国的に
「スパイスカレー」が流行っていて、
特にここ大阪はとんでもないことに
なってるらしいんです。
この人気、糸井さんとしては
どうしてだと思いますか?
- 糸井
- ジャンルというのは、考える人が増えていくと、
先が分かれていくものだと思うんです。
カレーも同じで、みんなが
「これよりこっちがおいしい」とか、
「あれはおいしかった」とか言ってるうちに、
広がってきたわけですよね。
- 水野
- そうですね。
- 糸井
- 少し前は辛さが話題になることが多くて、
「おまえ、20倍食べた?」
とか言ってたじゃない。
思えばあれは、スパイスカレーがはじまる
予告編だったわけですよね。
あのときは辛さばかり注目されていたけれど、
だんだんみんなが
「カレーって香りの部分もあるよね」
と考えるようになって、
カレーがすこし裸になったんだと思います。
- 水野
- で、スパイスに興味を持つ人が増えて、
深掘りする人が出てきたり、
要素ごとに好きな人が出てきたりして、
枝分かれの先がふくらみはじめて、
それがスパイスカレーが
盛り上がることにつながってきた‥‥と。
- 糸井
- ええ。
- 水野
- ただ僕には、ちょっと悩みがあるんです。
こんなふうにカレーが盛り上がって、
枝分かれした先にいろんな実が実りはじめると、
それぞれの人たち同士が
相容れなくなってくるんですよ。
元はみんな同じ「カレーが好き」だったのに。
それが少し、寂しくて。
- 糸井
- そういうこと、ありますね。
僕もそれはやっぱり、
つまんないことだなと思います。
- 水野
- たとえば、みんながカレーを
好きだったときはよかったけれど、
「欧風カレーとインドカレーは違うらしいぞ」
となると、欧風カレー派とインドカレー派が
相容れなくなっちゃう。
- 糸井
- うん、水野君はそのあたりを
いつも気にかけてきてますよね。
- 水野
- そうなんですよ。
これ、何かいい解決方法ないのかなと思って。
- 糸井
- もう笑いとばすことじゃない?
「そういうことってあんまりカッコよくないよ」
って。
- 水野
- そう、みんなが笑い飛ばすようになると
いいんですけどね‥‥。
- 糸井
- あと、いま、みんなが食レポみたいな
感想の言い合いをやるようになっちゃったけど、
やっぱり、おいしいときに素直にでてくる言葉は
「おいしい」だと思うんです。
だから、そういうことをふつうの人が
日常で、自信を持ってやればいいんだと思う。
- 水野
- 語るのもたのしいけど、
まずは「おいしい」という基本に
たちもどるというか。
- 糸井
- うん。勝手に自白を始めるんだけど、
僕はちょっと自分がカレーについて
おかしくなってた時期があるんですよ。
しょっちゅう食べて、
「こうすればもっとおいしいんじゃないか」
とかいろいろ工夫してた時期に、
変になってたんです。
水野さんには前に言ったけど、
家のカレーに漢方薬まで入れてたんです。
どうかしてますよね。
- 水野
- そうですね(笑)。
あと僕が「どうかしてる」と思ったのは、
カレーの隠し味として、
すっぽんスープを入れてたという。
- 糸井
- 当時の僕はすっぽんのだしが
一番おいしいと思ってたんで、
「これをカレーにも入れたらどうだ」とか、
やりにやったんです。
でも、ちっともいい結果にならない。
最初のころ、素直に作っていたもののほうが
おいしかったんです。
「寝床」って落語わかりますか、
あんなふうになってました。
- 水野
- つまり、おいしいのができたと
無理やり食べさせようとするんだけど、
みんなが
「もう懲りたよ、糸井さんのカレー」って(笑)。
- 糸井
- そうそう。
ただ、僕はみんなに食べさせる自信はなかったんで、
大体かみさんが迷惑してた。
- 水野
- 家の中だけでやってたんですね。
- 糸井
- で、大体かみさんが、
「おいしいかもしれないけどぉ」って。
『どぉ』のところに批判が入ってるわけです。
- 水野
- はい(笑)。
- 糸井
- そんなことをやっていて、
「自分のこのカレーとの付き合い方は、
どうかしてるかもしれないな」
って思いはじめたときに、水野さんが
僕の誕生日にカレーを作ってくれたんです。
- 水野
- はい、はい。ありましたね。
- 糸井
- そのとき水野さんが、
「僕なりのごちそうカレーを作りましょう」って
スーパーで普通に売っている
固形のカレールウを使って、
おいしいカレーを作ってくれたんです。
「材料は同じだけど、ちょっとしたコツで
こんなにおいしくなる」って。
そういうことをやってみせてくれたんです。
- 水野
- そうですね。
レシピは箱の裏の通りだけれども、
「玉ねぎ10分炒める」と書いてあったら、
僕のこのやりかたで炒めると特においしい、とか。
そういうことをことを全部やったんです。
- 糸井
- で、そのカレーを食べたら、あまりにおいしくて。
- 水野
- ありがとうございます。
- 糸井
- それが、生意気なことを言いながら食べていた
どこのどんなカレーより、おいしかったんです。
あれで、ビックリして。
そのとき「自分のカレー作りは、
『おいしい』とか『まずい』の話から
離れすぎたからダメなんだ」と思ったんです。
- 水野
- はい、はい。
- 糸井
- それで、水野君がやってくれたことを
自分なりに一からやってみようと思って、
「好きなスパイスの組み合わせを考えて、
固形ルウで作ったカレーに入れる」
という方法をやろうと思った。
- 水野
- ‥‥あ、それで「カレーの恩返し」という、
「仕上げのミックススパイス」
という方向に行ったんですか?
- 糸井
- そう。スパイス以外のことは、
人にあんまり押しつけられないから。
- 水野
- そういうことか。
- 糸井
- 僕がひとつ気づいてたことがあって、
カレーがおいしいと思ってる人は、
全員が「うちのカレーがおいしい」と言ってるんです。
その正体って、市販のカレールウなんですけど。
なのに、よそで食べるとおいしくないんです。
そして、こんなにみんなが頑固に
「うちのカレーがおいしい」と言ってるのを
変えさせるのは無理だと思った。
- 水野
- つまり、それだったら、みんなが
「うちのカレーが一番うまい」
と思ってるそのカレーを‥‥。
- 糸井
- もっとおいしくすればいいなと。
- 水野
- それで、この
「カレーの恩返し」が生まれたと。
- 糸井
- そうなんです。
- 水野
- はぁー、全然聞いたことなかったです、その話。
おもしろいです。
- 糸井
- で、「カレーの恩返し」誕生の話には
もうすこし続きがあって、
僕がそういう方法で作ったカレーを、
会社の子たちに食べてもらったら、
めちゃくちゃ受けたんです。
それで
「このおいしさはみんなに通用するんだ」
とも思ったし、
会社の子たちに「ほしいならあげるよ」って、
僕のミックススパイスを分けてあげたんです。
- 水野
- はい、はい。
作ったスパイスをおすそ分けして。
- 糸井
- さらに、その頃に東日本大震災があったんですよ。
そのとき、会社のみんなへの差し入れとして
カレーは喜ばれるから、作る回数が増えたんですね。
そしてスパイス自体、みんなにどんどんあげてたら、
必要な量が、自分が作れる量を超えちゃったんですよ。
- 水野
- ミックススパイスの量が。
- 糸井
- 僕、そのために上野のアメ横にある
スパイス屋さんから、
いろんなスパイスを1キロずつとか買ってたんだけど、
あまりに大勢ぶん作るから、足りなくなるわけです。
- 水野
- はい(笑)。
- 糸井
- 加えて、毎回ちょっとずつ仕上がりが違うのも
楽しいんですけど、
「とくに今日のはおいしかった」
と言われる日もあるし、
自分で「これはやったな!」というときがあって、
これはもう、決定版と言えるものを出して、
ブレないようにしたいと思って。
それで、どこかの工場に作ってもらおうと。
- 水野
- 確かに糸井さんがアメ横のスパイス屋から
スパイスを仕入れてきて自宅でブレンドしてるのは、
ちょっと無理がある話ですよね。
そういう仕事の人じゃないですし(笑)。
- 糸井
- 大変だったんですよ、夜中に。
‥‥で、製品化したのが
「カレーの恩返し」という商品なんです。
- 水野
- はぁー、なるほどなあ。
(つづきます)
2019-10-12-SAT
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