ほぼ日にもときどき登場してくださっている
投資家の藤野英人さんはさいきん、
「ゲコノミスト」という活動をしているそうです。
Facebookでお酒を飲まない
下戸の人のグループを作ったところ、大盛況。
「飲まないことを選ぶ」という人の数が
今後増えていく可能性を感じ、
下戸ならではの文化を作れないかと
考えているのだとか。
そこで、同じくお酒を飲まない糸井に、
下戸としての話を聞きにやってきました。
なぜだか居酒屋で話している雰囲気もある(?)、
ふたりのゆるいおしゃべりをお届けします。
※藤野さんの最新刊『ゲコノミクス』に
収録された対談のほぼ日編集バージョンです。
藤野英人(ふじの・ひでと)
レオス・キャピタルワークス株式会社
代表取締役会長 兼 社長・最高投資責任者
1966年富山県生まれ。
1990年早稲田大学法学部卒業。
国内・外資大手投資運用会社で
ファンドマネージャーを歴任後、
2003年レオス・キャピタルワークス創業。
主に日本の成長企業に投資する株式投資信託
「ひふみ投信」シリーズを運用。
JPXアカデミーフェロー、
明治大学商学部兼任講師、
東京理科大学上席特任教授。
一般社団法人投資信託協会理事。
最新刊である
『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(日本経済新聞出版)
のほか、
『お金を話そう。』(弘文堂)、
『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)
『投資家が「お金」よりも
大切にしていること』(星海社新書)、
『投資レジェンドが教えるヤバい会社』
(日経ビジネス人文庫)など著書多数。
<ほぼ日での登場コンテンツ>
・どうして投資をするんだろう?
・恋と投資
・理解力と人格。
─いま「一緒にはたらきたい人」とは?
- 藤野
- 下戸って大きなマイノリティなのに、
下戸同士で集まるとかってないでしょう?
それで2019年6月、Facebookに
下戸のグループを作ったんです。 - そうしたら、言いたいことがある人が
ずいぶんいたみたいで、参加人数が一気に増えました。
冗談のように「ゲコノミスト」と呼んだら、
ゲコノミスト宣言をする人がたくさん出てきて、
下戸の世界が想像以上に奥深いことがわかりました。 - それで「ゲコノミスト」の記事を
マネー現代オンラインに書いたら、
また人が増えて、新聞から取材が来て
特集記事になったりもして、
とても広がりがあるテーマだなと思ったんです。
- 糸井
- たしかにそうですね。
- 藤野
- あと最近は「飲めない」じゃなくて、
「飲まない」という選択をする人が
増えてきてるんですよ。
- 糸井
- 運転してる人はそうなりますね。
- 藤野
- はい。だけどそれだけじゃなくて、
健康のためとか、仕事するためとか、
時間を作りたいとか、頭をクリアに保ちたい
といった理由で
飲まないことを積極的に選ぶ人が
増えているようなんです。 - そして「卒酒」「断酒」「節酒」といった
言葉も出てきていて。
- 糸井
- 言葉が生まれてるんだ。
- 藤野
- そうなんです。
また、シラフって英語で
「Sober(ソーバー)」と言うんですけど、
近年アメリカやヨーロッパでは
「Sober Curious」という
「酒が飲めてもあえてシラフでいく」
という人々が出てきてるんですね。 - 「Sober Bar」という
ノンアルコールのカクテルだけが揃うお店も
登場しているそうです。 - ほかにも「Dry January」って、
「1月はなるべく酒を飲まないでおこう」
ということばが広まっていたり、
世の中的に
「酔うのもいいけど、酔わないことも大切にしよう」
という流れが大きくなっているのを感じるんです。
- 糸井
- へえー。
- 藤野
- この下戸の人のマーケットは、
これからどんどん大きくなる気がするんですね。 - Facebookの「ゲコノミスト」グループも
いま3000人くらいるんですけど(※)、
いまも毎日積極的にやりとりがされていて。
※2020年1月時点。
2020年7月現在の参加人数は4000人。
- 糸井
- 3000人。
- 藤野
- そうなんです。
そしてそのやりとりのなかで、
「下戸」にもいろんな種類があることが
わかりました。 - 多いのはもちろん
「体質的に飲めないから飲まない」
という人ですね。
だけど「飲めるけど飲まない」という人も
けっこういるんです。
単純に味が嫌いとか、妊娠や育児で飲まないとか、
病気をきっかけにやめたとか。
さきほどの運転で飲まない人もそうですね。
- 糸井
- ええ。
- 藤野
- ただ、糸井さんも下戸ということで
わかると思うんですけど、
レストランでお酒のリストを渡されたとき
「飲めないので要りません」と答えると、
店員さんからチラッと
「客単価が低いやつだ」という
顔をされた気がするときがあるんですよね。
それがちょっと悔しくて。
- 糸井
- ああ(笑)。
- 藤野
- 下戸としては、ケチってるわけでは
ないわけです。
「ノンアルコールのいいドリンクがあったら
注文するのにな」とも思ってますから。
だけど高級店であっても、
ソフトドリンクの選択肢って
基本的にはあまりない。
それでついついウーロン茶の
がぶ飲み大会になるというか。
- 糸井
- 飲まなくてもいいのにね(笑)。
- 藤野
- で、いま、強制的な「一気」などの
アルハラ(アルコールハラスメント)は
さすがにすごく減ってきてはいます。
だから下戸の人たちにとって、
10年前、20年前よりは、
だいぶ過ごしやすくなってきています。 - とはいえ「飲めそうなのに」と言われて
ちょっと寂しくなったり、
「人生の半分くらい損してるね」と言われて
「けっこうたのしんでるんだけどな」と
思ったりすることは、まだまだある。 - 居酒屋でお茶にストローがささっていることに
心がチクッとしたり、
「下戸のやつは出世しない」という言葉に、
実際はそんなことないはずなのに傷ついたり‥‥。 - だから「下戸もいいよね」という価値観が広がって、
さらにノンアルコール飲料の市場がもっと増えて
下戸が選べるおいしいドリンクが増えたりすれば、
世の中のいくらかの人が
過ごしやすくなるのになという思いがあるんです。
- 糸井
- それで今日のお話があるわけですね。
- 藤野
- はい。それで糸井さんと一緒に
下戸談義をやりたくて。
この話を飲まずにやるのも下戸っぽいので。
- 糸井
- これ、飲みながらやったらおかしいですよね(笑)。
「気持ち悪くなったんで、
ちょっと休んでいいですか」とかって。
- 藤野
- ですよね(笑)。
- 糸井
- ただ、あの‥‥ぼくは本当に曖昧というか、
特に主張のない下戸なんですね。
酒を飲む人に対して、
基本的には何も思っていないんです。
藤野さんがいま、迫害の歴史を
語ってくださいましたけど(笑)、
ぼくは迫害されたとは思ってなくて。
「俺は俺で勝手にしてるから」のつもりがあって。
- 藤野
- あぁ、いいですね、いいですね。
- 糸井
- 地方での食事とかで、どんどんお酌に来られて、
「飲めないんです」と
言いつづけなきゃいけないときには、
ちょっと辛いなと思うこともあります。 - けど注がれる場所って、基本的には
ゲストとしてそこにいるから
「飲みません」と言えばそれで通るんです。 - 自分としてはそれで通してきたので、
特に意識せずに済んでしまってるんですね。
「下戸」って言葉も意識してないくらいで。
- 藤野
- ああ。
- 糸井
- ただあえて言うなら、昔から残念なのは、
おいしい料理を出す居酒屋に入りにくいことですね。
酒が中心じゃないんだけど
おいしい店ってたくさんあって。
- 藤野
- ありますね。
- 糸井
- そういうお店がいま、昔以上に
お酒を飲むお客さんを当てにして
営業するようになっていて。
業態がどんどん「居酒屋食堂」の形に
変わっているわけですね。 - だから1人で地方に行ったときとかに、
予約せずに入れるような
ちょうどいいごはんの場所がないんです。 - フラッと入れたら良さそうな
おいしそうなおでん屋とか、いっぱいあるんですけど
「飲めるやつと一緒にいないとな‥‥」
などと感じてしまって、
飲めたら都合がいいんだけどな、とは思っています。
- 藤野
- はい、はい。
- 糸井
- だからぼく自身は迫害の歴史はないけど、
「快楽として損してる感じ」はすこしあるかな。
特にまた、酒飲みの好きなものって、
ぼく、好みなんですよ(笑)。
- 藤野
- ええ(笑)。
- 糸井
- でも同時に、ぼくとしてはやっぱり、
お酒を好きな人たちに対する憧れは
持ったままでいたいと思っているんですね。 - たとえば飲む人たちがワインリストを見ながら
どれにしようか考えている時間とか、
お店の人に
「さっきはあれを飲んだから、
今度はちょっと辛口のを持ってきて」
とか言うのって、
明らかにたのしみが多いじゃないですか。
自分はやらないですけど。
あれに憧れる気持ちはあって。
- 藤野
- わかります。憧れますよね。
- 糸井
- 昔、黒人の子どもが楽器屋にある
トランペットを眺める
コマーシャルがありましたよね。
あんなふうに憧れるのって、
ぼくはある意味、持たざる者の
幸せのひとつの形だと思うんですよ。 - だからぼく自身は
「飲めたらいいのになぁ」って心は、
永遠に持っていたいと思ってます。
- 藤野
- なるほど、なるほど。おもしろいです。
- 糸井
- だからぼくはそういう、ちょっとひねくれて、
さらにもう一回ひねくれ直してる
みたいなところがあって(笑)。
逆に言うと、とても素直に生きてる現状ですね。
- 藤野
- ああ、いいですね。
(つづきます)
2020-07-13-MON
-
藤野英人さんの最新刊
ゲコノミクス
巨大市場を開拓せよ!藤野英人・著
(日本経済新聞出版、2020年)今回の記事のきっかけになった、
藤野英人さんの最新刊。
対談で話されている内容について、
よりくわしいデータや具体的な事例、
「ゲコノミスト」グループからの
声などを知ることができます。