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オリンピックやワールドカップの試合後には、
快挙をたたえる新聞の「号外」が配られます。
ついさっきまでプレーしていたはずなのに、
駅前でもらった号外を見てみると、
「優勝」「金メダル」「世界新」という
華々しい見出しが踊っているじゃありませんか。
ウェブと違って紙を刷る手間があるのに、
どうしてそんなに早く配れるのか聞いてみました。
工夫や、努力や、技術や、からくりについて、
『スポーツ報知』の相沢拡さん、山本理さん、
解説をどうぞおねがいします!
- ほぼ日
- これまで担当された記事で、
思い入れの強い記事はありますか。
号外になったかどうかは別として、
「オレ的な号外」で構いませんので。
- 相沢
- 私の一番の思い出といえば、
28年前のラグビーワールドカップですね。
ジンバブエに勝った試合です。
- ほぼ日
- あっ、ラグビー日本代表が
はじめて勝ったという歴史的な試合。
そのジンバブエ戦から2015年まで
ワールドカップで勝てなかったと聞きました。
- 相沢
- 2015年大会で3勝を挙げるまで、
私は社内で唯一の
勝利の目撃者になっていたんです。
- 山本
- 1991年のワールドカップ、
相沢がラグビー担当だったんです。
- ほぼ日
- へぇー!!
- 山本
- ジンバブエ戦は、北アイルランドの
ベルファストという土地で開催されたんですよ。
それまでのアイルランドでは、
過激派の組織が活動していて、
試合をやること自体、危険だと思われていて。
- ほぼ日
- 危険なベルファストに、
相沢さんとカメラマンで入ったんですか。
- 相沢
- 記者の私だけで、カメラは通信社に任せて。
当時のベルファスト、なかなかの町でしたよ。
- ほぼ日
- いったいどんな。
- 相沢
- ダブリンから車で向かって、
ベルファストの街に入る手前で、
クランク状の坂道を上がっていく途中に
テロ対策で検問を受けるんです。
商店は昼間でもシャッターが閉まっていたり。
ホテルも門が閉まっていまして、
名前を言わないと門が開けられないんです。
- ほぼ日
- ずいぶん物騒な場所へ、
ラグビーを取材に行ってご無事でしたか。
- 相沢
- 日本とジンバブエの試合は注目度も薄かったんで、
テロの対象にならなかったんだと思うんです。
一次リーグの他の試合は終わっていて、
日本対ジンバブエの試合結果は
決勝トーナメントに影響しなかったわけです。
- ほぼ日
- そんな状況で、日本が初勝利をあげた。
- 相沢
- 1勝を挙げた当時は、
「ああ、今後いくらでも勝てるんだろうな」
と思っていましたけど、
まさか20年以上、1勝もできないとはね。
- ほぼ日
- ちなみにラグビーワールドカップが
日本で初めて開催された今年、
初のベスト8になりましたけど、
号外は出せたのでしょうか。
- 相沢
- ラグビーは試合が終わる時間が遅かったので、
配れなかったんですよね。
勝利が確定してからの準備となると、
東京スタジアムや横浜国際総合競技場に
持っていくとなると難しいですからね。
新国立競技場で試合ができていたら、
何万人も残っている会場で配れたかもしれませんが。
- ほぼ日
- たしかに、ワールドカップの会場は
人通りの多いエリアとは
ちょっと離れていましたもんね。
- 相沢
- もうひとつ思い出深いのは、
私がレイアウターとして作った
唯一の号外がありまして。
2000年9月24日の話です。
- ほぼ日
- 2000年9月24日というと?
- 相沢
- 当時の勤務ローテーションでは
日曜休みだったのですが、
志願の出勤をしていた日です。
前夜のゴミも散らかっている編集局で、
清掃作業が行われている早朝に
歴史的偉業の瞬間が訪れました。
シドニー五輪でQちゃんこと高橋尚子選手が、
陸上競技では日本人女子初の
金メダルを獲得したんです。
- ほぼ日
- うわあっ、ビッグニュースですね!
- 相沢
- ほとんど社員のいない静かな社内が、
不思議な興奮に包まれました。
その日に配る号外の制作を終えて、
午前中には退社しました。
ところが、この日はこれで終わらないんです。
- ほぼ日
- えっ?
- 相沢
- その日の夜、江藤選手の満塁ホームランと
二岡選手のサヨナラホームランで、
巨人が劇的に優勝を決めたんです。
- ほぼ日
- ああっ、よく覚えています。
中日に0-4で負けていたところから、
9回裏だけで大逆転勝利でした。
そっか、高橋尚子選手の
金メダルと同じ日でしたか。
- 相沢
- そうです。
ジャイアンツの優勝で
号外を作らないわけにはいかないから、
その日のスポーツ報知では、
なんと一日で2度目の号外が作られたのです。
- ほぼ日
- わっ、本当に2枚ありますね。
ふたつのビッグニュースが、
同じ日に起きていたなんて。
- 相沢
- ちなみに翌日のスポーツ報知の
一面はもちろん巨人の優勝を報じました。
国民的スターのQちゃんの金メダルが
一面でなかったのも驚きですが、
それほどドラマチックな優勝でした。
- ほぼ日
- はあー、そんな奇跡があったんですね。
スポーツ新聞社にとっての号外は、
つまりは無償のサービスですよね?
- 山本
- そうです、そうです。
- 相沢
- 号外を見て翌朝の新聞も買ってくれたらいいですね。
羽生結弦選手が平昌五輪で金メダルを獲ったときには、
配ってから「欲しい!」という人が殺到して、
希望する人全員に送ったんですよ。
- ほぼ日
- これは、はっきりと覚えています。
切手を入れて報知さんに送ったら、
本当に届けていただけました。
- 相沢
- 利益をまったく取らないやり方だったので、
送り返すのが、もう大変で大変で。
返信用の切手を貼った封筒だけを送っていただいて、
無料で号外を折って封筒に入れる手作業をしました。
- ほぼ日
- まったくの無料サービスだったんですね。
想像するだけで大変な作業です。
- 相沢
- 販売局の社員は、毎日残業していました。
やらなきゃよかったかなあ(笑)。
- ほぼ日
- 羽生選手は特にファンも多いですし、
喜んでくれた方がたくさんいたはずなんで。
オリンピックの号外を見て気づいたのですが、
開催地によっては日本時間の真夜中ですよね。
東京オリンピックで
号外を出すタイミングとしては、
昼と夜、どちらの方がやりやすいですか?
- 相沢
- 号外という観点だけでお話しますと、
ヨーロッパで開催する大会では
真夜中にメダルが決まりますから、
朝刊を作る時間とカブるので、
当然、朝刊が優先になりますね。
- ほぼ日
- ということは、東京オリンピックでは、
号外だらけになっていく可能性も。
- 相沢
- 北京五輪の時は日本とほぼ同じ時間帯で、
金メダルラッシュだったので、
たくさん号外も作りましたよ。
東京大会も、同じように配るでしょうね。
- ほぼ日
- ぜひ、もらいに行きます。
- 山本
- お待ちしています(笑)。
- ほぼ日
- 号外と本紙の内容は変えていますよね。
あれって、何時ぐらいまでのネタだと
朝刊に出せるのでしょうか。
「これ、もう朝刊に載ってるんだ!」
ということが、けっこうあるなと思って。
- 相沢
- それが、一番の企業秘密ですね。
- ほぼ日
- あ、そうでしたか。
- 山本
- くわしくは言えませんが、
準備さえしておけば、深夜まで追い込めます。
2015年のラグビーワールドカップの初戦は、
日本対南アフリカが真夜中に行われました。
あの試合、スポーツ報知だけが、
最後まで結果を入れられたんですよ。
- ほぼ日
- えっ、すごい!
- 山本
- たまたまその時、ぼくの前任者が、
「初戦だから何十点負けてもいいから追い込め」
と言ったんです。
準備をしていたおかげで、
なんとか試合の最後まで結果を載せられました。
今となっては、幻の新聞です。
- ほぼ日
- それはどうして。
- 山本
- その時は、偶然なんですよね。
ぼくの前任者にすごい嗅覚があって
何かが起こると思ったのか、初戦だから追い込めって。
ラグビー担当部署のデスクからは、
「それ、本当にやる意味あるんですか?
うまくいって、60対0ぐらいで負けます」
とずっと言われていたんですよ。
- ほぼ日
- そこまで大差がつく予想でしたか。
- 山本
- 「もしかしたら、80点取られるかも。
0対80の試合を深夜まで粘って
朝刊に入れる必要がないでしょ」
と言われていたんです。
でも、ぼくからしたら上司からの指示もあるし、
とりあえずやろうと(笑)。
そうしたら、南アフリカを相手に勝っちゃった。
- 相沢
- ラグビーでこんなに盛り上がるとは、
まったく思いませんでしたね。
- ほぼ日
- ラグビーにまつわる記事なら
なんでも読みたいぞっていう人、
今はすごく増えているでしょうね。
最後に、号外について改めて
伝えておきたいことってありますか。
- 相沢
- 今、ネット時代になって、
号外が発行されることも少なくなりましたけど、
希少価値の高いものとして
喜ばれる号外が増えたらいいなと思いますね。
新聞には逆風が吹いていますが、
号外をきっかけに新聞もおもしろいんだなって
興味を持っていただけたら嬉しいです。
- ほぼ日
- ビッグニュースのあと、
すぐに動いているスピード感も
スポーツの香りがしてよかったです。
- 相沢
- ありがとうございました。
- ほぼ日
- ありがとうございました!
(おわります)
2019-12-20-FRI