新型コロナウィルスによって
さまざまな催しが影響を受けた約3年、
演劇界の現場でも数々の試行錯誤があり、
それはいまもなお続いています。

その「現場」でのお話を
2021年からさまざまな方にうかがってきた
「コロナと演劇」シリーズ。
第7回にご登場いただくのは、
劇作家、演出家、俳優の
渡辺えりさんです。

コロナ禍の演劇に関して
ひとりの演劇人として、
そして日本劇作家協会の会長(2022年3月まで就任)として、
さまざまな活動をされてきた渡辺さんに、
いま演劇に思うことをお話しいただきました。

聞き手は、
演劇を主に取材するライター中川實穗が務めます。

(取材日:2022年11月15日16時)

>渡辺えりさんプロフィール

渡辺えり(わたなべ えり)

1955年、山形県生まれ。
劇作家・演出家・俳優。
企画集団「オフィス3○○(さんじゅうまる)」主宰。
1983年「ゲゲゲのげ」岸田國士戯曲賞受賞。
1995年「忠臣蔵外伝 四谷怪談」日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。
1997年「Shall we ダンス?」日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。

【今後の予定】
◎出演
『喜劇 老後の資金がありません』
2023年1月14日から28日まで京都・南座、2月1日から19日まで東京・新橋演舞場にて上演。

◎演出
COCOON PRODUCTION 2023『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』
作:テネシー・ウィリアムズ(『ガラスの動物園』) 別役実(『消えなさいローラ』)
演出:渡辺えり
2023年11月東京・紀伊國屋ホールほか、地方公演あり。

前へ目次ページへ次へ

第1回  演劇界が大揺れに揺れてしまった この3年間だったと思います。

――
2021年からコロナ禍の演劇について
お話をうかがってきた「コロナと演劇」シリーズですが、
今回で一区切りとなります。
最後は、「演劇緊急支援プロジェクト」をはじめ
コロナ禍の演劇界に力を尽くしてこられた
渡辺えりさんにお話をうかがえればと思いました。
どうぞよろしくお願いします。
渡辺
ありがとうございます。
コロナ禍で演劇界もずいぶん変わってしまいました。
いまは、コロナによる中止で上演できなくなった公演の
負債を抱えたまま活動しているところが多いと思います。
AFF(ARTS for the future!/コロナ禍を
乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)

という助成制度もせっかくできたのですが、
2022年12月までに実施される活動という
締め切りがあるので、
みんな「そこまでにやろう」と計画して
公演が目白押しになっちゃって。
それで劇場が1つも空いていなかったり、
計画をうまく立てられなかったり、
とりあえずやろうと走ってしまったり‥‥。
そういう、あちらが立てればこちらが立たず
という状況が長く続いてしまいました。
演劇界が大揺れに揺れてしまった
3年間だったと思います。
――
助成制度ができたはいいけれど、
現実的でないところがあるのですね。
渡辺
ただ、仕方がない面もあるので、
そこをあきらめないで説得していかないと。
制度をつくる側に演劇に詳しい人が少ないんですよ。
演劇が、すごく手間がかかって、
関わる人が多岐にわたっていることも
なかなか理解されにくいですし。

――
ああ、なるほど。
渡辺
演劇というもののつくり方って、
「この部署の人の仕事はこれ」というように、
きちっと割れないところがありますよね。
プロとアマチュアとその中間のような団体もあります。
全部がプロと同じようには区切れないんです。
だけどそのやり方だと、
助成金の申請をしようとすると難しい。
そういう演劇特有の構造を理解している専門家が
少なすぎるという現状があります。
――
うまく申請ができないと、
助成も受けられないですよね。
渡辺
そうすると、資金もうまく回らなくて、
演劇が自由にできないわけです。
例えば芸術家のゴッホは
弟のテオが資金を調達し、
金銭面をやりくりしていましたよね。
でも演劇の世界では、
そのテオの係りの人とゴッホの係りの人が
同じ人だったりするんです。
つまりゴッホが全部やってるようなもの。
だから時間もかかるし、
なんだか証明できないような部分も出てくる。
そういうことがこのコロナ禍のいろんなことで
浮き彫りになりました。
そういう意味では、いま演劇界は、
いろんなことを見つめ直す時期に
来ているのではないか、と思います。
――
見つめ直すというのは?
渡辺
私たちが若い頃、
国に助成金の制度を訴えに行ったりして、
助成金が出るようになりました。
劇場も増えたし、
以前よりは理解が出てきた、というところまでは、
なんとかこぎつけたと思います。
でも、じゃあこれから日本の演劇はどうするのか。
これからなにを選んでどうしていくのか。
ルールみたいなものを決めるのか決めないのか。
例えば演劇科のある大学を卒業した人だけが
プロの役者、というふうにしていくのか。
いろんな小劇団で育ってきた人を
これまでと同じように育てていくのか。
そもそも、そういうことを
決めなくちゃいけないのか、とか。

――
渡辺さんはそういったことを
ひとつひとつきちんと
決めなくちゃいけないとお考えですか?
渡辺
いえ、私はそうすべきじゃないように思います。
だって、例えば大学で学ばなければ
スタッフ・キャストが生まれないとならば、
日本独特の個性的な、
いろんな種類の俳優やスタッフも生まれないですよね?
日本には、歌舞伎もアングラも新劇もミュージカルも
さまざまな種類の演劇があるのですから。
――
だけど、そういうことを考えざるを得なかった
3年間だったということですね。
渡辺
そうですね。
と同時に、私自身にとってこの3年間は、
「自分が好きなこと」について
じっくり考える期間でもありました。
私は子供の頃に『ガラスの動物園』を観て、
こういう芝居をつくりたい、
と思ってこの世界に入りました。
だからいまそれを演出したいと思い、
いろんなところに働きかけて、
演出することになったり(2023年11月上演予定)。
高校の頃、山形の名画座で
『シベールの日曜日』という映画を観て、
こういう映画をつくりたいと思った。
その「映画監督になる」という夢も
これから具体的に目指そうと思っていたり‥‥。
なぜそういうことをやろうと思ったかというと、
やっぱり「平和への気持ち」なんです。
私は、みんなに明るい笑顔になってほしくて
芝居をやりたいと思ったわけですから。
自分自身が生きづらい人間でしたから、
自分と同じような人たちを
しあわせにしたいと思って演劇を始めたんです。
その原点に戻ろうっていうことを、
このコロナ禍で考えました。

(つづきます)

2023-01-25-WED

前へ目次ページへ次へ
  •  

     

    2023年1月14日~28日 京都・南座
    2月1日~19日 東京・新橋演舞場
    原作:垣谷美雨(中公文庫)
    脚色・演出:マギー

     

     

     

     

    <キャスト>
    後藤篤子:渡辺えり 
    後藤章:羽場裕一 
    後藤芳子:長谷川稀世 
    後藤勇人:原嘉孝 
    後藤さやか:多岐川華子 
    櫻堂志々子:一色采子 
    関根文乃:明星真由美
    城ヶ崎快斗:松本幸大(ジャニーズJr.) 
    神田克也:宇梶剛士 
    神田サツキ:室井滋 

    演劇」を「劇場」を知ってもらうために しつこく、ブレずに、くりかえす。

    誰かの人生のなにかに僕たちがなれたら。