一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。

>maeさんのプロフィール

mae(まえ)

ピクセルアーティスト

1993年生まれ。
神奈川県出身。元小学校教諭。
現在は主にMV(CDジャケット)、
CM等で映像作品やループGIFを中心とした
ピクセルアートを制作している。
「Shibuya Pixel Art Contest 2020」最優秀賞受賞。
2022年にリリースされたゆずの『ALWAYS』では、
全編ピクセルアートのMVを制作して話題に。

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02 漂流

 
こんにちは。maeです。
今回はピクセルアートを描く前の準備として、
普段どんなことをしているのかをご紹介します。

『Drifter』2022年制作(480 × 270pix) 『Drifter』2022年制作(480 × 270pix)

 
この作品のタイトルは「Drifter」です。
日本語で「漂流者」という意味なのですが、
まさにぼくが絵を描く前に
よくおこなっているのが「漂流」です。
自分の作品にとっては、
とても大事にしているテーマのひとつです。
ぼくの作品の中に描かれる、
道路標識、給水タンク、コンビニ看板、
集合住宅、野良猫、処理場の煙‥‥。
これらは自分が世界を漂流する中で見てきた
「普遍的な温かさ」を感じるものです。
何が自分にそう思わせるのか、
言葉にするのは難しいのですが、
そんな感覚のかけらを拾い集めるために、
意識的に「漂流」する時間をとるようにしています。
実際の行為としては「散策」に近いですが、
自分や他人、人生について考えながら、
風や音をよく感じて、行き先を決めずに、
ぼんやりとまわりの風景を見るイメージというか‥‥。
それをぼくは勝手に「漂流」と呼んでいます。
漂流で向かう先は、
知っている場所でも知らない場所でも、
どちらでもかまいません。
普段の感覚と切り分けて、
素直なほんとうの自分に戻った状態で見ると、
そこにある「良さ」が見えてくるような気がします。
また、何気ないものの良さに気づけるように、
自分自身も意味や理由にあまりとらわれず、
偶然存在しているイメージでいます。
(逆にそれ自体に思考がとらわれないようにもします)
そんな漂流の途中で
何気なく撮った最近の写真をいくつか、
フォルダの中から紹介します。

▲真っ直ぐ伸びる影。 ▲真っ直ぐ伸びる影。

▲賑やかで狭い路地。 ▲賑やかで狭い路地。

▲懐かしいじょうろ。 ▲懐かしいじょうろ。

▲ペットボトルで作られた風車。 ▲ペットボトルで作られた風車。

▲団地に空の青が溶けて綺麗だった。 ▲団地に空の青が溶けて綺麗だった。

▲日陰から見る日向。 ▲日陰から見る日向。

▲青と赤の空。 ▲青と赤の空。

▲夢の中みたいな道 ▲夢の中みたいな道

▲祖母の家の玄関先から見る空。 ▲祖母の家の玄関先から見る空。

 
こんな風に何気なく記録しています。
「普通に写真撮ってるだけじゃない?」と言われたら、
その通りかもしれませんが‥‥。
そして後になって、
自分の中で咀嚼された風景がふと思い浮かんだら、
忘れないうちにノートにささっと走り描きします。
細かい部分が削がれて、
自分の中で何が印象に残っているのか、
何を描きたいと思っているのかが、
そのときになんとなく見えてきます。

 
最近は手のひらサイズのノートを使っています。
「ポケットに入れて持ち運べる」
「いつでもすぐ取り出せる」
「小さくてそんなに描き込めない」など、
そんなあたりが気に入っています。
こうしたラフの段階までは、
アナログな方法で考えることが多いです。
写真の最後に出てきたぼくの祖母の家は、
小さな路地を入ったところに玄関があって、
そこから見える細い空の向こうに、
昔はツタだらけの大きな建物がありました。
それが子供のころはとても印象的でした。
最近撮影している写真を見ても、
日陰から日向を見ているものが多いので、
なんとなくそういう陰影が、
いまいちばん描いてみたいものなのかもしれません。
まだいろいろアイデアを練っているところですが、
そのあたりの「陰影」というモチーフが、
今回の絵のテーマになりそうな気がします。
ということで、
このつづきはまた次回。
次からはデジタル上で作業をすすめます。
それではまた!

(つづきます)

2024-05-23-THU

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