一枚の絵が完成するまでの過程を、
作家本人が解説するシリーズの第3弾。
今回はピクセルアーティストの
maeさんに連載していただこうと思います。
延々とつづく無限ループの世界。
やさしく、なつかしく、
どこか夢の中のようなおぼろげな風景。
maeさんのピクセルアートは、
どのようにして生まれているのでしょうか。
テーマ探しから完成までの3ヶ月間、
毎週木曜日に更新します。
- 1週間、完成した絵を眺めていました。
- 見つづけていると、
「ちょっとここが気になるなぁ、
もっとこうしてみたらどうなるかなぁ‥‥」
という気持ちが無限に湧いてきて、
見わけがつかないような細かい修正を
延々とおこなっていました。
これで完成の奥の、さらなる完成としたいと思います。 - あらためて、絵ができました。
- 最終回ということで、
今日はこの3ヶ月間の感想を
書かせていただきたいと思います。 - 連載を通して見ていただいたように、
ぼくの絵は小さな記憶のかけらの中に眠る
「火」のようなものがきっかけであることが多いです。 - そのときの世界(外)と自分(内)の
即興的な摩擦が生み出した火に薪を焚べて、
普遍的で大きな火に
置き換えようとしているようにも思えます。
絵を描くという行為は、
自分にとってそういうものなのかもしれません。 - そんな小さな記憶のかけらの中に眠る「火」は、
誰もが心の中にもっているものだと思います。
それをこうして作品に昇華することで、
それぞれの角度から、それぞれの記憶とつながる
きっかけになり得るのではないかと考えます。 - 川崎のおばあちゃんに
何度もまわさせてもらったガチャガチャに、
じいじいに連れていってもらった映画と
その帰り道に買ってもらったストラップに、
あーちゃんがいつも別れ際に握ってくれた手に、
父さんが仕事帰りに
店をまわって探してきてくれたゆび人形に、
母さんが「継続は力なり」を体現して
いつも背中を押してくれた日々に。 - 個人的な言い方をすれば、
ぼくの中のそういう小さな記憶が、
いまの自分をつくっているのと同時に、
いまにも忘れてしまいそうな
たくさんの小さな記憶のかけらたちが、
明滅しながらも心の奥にちゃんと存在しています。 - 自分の絵を見ていただくことで、
そういう名付けようのないものたちを
柔らかく灯して交歓できたなら、
それは懐かしさの共有だけに留まらない
温かいことのように思いました。 - ピクセルの明滅する
信号のようなアニメーションには、
そうした感情の明滅とリンクする
不思議な魅力があるような気がします。 - そういえば連載の途中で、
「いい絵って何なんだろう」という話をしました。 - いま考えてみても
「これだ!」というのは難しいです。
ただ少なくとも、
技術的なよさと精神的なよさは別にあります。
上手な絵でも心がこもっていなければ、
心がこもっていても伝わる工夫がなければ、
何かが足りなくなってしまうと思います。 - 素晴らしい人間でなければいけない、とか、
上手くなければ駄目だという話ではありません。
真剣に向き合う。精一杯できることをやる。
動いて、考えて、見つめつづけることが、
やっぱり大切なのではないかなと思うのです。 - 例えば、ぼくはまだまだ未熟ですが、
それでもピクセルアートをはじめた頃と比べれば、
技術的に多少はよくなったと思います。
では、当時の絵がいまより劣るかというと、
決してそんなことはないように思えます。 - その頃の世界と自分のリアルな摩擦、
考えたこと、向き合った時間、当時の技術。
それらすべての重なりが
作品として表れるのだと思います。 - もし初期の絵をいま描き直すとしたら、
絵としての体裁は整うかもしれませんが、
当時のぼくがもっていた瑞々しさとは別の、
どこか雰囲気の違うものになると思います。 - 同じひとりの人間でも、
そのときにしか表現できないことがあって、
そのリアルは作品に内包される。
それくらい、作者と、作品は、
一期一会のものなのだと感じています。 - そうやって思うと、
制作の道中がたとえ苦しいものだとしても、
「これからどんなものと出会って、
どんな表現を自分はしたくなるんだろう」
ということに胸をはずませていたいです。 - あらためて、ここまでの3ヶ月間、
制作過程を見ていただきありがとうございました。 - 自分にとってもこの連載のあいだ、
自分の考えを丁寧に見つめ直す時間にもなり、
大きな学びとなりました。
そして以前と比べて、
世の中にひらいた気持ちになれた気がしています。 - 流れていく時間の中で、
今後も変化していくであろう作品を
引きつづきご覧になっていただけたら幸いです。 - いつかこの作品を見た記憶のかけらが、
みなさんの「火」になるようなことがあったら、
とてもうれしいです。
そんな作品をこれからも
描きつづけていきたいと思います。 - また、お会いしましょう。
- mae
(おわります)
「ある画家の記録。Season3」これにて完結です。
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(ほぼ日)
2024-08-22-THU