古典を学ぶ場「ほぼ日の学校」の学校長の河野通和は、
もともとは編集者、そして大の本好き。
あらゆるジャンルの本を読み尽くしてきました。
その、学校長がコツコツ口説いてきた本屋さん、
この場限りでオープンする本屋さんなど
「おもしろい本屋さん」8店舗が、
2月22日〜24日の3日間だけこの場にあつまります。
しかも、日替わりママの「バー・X」も開店。

このイベントの詳細と、
「おもしろい本屋さん」の1軒ずつを、
これまた本屋好きの作家の
浅生鴨さんとご紹介していきます。
紹介の順番は取材の順番です。

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no.4 光文社古典新訳文庫のお店

読んでみれば、ハズレなし!

次に、浅生鴨さんとお伺いしたのは、
光文社さん。地下鉄有楽町線の護国寺駅にあります。
駅からの道すがらには「群林堂」という
とてもおいしい大福のお店があります。
どんな大福なのかについては、
あんこが大好物で、しかも「あん国の大統領」を自負する、
糸井重里が登場するこちらのコンテンツをどうぞ。

これが、東京3大大福販売店のうちの一つ。これが、東京3大大福販売店のうちの一つ。

時間に遅れそうでしたし、
今大福を買っている場合ではないので素通りをします。
一路、光文社へ向かいます。

お釈迦様のポーズのようです。お釈迦様のポーズのようです。

鴨さんが、
天上天下唯我独尊みたいになっていますが、
この指先の先に看板をのせようとして、
四苦八苦しているところです。

看板ちっさ。看板ちっさ。

今回訪問したのは、「翻訳編集部」の編集部、
こちらで「光文社古典新訳文庫」を編集されています。
書店ではありませんが、
渋谷PARCOに、
お店として集ってくださることになりました。

ここで、「ほぼ日の学校」の姿が
目に浮かんでくださるとありがたいところです。
できたら思い出してください、
「ほぼ日の学校」とは、「古典を学ぶ場」なのです。
いままで開講してきた講座でも、
ブックリストにも「古典新訳文庫」の書籍を
入れさせていただいていますし、
それこそ、シェイクスピアも何冊かありますし、
ダーウィンの『種の起源』ももちろん入っています。

文庫の作品リストをみてみると
あらためてそのタイトルの数の多さにびっくりします。
この数を新しく訳しなおしたのか‥‥と。

お話をしてくださったのは、
編集長の中町俊伸さん。
この文庫のシリーズが立ち上がってから、
三代目の編集長さんだそうです。

編集長の中町さん。 編集長の中町さん。

こんにちは。
今日はどうぞよろしくおねがいします。
中町
こちらこそよろしくおねがいします。
まず最初にこれは聞いておきたかった
質問から先に。
古典の作品は膨大ですよね?
そんな中から、どうやって選択をされて、
「古典新訳文庫」の1冊になるんでしょうか?
中町
本好きの方ならおわかりになるかもしれませんが、
光文社は「古典」とは
あまり結びつかない出版社だと思うんですよ。
新書とか女性誌、
エンターテイメント系の書籍の出版のほうで
知られているかもしれません。
そんな出版社が2006年9月にあたらしく立ち上げたのが、
この古典の文庫シリーズなんです。
そんな位置づけの文庫だからこその、
個性がでるようにと考えてセレクトをしているつもりです。
つまりは、文学全集のピースを埋めるように
古典を選んで刊行していくのではなくて、
「今読んでも、ちゃんとおもしろいもの」を選ぶ、
というのは大きなポイントです。
「名作だから読むべき」という姿勢ではなく、
「おもしろいから読んで!」なんですね。
中町
そうなんです。
実は、古典にもトレンドがあって、
その時代、その時代でよく読まれる古典が違うんですよ。
読まれなくなった古典というのは、
翻訳が古くなってしまって、
僕らには、読むのがつらいということがあります。
学生の頃に途中で挫折した経験はありませんか?
あります。あります。
ことばの古さに気をとられて、
内容がぜんぜん頭にはいってこなかったという経験、
結構あるかもしれないです。

中町
僕なんかもそうです。
でも、書かれている内容が
本当におもしろいものって
たくさんあるんですよ。
そういう、一度あきらめた本をもう一度手にとって、
今度はたのしんで読んでほしいという気持ちが強くあります。
そうですよねー。
いまちょっと思ったんですが、
古典っておもしろいから、
読みつがれたってことですよね?
その古典が書かれた時代の
その他の本は残っていないわけだから、
いま僕たちが読める本って、
すごくおもしろい本なんですよね。
中町
そうとも言えますね(笑)。
当時ベストセラーになったりしている本もありますしね。
 
それから、海外では読まれているけど
日本ではまったく知られていない
おもしろいというものもあります。
翻訳者の先生がたに紹介していただくこともあるんですよ。
ただ、難点といっては失礼なのですが、
先生方は研究者ですから
時としてマニアックなものを出したいという
要望もあるんですが。
あまりマニアックすぎると‥‥。
中町
そうなんです。営業的に‥‥。
どのくらいの読者がいてどのくらい売れると見込めるから
出版できるという部分も
きちんと考えなくてはいけませんから。

大事! そのあたりは、重要な部分ですよねー。
 
PARCOには、そんなふうにして作られた
「古典新訳文庫」から、どんな本を
持ってきてくださるのでしょうか?
中町
さすがに全部もっていくわけにはいきませんよね‥‥。
 
古典って、映画や舞台の原作になっているものが
たくさんあります。
話題になっているものの中では、
シアーシャ・ローナンが主演のオルコットの『若草物語』。
(映画のタイトルは『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』)
ハリソン・フォード主演の『野性の呼び声』。
最近は、ブロードウェイのミュージカルを録画して
それを上映するものがあるんですが、
そこでは『シラノ・ド・ベルジュラック』。
それから、今年上演がきまっている舞台では
『サロメ』なんかがあります。
そうでした。
古典は様々なエンターテインメント作品の
原作の宝庫でした。
中町
入口に「古典」とあると敷居が
どうしても高くなってしまうので、
普段はそういうものをお読みにならない方には、
なにか切り口が必要だとおもいまして。
今年の1月から2月にかけて、
新国立劇場で上演された『ラ・ボエーム』も、
昨年の12月に刊行しました。
いままでは、抄訳しかなかったのですが、
うちは全訳で出しました。
これが、読んでみるとほんとうにおもしろくて。
分厚いので敬遠されてしまいそうですが‥‥。
たくさん刊行されているからこそ、
いろんな作品に対応できますね(笑)。
映画舞台切り口は一つありますよね。
中町
あと、こんなのもあります。
デュマの『千霊一霊物語』。

書店さんにお送りしているPOP。表紙が統一されているので、内容にあわせたイラストでPOPをつくっているそうです。 書店さんにお送りしているPOP。表紙が統一されているので、内容にあわせたイラストでPOPをつくっているそうです。

デュマって、アレクサンドル・デュマですか?
中町
はい。
『椿姫』のデュマ・フィスは息子で、父親の方です。
こちらの内容は、怪奇小説なんですよ。
怪奇小説??
中町
そうなんです。
これは、すごく好評だったんですよ。
へ〜〜!
「あの、アレクサンドル・デュマのですよ」
といわれても「そうですか」ってなっちゃうけど、
だれかに「すっごいおもしろい怪奇小説なんですよ」って
いわれたほうが、手をだしやすいかもしれない。
「古典」っていわれると、ハードルが上がってしまうけど、
恋愛小説です、冒険小説です、ファンタジーです、と
ジャンルでおすすめされるっていいですね。

中町
自分の好きなジャンルで、
おもしろいっていわれたら、
というのはあるかもしれませんよね。
その他には、「みんなしってる」という
切り口もあるかなと思っています。
タイトルだけしかしらないし、
中身は、世界史の授業で暗記した程度、
というもの。
いいですね。
ほぼ日の学校でとりあげた
ダーウィンの『種の起源』とかどうでしょうか?
中町
私も、この仕事をしてなかったら、
全部を通して読まなかったかもしれません。
そういう本のなかで
『方丈記』はずいぶん売れたんですよ。
行く川の流れは‥‥。
冒頭はみんなスラスラ言えますけど。
中町
ちゃんと最後まで読んだことは無い人が
ほとんどではないでしょうか?
いずれにしても、中身がおもしろいから
翻訳されているという文庫のシリーズです。
ハズレなし! ともいえる本たちなので
どんな切り口でも、おもしろい小説やエッセイが
見つかる、はずですよね。

このあと、中町さんは、鴨さんに
ラテンアメリカ文学の古典、
1月に刊行されたという
「ルゴーネス幻想短編集」を紹介。
ボルヘスやコルタサルが影響を受けたという
作家のもの。
また鴨さんの蔵書が増えそうな気配です。
(鴨さんは、ラテンアメリカ文学マニアです。)

中町さんありがとうございました!

ビルをあとにした3人。
編集部で書籍は買い求められないということに
愕然として、3人は町へでたのです。
私は密かに帰りに
「群林堂」を買おうかと思っていましたが、
甘味にまったく興味を示さない
辛党のフジーに「次は、NHK出版さんです」と
さくっと先導されてしまいました。
(無念)。

ぐんりんどう‥‥‥。 ぐんりんどう‥‥‥。

(つづく。次回は「NHK出版」さんへGO!)

2020-02-07-FRI

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