一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。

>Yosca Maeda(mae)さんのプロフィール

Yosca Maeda(ヨスカ・マエダ)

ピクセルアーティスト

1993年生まれ。
神奈川県出身。元小学校教諭。
現在は主にMV(CDジャケット)、
CM等で映像作品やループGIFを中心とした
ピクセルアートを制作している。
「Shibuya Pixel Art Contest 2020」最優秀賞受賞。
2022年にリリースされたゆずの『ALWAYS』では、
全編ピクセルアートのMVを制作して話題に。
2024年12月より活動名を
maeからYosca Maedaに変更。

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01 ピクセルアートの世界へ 

 
はじめまして。
ピクセルアーティストのmaeと申します。
このたびは「ほぼ日刊イトイ新聞」で、
作品が完成するまでの3ヶ月間、
週に一度のペースで連載することになりました。
どうぞよろしくお願いします。
さっそくですが、自己紹介も兼ねて、
これまでにつくった作品をいくつかご紹介します。

『Sleepy Laundry』2021年制作(450 × 450pix)
『Sleepy Laundry』2021年制作(450 × 450pix)

『Sunny Delights』2022年制作(480 × 270pix) 『Sunny Delights』2022年制作(480 × 270pix)

『海に落ちたピアノ』2022年制作(480 × 270pix) 『海に落ちたピアノ』2022年制作(480 × 270pix)

『街の群像』2022年制作(480 × 270pix) 『街の群像』2022年制作(480 × 270pix)

『Everything Will Be Fine』2022年制作(480 × 270pix) 『Everything Will Be Fine』2022年制作(480 × 270pix)

 
普段ぼくはピクセルアートの風景画を描き、
ループするアニメーションを制作しています。
モチーフはいままで見てきた景色が
組み合わさっていたり、
心象そのものだったりまちまちです。ループさせることで、
絵の中でいつまでも世界が続いているような
感覚になれるのが好きです。
作品の細部をよく見ていただくと‥‥。

 
すべて小さな正方形で
構成されているのが見えますでしょうか?

 
電線にとまっているスズメたちは、
4つのピクセルで表現しています。
(動きによって3だったり、2だったり)
わからないけどわかるような、
わかるけどわからないような‥‥。
そんなバランスを行き来しながら、
最小限にデフォルメして描くのは楽しいですし、
ディティールを描き込むのもまた楽しいです。
デジタル画像の最小単位のことを
「ピクセル」と呼びます。
1ピクセルに対して配置できるのは1色。
そのようなデジタル上のミクロの世界の中で、
ピクセルアートは制作されています。
(ピクセルアートはドット絵とも呼ばれます)
 
ぼくがピクセルアートを描くに至った経緯は
紆余曲折ありました。
もともとぼくは小学校教諭をしていました。
教諭の仕事は大好きだったのですが、
同じくらい「音楽」が好きだったぼくは、
表現で人を幸せにする仕事への憧れが捨てきれず、
4年目には教諭を辞める決意をしました。
(当時はレコーディングエンジニアになりたい
と言って退職届を出しました。校長先生、すみません)
しかし、ちょうど退職の時期になると
コロナウイルスが世界中で拡大し、
日本もパンデミックに差し掛かりました。
そして時を同じくして祖父が亡くなってしまい、
ぼくは気持ちを落ち込ませていました。
沈んだ自分の気持ちを励ますように、
ぼくはこそこそと音楽をつくりはじめました。
同じような辛い思いをしている人にも
聴いてもらえるといいなぁ‥‥と思い、
できあがった曲をYouTubeにアップしました。
そうだ、せっかくアップするなら、
何かアートワークもあった方がいいよな‥‥、
なんて思いながらふと浮かんだのが
「ピクセルアート」でした。
なぜピクセルアートだったんだろう?
いま思うと不思議です。
いざその場所に戻れなくなると、
いままでそこにあった幸せが、
浮かび上がって見えるときがあると思います。
そのときのぼくは、
戻れない場所だらけになってしまった世界に、
たぶん寂しさを感じていたのだと思います。
そういう状態でいたから、
ピクセルのもつ優しい懐かしさに
惹かれていったのかな‥‥と。
 
右も左もわからないままピクセルアートをつくり、
やっとの思いで完成させ、
その絵と音楽をSNSに投稿しました。
するとそれを見てくれたある方から、
「絵を描いてほしい」という依頼が来ました。
当時は「依頼」という文化さえ知らなかったので、
かなり驚きましたが、とにかくうれしかった。
あの瞬間から人生の方向が、
すこしずつ変わっていったような気がします。
 
そのあとは、作品コンペで大賞をいただいたり、
いろいろなアーティストのMVを制作したり、
NFTを通して海外の人たちとつながったり、
ギャラリーで個展をさせていただいたり‥‥、
夢中で、転がるように活動をつづけていまがあります。
教諭としての最後の年、
ぼくは6年生の担任だったのですが、
卒業式で子どもたちが歌う予定だったのが、
ゆずさんの『友~旅立ちの時~』という曲でした。
残念ながら、この年はコロナウイルスの影響で
予定が大幅に変更され、
その歌声を卒業式で聴くことは叶いませんでした。
なのでその数年後、
ゆずさんのMV制作の話をいただいたときは、
不思議なご縁を感じずにはいられませんでした。
 
音楽家も、絵を描く人も、学校の先生も、
きっと目の前の人や遠くの人に
「笑顔になってほしい」「幸せになってほしい」
という思いがあると思います。
ピクセルアートをつづけていくなかで、
すこしずつ「絵を描く」ことが、
自分にとっても自然に思えるようになってきました。
最近は小学校におじゃまして、
ピクセルアートのワークショップを開いたり、
中国の子どもたちに、
オンラインでピクセルアートを教えたりしています。
ここまで紆余曲折していた道にも、
それなりに意味があったかのかもしれません。
ちょっと長くなってしまいましたが、
自己紹介はこれくらいにさせていただきます。
読んでいただきありがとうございました。
次回からはどのような流れで
ピクセルアートが完成していくのか、
ネタ集めのところからはじめる予定です。
普段絵を描かない方にとっても、
読んで楽しいと思ってもらえるような、
そんな連載にできたらといいなと思っています。
(最終的に「自分も何かやってみたい!」と
思ってもらえたらうれしいなと思います)
3ヶ月間、お付き合いよろしくお願いします。
ではまた次回!

(つづきます)

2024-05-16-THU

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