家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」で
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。
オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。
no.29
『歌舞伎の
101演目解剖図鑑』
辻󠄀和子
「歌舞伎にすと」
辻󠄀和子さんの集大成
『歌舞伎の101演目解剖図鑑』絵と文:辻󠄀和子
エクスナレッジ 1800円
ため息しか出ません。
101演目もの歌舞伎名作を、美しいイラストと
細やかな解説で紹介するこの一冊。
オールカラーのイラストの艶やかさと
細部に至る目配りを見るだけで、
この一作にいったいどれほどの情熱と労力が
注ぎ込まれたのだろう……と、
ただただ、感嘆するしかないからです。
イラストレーターにして、
歌舞伎をライフワークとする「歌舞伎にすと」の
辻󠄀和子さんは、Hayano歌舞伎ゼミ第5回の
講師を務めてくださいました。
そのときも、「助六の足袋はなぜ玉子色か」
「田舎者を象徴する着物の色は緑」など、
ビジュアルを手がかりに歌舞伎を味わうコツを
教えてくださいました。
その授業の様子は、イラストレーターの大高郁子さんが
すばらしいレポートにしてくださっていますので、
ぜひそちらもあわせてご覧ください。
歌舞伎ゼミの講師紹介のなかで、
辻󠄀さんはこう語っていらっしゃいました。
「歌舞伎は堅苦しいと思い込んでいる人が多いので、
そうではないことをわかってもらいたい」
かねて、趣味で観ていた歌舞伎に知人を誘うとき、
「これをぜったい読んでから来てね」と、
いつも手作りの解説書を渡していたという辻󠄀さん。
予備知識なしに観てしまうと、見逃すものが多くて
もったいないと思っていたからでした。
でも逆に手がかりがあれば、もっと楽しめる、と。
手書きの解説書が百枚を超えたころ、
それがきっかけとなって『恋する歌舞伎』や
『歌舞伎の解剖図鑑』などの著作や
東京新聞の連載が生まれていきました。
今回の『歌舞伎の101演目解剖図鑑』は、
そのひとつの集大成ともいうべき作品です。
イラストの美しさや躍動感、
演目解説の確かさはいうまでもなく、
「義経千本桜」の「いがみの権太」眉尻のほくろは
「東京式」の権太で「五代目松本幸四郎」への
オマージュであるとか、
時折登場する作り物の「切り首」の素材にも
「悲劇度」にあわせた「ランク」があるとか、
かなりマニアックな豆知識の数々が
ところ狭しと書き込まれています。
あらゆるところに、
辻󠄀さんの「好き」があふれています。
それにしても、これだけのものをまとめるのは
さぞかし大変なことであったろうと思います。
今回、本文中のイラストをお借りするために
担当編集者の方とやりとりをしたなかに、
「辻󠄀さんには夕鶴のように身を削らせてしまい恐縮」
という一言がありました。
101演目それぞれに数人から数十人が登場します。
この本一冊にいったい何人の役者さんが
描かれているのでしょうか?
ため息つきたくなりますよね。
本当にすごい本です。
ちなみに、「期待の若手役者たち」のコーナーには、
Hayano歌舞伎ゼミでお話をうかがった
中村莟玉(かんぎょく)さん
(当時は中村梅丸さんでした)も掲載されています。
歌舞伎公演の再開を楽しみに待ちながら、
予習復習の助けにもなる一冊です。
(つづく)
2020-05-27-WED