家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。

オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。

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no.30

映画『聖者たちの食卓』

Himself He Cooks.


『聖者たちの食卓』
(2011年/ベルギー/65分/原題:Himself He Cooks)
監督:フィリップ・ウィチュス、ヴァレリー・ベルトー

私はインドとカレーがそこそこ好きで、
いままでに4回くらいインドに遊びに行っています。
5回目のインド旅行は、
全土封鎖のタイミングと重なって叶いませんでした。
次にいつ行けるのだろうかと思いながら、
インドのある場所が舞台の映像作品をひとつ紹介します。
この場所は、優先順位からすると8回目くらいの
インド旅行で行こうとおもっている場所です。

パンジャブ州のアムリトサルには、
シク教の大本山ハリマンディル
(ゴールデン・テンプル、黄金寺院)があります。
そこには、「ランガル」とよばれる食堂が開かれていて、
人種や階層に関係なく、巡礼者や訪問者に対して、
無料で食事を提供しています。
その数、1日に10万食ともいわれています。

シク教というのはインドに数ある宗教のうちの一つ。
余談ですが、
シク教徒の男性は頭にターバンを巻いています。
よく、インド人といってでてくる
ターバン巻いたインド人のイラストのそれは、
シク教徒のインド人で、
ヒンズー教徒やイスラム教徒のインド人は、
ターバンを巻きません。

話を戻しましょう。
なぜ、大本山で、
大量の食事を提供しているのかというと‥‥。
今を遡ること600年前、シク教の導師たちは、
階級、性別、宗教が違うと
ともに食卓についてはいけないという当時の習慣を憂い、
だれでもが同じ食卓でものをたべることができる
場所をつくりました。
つまり、ここの食堂でごはんを食べるということは、
シク教の宗教行為でもある、ということなのです。

ランガルの入り口(だとおもわれるところ)には
こんな文言が掲げられています。

HIMSELF HE COOKS
HIMSELF HE PLACE IT ON PLATTER
& HIMSELF HE EATS TOO
(神は食事を作り皿に盛る そして、自らも食べる)

この映像作品は、72分のドキュメンタリーで、
ランガルで起こるさまざまなことを、
音楽やナレーションなしで、淡々と記録したものです。

1日10万食を作るとは、どんな感じかというと、
もうほんとにどでかい鍋をどでかい木べらで、
ガンガンかきまわすというようなことなのです。
食材や燃料は山とつまれており、
人々は、なんとなく楽しそうに、黙々と働いています。

延々とニンニクを刻み、グリーンピースをさやから外し、
チャパティを伸ばし、一枚一枚焼き続けます。
テーブルセッティングを次から次へとして、
食べ終わったら、食器をどんどん片付けて、
使った敷物をじゃぶじゃぶ洗っていきます。

とにかくたくさんの人が、
自分のできる労働を無償で提供していて、
機械化なんてどこ吹く風で、
ほとんどのことを手作業で行います。

私が何回かインドに行った経験からすると、
現場は人の話し声でわんわんしているだろうし、
すごいドタバタとカオスが
繰り広げられているのだと思うけれど、
映像のなかでは、
どことなくみんなが
優雅に立ち振る舞っているようにみえて、
その所作の美しさに
うっとりさせられることも多くあります。

事件はなにもおこらないし、
映像に起伏があるわけでもありませんが、
とにかく目が離せないし、
飽きもせずに見入ってしまいます。
食べるという本能に訴えるのかなにかわからないけど
心を掴まれてしまうのです。

私はこの映画の配給もおこなっている
独立系の映画館「UPLINK」で観て、
上映が終わったときに、
短い時間ではありますが、立ち上がれなくなって、
退場が遅れてしまったという事がありました。

食べることをこんなに
純粋に実行している場所があるなんて、
と思って、激烈に感動してしまったのです。
なんて‥‥なんて尊いのだと、
魂が震たのかも? とおもって動けなかったのです。

そして、できたら自分もその場所に身を投じ、
人でごった返すなかで、食材を刻んだり、
食器を洗ったりして、
そこで、生涯を終えてもいいくらいだと憧れました。
その食堂が存在して、そこで誰でもが働けるという事実は
不安で心細くなってしまうようなときに、
ずいぶん自分を助けてくれました。
なにかタガがはずれて、
蛮勇というようなものが自分の中で暴れだしたら、
ビューンと飛んでいくんじゃないかとも思いました。

もちろん‥‥実際にはいまだ私は飛んでおらず、
ここにこうして文章を書いているのですが。
あ、でもシク教についての書物はいくつか読みました。
参加するならば、勉強しておかねばと思って。

映画は、DVDも出ていますし、
Amazonプライムでも観ることができます。
そして、UPLINKのクラウドでも
単品で500円で観ることが可能です。
ちなみに、このクラウド、
3ヶ月2980円で見放題のサービスもしています。
インディペンデント系の映画がお好きなら
たまらないラインナップなので、
ぜひちょっと覗いてみてください。

視聴方法はお好みでどうぞ。

(つづく)

2020-05-28-THU

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