家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。

オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。

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no.9

『一億三千万人のための


「論語」教室』

なにいってんの?
では、ぜんぜんない『論語』  


『一億三千万人のための「論語」教室』
高橋源一郎 (河出新書 1200円)

3月はじめ、朝日新聞書評ページの
「売れてる本」欄で、
中国出身の作家・楊逸さんが、
この本を紹介していらしたのです。

「子曰く 君子は和して同ぜず、
小人は同じて和せず……
中国の『聖書』として読まれてきた『論語』。
中で孔子さまは人間を『君子』と『小人』に
二分化して差別している。
にもかかわらず人々は、
この差別主義者を『聖人』と呼び、
未だにその言葉を生きる『道』にし、
子どもに暗唱させたりしている」
と始まるこの書評で、
楊さんは、高橋源一郎さんが読み解いた
『論語』が、どれほど新鮮でおもしろいかを
書いていらしたのでした。

『論語』も、一度は読んでみるべきなのかな、
と思う一冊ですよね。
でも、説教されるみたいで嫌かなと
ずっと思っていました。

この本の「はじめに」を読むと、
高橋源一郎さんも、実は読む前は
似たような印象をもっていらしたようです。

「『巧言令色には、鮮(すくな)いかな仁』とか、
『十有五にして学に志し、三十にして立ち、
四十にして惑わず』とか。
もちろん、意味もなんとなく知っている。
こういうことばを作った孔子先生という人は、
まあ、人生のキャッチコピーを作った人なんだろう。
その程度の関心しかなかったのです。
あまりに有名だと妙な情報ばかり入ってきて、
わかった気になってしまう。『論語』も孔子先生も、
ぼくにとって、そんなものの代表だったのです。
正直にいって『古い』と思ってました。
親孝行をしろとか、君主を大切にしろとか、
なにいってんの、って感じです。
こんなものを読んで喜ぶのは、
功成り名遂げた経営者の
『おれスゴくね?』的伝記本の読者ぐらいじゃないか。
なんとなくそう思っていたのです。
でも、ほんものの『論語』はちがいました。
ぜんぜん、ちがう」

そう記す高橋さんが、
冒頭の「子曰く 君子は和して同ぜず〜」の
意味を書くとこうなります。
孔子センセイの言葉で書かれています。

「『和して同ぜず』は、わたしの名言の中でも、
ヒット中のヒットとなったやつです。
短い中にも、深い意味がこめられているし、
語調もいいし、人口に膾炙(かいしゃ)するのも
無理はないですね。えっと、この意味ですが、
最初のフレーズは『仲良くすることは大切だが、
だからといってよくわかってないのに
「いいね!」ボタンを連打するのは考えもの』
ということ、次のフレーズは
『で、実際はどうなっているかというと、
「いいね!」ボタンを連打する連中に限って
「賛同していただいたみたいなので、一緒にどうぞ」
というと「えっ? ぼく、ボタン押しただけで、
それ以上はどうも」って答えがち』という意味ですよ」

これは「超訳」でも「創作」でもなく、
高橋源一郎さんが孔子センセイの言葉を
厳密に翻訳しながら、いまのみなさんに
伝えるために、ほんの少しだけ
「現代風にアレンジ」したものなのです。

それって、橋本治さんが『桃尻語訳 枕草子』や
『窯変 源氏物語』でなさったことに
近いかなあと思いながら読みました。
随所に笑いがちりばめられています。

まさに温故知新の一冊。
温故知新も孔子センセイの言葉でしたね。

(つづく)

2020-04-29-WED

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