家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。

オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。

前へ目次ページへ次へ

no.25

映画版 最古の


『忠臣蔵』

“日本映画の父” 牧野省三 監督 vs
“日本初の映画スター” 尾上松之助  

歌舞伎の最高傑作と言われる
『仮名手本忠臣蔵』全11段。
全段上演すると3ヶ月もかかる!? という大作です。
「Hayano歌舞伎ゼミ」第2回では、この11段を
なんと2時間でやってのけました!
ほぼ日の学校で「歌舞伎ゼミ」を主宰した
早野サイエンスフェローの解説と桂吉坊師匠の熱演は
オンライン・クラスをどうぞご覧ください。


歌舞伎が出てくる芝居噺を熱演する桂吉坊師匠
(Hayano歌舞伎ゼミ・第2回より)

さて、その『忠臣蔵』は、全て紹介しきれないほど
何度も映画化されている人気の題材です。
近年も、コメディ版『決算!忠臣蔵』(2019)、
討入の16年後を描いた『最後の忠臣蔵』(2010)、
異色作では忠臣蔵をモチーフとした
ハリウッド映画『47RONIN』 (2013)など、
昭和の時代劇黄金期以降、現代まで度々製作されています。

今回オススメするのは、最初に製作された『忠臣蔵』。
国立映画アーカイブ「映像でみる明治の日本」で、
「活動写真が生んだ大スター
『目玉の松ちゃん』(注1)が、
浅野内匠頭あさのたくみのかみ大石内蔵助おおいしくらのすけを熱演!」と謳って
公開されている作品をご紹介しましょう。
再び、歌舞伎ゼミ主宰の早野フェローの解説で、
映画版最古の『忠臣蔵』をお楽しみください。

注1:尾上松之助(明治81875年〜大正151926年)歌舞伎役者。日本映画創世記に活躍した時代劇スターで、日本初の映画スターといわれる。


Hayano歌舞伎ゼミ主宰、早野龍五フェロー

早野フェローの
無声映画たのしみ方ガイド


浅野内匠頭、無念の切腹

ご存知の通り、無声映画は「活動弁士」(活弁かつべん)の
語りとセットで鑑賞するものですから、
ナレーションも字幕もなしに50分の無声映画を観るのは、
正直言って辛いです。
いきなり50分を通して観ることはお勧めしません。
なぜかというと、この映画には
あちこち不自然な欠落があるから。
それは、制作年月が明治431910年〜大正41915年頃と
記されていることからも分かるように、
これは一本の作品ではなく、
日本映画の父と呼ばれた牧野省三と尾上松之助のコンビで
撮影された複数の忠臣蔵映画をまとめたものだからです。


城明け渡しの覚悟。撮影は京都の二条城西南隅櫓の西側で行われた

さて、この無声映画を、弁士なしにどう楽しむか。
私なりのコツをご披露しましょう。

先に述べたように、忠臣蔵は歌舞伎だけでなく、
講談や浪曲など、様々なジャンルの
芸能を通して日本人に愛されてきました。

まず、講談です。
幸いなことに、YouTubeで
3代目神田松鯉の「赤穂義士本伝より 大石東下あずまくだり」を
聞くことができます。

大石内蔵助が討ち入りのために、偽名で
(映画では立花左近、この講談では垣見左内
という名になっている)
京都から江戸に下る。
しかし、神奈川宿の本陣で本物と遭遇し……
という、有名な話(フィクション)です。
なお、歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」に、
この場面はありません。

神田松鯉さんは、最近襲名披露して人気沸騰の
若手講談師六代目神田伯山の師匠です。

この講談を聞いてから、『忠臣蔵』
29分55秒〜36分45秒あたりをご覧ください。

いかがでしょう。
カメラが据え置きで、舞台中継みたいな撮り方ですが、
それでも講談を聴きながら想像していた情景が、
無声の画面から生き生きと浮かび上がってきませんか?

さらに、27分50秒〜29分55秒あたりもご覧ください。
路傍のむしろに人が包まれていて、
その前で大石らが何やらやっている場面。
いきなり観ても要領を得ないと思いますが、
神田松鯉の講談を聞いたあとならば、
楽しく鑑賞できますよ。


泉岳寺、墓前

次は浪曲です。これも幸いなことに、
YouTubeで国本武春の「忠臣蔵〜南部坂雪の別れ」を
聞くことができます。
国本武春さんは、「うなるカリスマ」と呼ばれ、
人気の浪曲師でしたが、2015年に惜しまれつつ
早世しました。

南部坂雪の別れは、吉良邸討ち入りを翌日未明に控えた
大石内蔵助が、浅野内匠頭の後室瑤泉院ようぜんいん
別れを告げに行く場面です。
(南部坂は六本木にある急な坂です)

場面を想像しながら浪曲を聴き、
その上で36分45秒〜42分30秒あたりをご覧ください。

「目玉の松ちゃんの忠臣蔵」を観た当時の人々は、
講談や浪曲で馴染んでいた場面が、
目の前で再現されていることに、
大いに感激したことでしょう。

〜〜〜〜〜

以上、早野フェローによるガイドでした。
この解説を手がかりに、 ぜひ最古の映画版『忠臣蔵』を
読み解いてみてください。

(つづく)

2020-05-21-THU

前へ目次ページへ次へ