一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。
- はじめまして。
ピクセルアーティストのmaeと申します。 - このたびは「ほぼ日刊イトイ新聞」で、
作品が完成するまでの3ヶ月間、
週に一度のペースで連載することになりました。
どうぞよろしくお願いします。 - さっそくですが、自己紹介も兼ねて、
これまでにつくった作品をいくつかご紹介します。
- 普段ぼくはピクセルアートの風景画を描き、
ループするアニメーションを制作しています。
モチーフはいままで見てきた景色が
組み合わさっていたり、
心象そのものだったりまちまちです。ループさせることで、
絵の中でいつまでも世界が続いているような
感覚になれるのが好きです。
作品の細部をよく見ていただくと‥‥。
- すべて小さな正方形で
構成されているのが見えますでしょうか?
- 電線にとまっているスズメたちは、
4つのピクセルで表現しています。
(動きによって3だったり、2だったり)
わからないけどわかるような、
わかるけどわからないような‥‥。
そんなバランスを行き来しながら、
最小限にデフォルメして描くのは楽しいですし、
ディティールを描き込むのもまた楽しいです。 - デジタル画像の最小単位のことを
「ピクセル」と呼びます。 - 1ピクセルに対して配置できるのは1色。
そのようなデジタル上のミクロの世界の中で、
ピクセルアートは制作されています。
(ピクセルアートはドット絵とも呼ばれます)
ぼくがピクセルアートを描くに至った経緯は
紆余曲折ありました。 - もともとぼくは小学校教諭をしていました。
教諭の仕事は大好きだったのですが、
同じくらい「音楽」が好きだったぼくは、
表現で人を幸せにする仕事への憧れが捨てきれず、
4年目には教諭を辞める決意をしました。
(当時はレコーディングエンジニアになりたい
と言って退職届を出しました。校長先生、すみません) - しかし、ちょうど退職の時期になると
コロナウイルスが世界中で拡大し、
日本もパンデミックに差し掛かりました。
そして時を同じくして祖父が亡くなってしまい、
ぼくは気持ちを落ち込ませていました。 - 沈んだ自分の気持ちを励ますように、
ぼくはこそこそと音楽をつくりはじめました。
同じような辛い思いをしている人にも
聴いてもらえるといいなぁ‥‥と思い、
できあがった曲をYouTubeにアップしました。
そうだ、せっかくアップするなら、
何かアートワークもあった方がいいよな‥‥、
なんて思いながらふと浮かんだのが
「ピクセルアート」でした。
なぜピクセルアートだったんだろう?
いま思うと不思議です。 - いざその場所に戻れなくなると、
いままでそこにあった幸せが、
浮かび上がって見えるときがあると思います。
そのときのぼくは、
戻れない場所だらけになってしまった世界に、
たぶん寂しさを感じていたのだと思います。
そういう状態でいたから、
ピクセルのもつ優しい懐かしさに
惹かれていったのかな‥‥と。
- 右も左もわからないままピクセルアートをつくり、
やっとの思いで完成させ、
その絵と音楽をSNSに投稿しました。
するとそれを見てくれたある方から、
「絵を描いてほしい」という依頼が来ました。
当時は「依頼」という文化さえ知らなかったので、
かなり驚きましたが、とにかくうれしかった。
あの瞬間から人生の方向が、
すこしずつ変わっていったような気がします。
- そのあとは、作品コンペで大賞をいただいたり、
いろいろなアーティストのMVを制作したり、
NFTを通して海外の人たちとつながったり、
ギャラリーで個展をさせていただいたり‥‥、
夢中で、転がるように活動をつづけていまがあります。 - 教諭としての最後の年、
ぼくは6年生の担任だったのですが、
卒業式で子どもたちが歌う予定だったのが、
ゆずさんの『友~旅立ちの時~』という曲でした。
残念ながら、この年はコロナウイルスの影響で
予定が大幅に変更され、
その歌声を卒業式で聴くことは叶いませんでした。 - なのでその数年後、
ゆずさんのMV制作の話をいただいたときは、
不思議なご縁を感じずにはいられませんでした。
- 音楽家も、絵を描く人も、学校の先生も、
きっと目の前の人や遠くの人に
「笑顔になってほしい」「幸せになってほしい」
という思いがあると思います。
ピクセルアートをつづけていくなかで、
すこしずつ「絵を描く」ことが、
自分にとっても自然に思えるようになってきました。 - 最近は小学校におじゃまして、
ピクセルアートのワークショップを開いたり、
中国の子どもたちに、
オンラインでピクセルアートを教えたりしています。
ここまで紆余曲折していた道にも、
それなりに意味があったかのかもしれません。 - ちょっと長くなってしまいましたが、
自己紹介はこれくらいにさせていただきます。
読んでいただきありがとうございました。 - 次回からはどのような流れで
ピクセルアートが完成していくのか、
ネタ集めのところからはじめる予定です。 - 普段絵を描かない方にとっても、
読んで楽しいと思ってもらえるような、
そんな連載にできたらといいなと思っています。
(最終的に「自分も何かやってみたい!」と
思ってもらえたらうれしいなと思います)
3ヶ月間、お付き合いよろしくお願いします。 - ではまた次回!
(つづきます)
2024-05-16-THU