「能楽堂でシェイクスピア!?」
ほぼ日の学校は、昨年12月17日、
福岡・大濠公園で出張授業を行いました。
フィールドトリップをのぞけば、
東京を出て授業をしたのは初めてのことです。
慣れないことはたくさんありましたが、
福岡のみなさんのあたたかい応援を受けて
おかげさまで大盛況のうちに終えることができました。
独特の音響がある能楽堂で、
生の声と生の三味線で演じられた『マクベス』は、
格別の手触りがあるものでした。
あのときの熱気を少しでもお伝えしたいと思い、
福岡在住のカメラマン、平山賢さんが
撮影してくださった写真を中心に、
カクシンハンの「ダイジェスト・マクベス」と
音楽プロデューサー深町健二郎さんをまじえての
アフタートーク、3回に分けてご報告します。
トークに飛び入り参加した糸井重里からは、
能楽堂での『マクベス』に刺激を受けて
「ほぼ日は動く森だ!」という宣言が飛び出し、
学校長も「動く」決意を語りました。
刺激に満ちた初めての出張授業
その様子を少しでもお伝えできれば幸いです。

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第三回

アフタートーク


「学ぶうれしさ」

深町
こういう場所でやるのは、
ほぼ日の学校として
今回、初めてですよね。

出張授業を支えてくれた深町健二郎さん 出張授業を支えてくれた深町健二郎さん

河野
初めてです。
福岡で何かやりたいなあと思って、夏にここに来て、
この場所でカクシンハンだと確信を持ったんです。
それで木村さんに連絡したら、
一も二もなく「おもしろい」と言ってくださって、
じゃあやってみるかと。それを人に言うと、
「河野さん、勝負師ですね」って
言われたんですけど、そんなつもりもなかった。
このむき出しの空間で、
シェイクピアの中でもセリフの芝居である
『マクベス』をやったら
おもしろいんじゃないかなと思ったんです。

「むき出しの空間がおもしろい」と河野 「むき出しの空間がおもしろい」と河野

木村
そのとき、能楽師とかベテラン俳優ではなくて、
若手のぼくらに声をかけてもらったのは
どういう「勝算」(笑)があったんですか?
河野
直感です。
「シェイクスピア講座」を始めるときと同じです。
まだ何も始まっていないほぼ日の学校に、
木村さんたちがシェイクスピアを連れてきてくれたら、
絶対におもしろいだろう、と閃いたことと似ています。
木村
シェイクスピアをやっていると、
影でこっそりやっているような、
あるいは時代に逆行するような
「若いのになんでやってるの?」
みたいな感じだったんですけど、
ほぼ日の学校でやらせてもらって、
「あ、シェイクスピア、けっこう真ん中じゃん」
と思ったんです(笑)。
やっていいんだ、という自信をもらいました。

「自信をもらえた」と木村さん 「自信をもらえた」と木村さん

深町
そもそもシェイクスピアをやるのは
糸井さんの発想だったと聞いたんですけど、
それはどうしてだったんですか?
糸井
うーん……
カン……(笑)?
自分自身もシェイクスピアについて
どのくらい知っているかというと
ちゃんと読んでいるわけじゃない。
刑務所に入った人が、差し入れに
「シェイクスピア全集」が欲しいと言った
という話を若い頃に聞いて、
「そんなこと言わせる本って何?」と
思った記憶があった。それで、
いつかオレも読んでみたいと思ったわけです。
「きれいは汚い」とか
「ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」とか
いろんな人が引用して、いっぱい知っていますよね。
でも、その考えの原型にあたるものを
シェイクスピアがあの時代に
出し尽くしているのかなと思ったんですね。
でも、それを今から勉強したいなと思っても
なかなか大変ですよね。
じゃあ自分たちでそういうものを学ぶ会をつくれば
みんなが一度にシェイクスピアの
いちばんおもしろいところを学べるんじゃないかなと
思ったわけです。だから、河野さんに
「シェイクスピアで始めたいんです」と
言ったら、「そうですね」と。
古典を求めてる雰囲気があったんじゃないかな。
ビジネスの最先端のなんとかとか、
シンギュラリティとか、
「3年たったら色あせるもの」じゃないものを
やりたかったので、
古典を学ぶ学校をやろうと思ったんです。

「古典を求めてる雰囲気があった」と糸井 「古典を求めてる雰囲気があった」と糸井

深町
それが、そもそも学校をやる
きっかけでもあったんですね。
糸井
ええ。ぼくらは「動く森」なんで(笑)。
木村
さっそく森が動き始めましたね。
深町
残っていくものって、
原型を留めるだけじゃなくて、
何かしら新しいものというか、
アレンジが加えられていますよね。
木村
シェイクスピアは400年前のものですが、
いま生きてるぼくらは最先端なので、
ぼくらが素直におもしろいと思って向き合えば、
「新しい」と同時に「本質的なもの」が
とりこぼされずに新しくできる気がします。
だから、あえて「新しくしよう」と考えるよりも
やっているぼくらが遊ぶというか、
おもしろがって、思う存分楽しめば、
新しくなるんじゃないかなという感覚です。
深町
『マクベス』でいえば、
「嫁さん怖い」っていうのは、
昔も今も変わらないってことですかね(笑)。

なごやかな空気のなかでアフタートークは進みます なごやかな空気のなかでアフタートークは進みます

糸井
この前、モータースポーツを見てきたんですけど、
すごいことになってるんですよ、
モータースポーツの進化。
でも、車輪を回していることは変わらない。
大元をタッチする感覚が大事なのかなあ
という気がしています。
深町
でも、古典ってスルーしてきちゃったんですよね。
糸井
学校でつまらなく教わった覚えがあるんですよ。
年号ばっかり暗記させられたとか。
本当に学びたいのは「世の中どうなっているのか?」
ということなんですよね。大事なのは、
「そこが知りたい」ことがわかったときの
驚きであり、いま知ったことが自分をちょっと動かす、
つまり「変わる」ってことだと思うんです。
そんなことを考えながら、今日ここに来たので、
「ああ、ここでまた変化したなあ」と思いました。
来て良かったです。
深町
いまの糸井さんの言葉で思い出したのが、
ほぼ日の学校の講師だった
橋本治さんの言葉なんですけど、
「古典はそもそもわからないものだ。
でも、わからないことに気づかないと
『わかる』ことにたどりつかない」。
なるほどなーと思いました。
糸井さんの「そこが知りたい」と同じですよね。
そこにたどりつくのに、
古典というのは、すごい装置なんですかね。
糸井
そうですね。
「長年消えない疑問」の話をしているのが
古典だと思うんです。
「人と人はなぜ憎しみあうの?」という歌は
永遠に作られつづけていますよね。
それを「どんどん良くなるんだよ」なんて
簡単に言ってるものは滅びますよね。
「消えない疑問について格闘する」のが
古典を学ぶおもしろさだと思うんで、
そこから派生した芸術もぜんぶ
おもしろいんですよね。
ほぼ日の学校は連続講座だけじゃなくて、単発で
「1枚だけカードをもらう」みたいな
勉強の仕方もあると思うので、
「90分だけゴジラの歴史を学ぶ」ようなことを
来年はやっていきたいと思っています。
聞いてみたいでしょ。そういう授業。
誰かがものすごく好きでやっていることには、
もう古典のエキスが入ってると思うので。
木村さんの中に古典の要素が入っているように。
学ぶっていうことのおもしろさは、
そうやってばらまかれていくんだと思うんです。
それをほぼ日は「動く森」として
やっていこうと思っています。
深町
おもしろいですねえ。学校長どうですか?
河野
来年の予告が出ましたが、
こうやってシェイクスピアなどやってきて
古典の軸は固められたと思うので、
これからは衛星を増やしていく
自由を得られたかなと思っています。
学ぶこと、それ自体が喜びなんだ、というのは、
私自身、最近、ひょんなことで思い返したんです。
浮世絵のトークの準備をしていたときです。
最初に浮世絵を見たのはいつだったか、と考えたら、
昭和30年代の記念切手なんですね。
そして、当時の浮世絵シリーズの切手について、
話し始めたらつるつると、
よどみなくしゃべれる自分に驚いたんです。
写楽も歌麿もあれで知りました。
東海道五十三次シリーズだと、切手一枚一枚見るごとに、
徐々に自分の頭のなかに日本地図が広がっていって、
世界がふくらんでいくことにわくわくした、
その喜びが大きかったからなんです。
字を覚えて新聞が読めるようになるのが
うれしかったように、学ぶというのは
暗記でもなければ、試験のためでもなくて、
何かを覚える、知ること、それ自体が楽しかった。
そういう高揚は、人の本性ではないでしょうか。
だから、子どもの気持ちに立ち返って、
またいつから始めてもいいし、
何から始めてもいい。
「何かのために」ではなくて、
それ自体を楽しんでほしい。
そういう形でほぼ日の学校が育てばいい。
ということで、「動く森」、
ぼくも動かしてみたいですねえ。
深町
知りたいことだらけですよね。
知らないことがたくさんある方が
楽しいですよね。
糸井
先輩に聞いてみたいことだらけ、ですね。
河野
深町さんに聞いてみたいんですけど、
福岡って、深町さんみたいに
「知りたい、知りたい」っていう人が
たくさんいるんですか?
深町
のぼせもんだらけですよ(笑)。
(会場拍手)
みんな、待ち望んでたんですよ。
こういうのを一回だけじゃなくてつづけたいですね。
糸島でやってきたサンセットライブも
27回つづけてきたからこそ
見えてきた景色があります。
糸井
地元の人たちがぼくらと話をしながら
組み立ててくれたところに
ぼくらが育てた学校の講師が来る、
みたいな形は希望があると思います。
プロデュースを地元の人がやるところと組んでいく。
そうすると、富山でもできるし、札幌でもできる。
そういう形がとれるのかなと思いましたね。
学校のやり方としてあるのかもしれないと思います。
そして、来年は福岡に来る予定がもうあるので、
また来ますから(笑)。
「森」をあちこちに作りたいんです。
河野
学校も3月ごろ、また福岡にやってきます。
またぜひそこでお会いしたいと思います。
今日、こんなに楽しい思いを味わえたのは、
深町さんはじめ、器をつくってくださった仲間がいたことと、
足を運んでくださったお客さまがいたから。
みなさんの熱気で
舞台も力の入ったものになったと思います。
そうですよね、木村さん。
木村
聞く人、観る人の力によって
演劇はやっと作品になるので、
みなさんの観てくださる力で
役者にも化学反応が起きたと思います。
ありがとうございました。
糸井
いちばん言いたいのは
「うれしかった」ということです。
「ほぼ日は動く森だ!」

河野
それ以上に付け加える言葉はありません。
みなさん、ありがとうございました。

「ごくごくのむ古典 in 福岡」は、
福岡の企業12社に協賛いただき、
パンフレットの作成をはじめ、
さまざまな側面でご支援いただきました。
当日、会場にブースを設けて、
楽しいコーナーを作ってくださったのも
協賛企業のみなさまでした。
本当にありがとうございました。

有限会社チョコレートショップ
株式会社鬼が島本舗(めんちゃんこ亭)
株式会社大央
株式会社長湯ホットタブ
有限会社キューブリック
英進館株式会社
SMILE SCORE株式会社
株式会社東雲堂(にわかせんぺい)
住吉酒販有限会社
株式会社博多大丸
株式会社フェヴリナ
ポルテボヌール株式会社

(終わり)

2020-02-12-WED

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  • 「ほぼ日の学校」福岡出張授業第二弾

    3月7日(土)午後4時~5時半
    太宰府天満宮にて、特別授業を行います。
    講師は歌人で細胞生物学者の永田和宏さん。
    「万葉から現代までの酒の歌」と題して
    講義していただきます。
    ほぼ日の学校万葉集講座で、
    新元号の発表よりも前に「令和」の出典である
    「梅花の宴」の序文を解説してくださっていた永田さん。
    梅の香りを楽しみながら、
    酒の歌についていっしょに学びましょう。

    ○詳細はこちらから。

    ○チケットはこちらから。