世界中を飛び回り、さまざまな商品の
企画開発に携わっている
ビジネスデザイナーの濱口秀司さんが、
最近、「紙おむつの開発」という
新しいお仕事に取り組まれたそうです。
前回の対談以来、
濱口さんと交流を深めてきた糸井も、
前々からその内容に興味を持っていました。
新しいおむつは「ネピアWhito(ホワイト)」と言います。
開発に携わった王子ネピアの上杉さんにも
同席いただき、糸井と三人で話しました。
開発秘話、日本とアメリカの仕事の違いなど、
盛りだくさんの全5回です。
濱口秀司(はまぐちひでし)
ビジネスデザイナー。
京都大学卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。
研究開発に従事したのち全社戦略投資案件の意思決定分析担当となる。
1993年、企業内イントラネットを考案・構築。
98年から米国のデザインコンサルティング会社、Zibaに参画。
99年、USBフラッシュメモリのコンセプトを立案。
2009年に戦略ディレクターとしてZibaにリジョイン(現在はエグゼクティブ・フェロー)。
2014年、ビジネスデザイン会社monogotoをポートランドに創設。
- 糸井
- 今度は、紙おむつですか。
濱口さんの守備範囲は本当に広いですよね。
- 濱口
- 何でもやります(笑)。
- 糸井
- 濱口さんたちが開発したという
噂の紙おむつ、
うちの娘のところも使ってますよ。
(スマホを取り出し、孫の写真を見せる)
- 上杉
- わあ、かわいい!
「Whito(ホワイト)」を
使ってくださってるんですね。
ありがとうございます。
- 糸井
- 3時間用を使っているらしい。
- 濱口
- 3時間用は、薄いし軽いし
履き心地がいいから、
ごわごわしないと思います。
- 上杉
- こんなに薄い紙おむつ、
私もはじめて作りました。
- 糸井
- この薄さは
めずらしいものなんですか。
- 上杉
- そうですね。たくさん吸収する紙おむつがいい、
というのが世の中の常識だったんです。
今回、濱口さんとご一緒して、
「3時間用の紙おむつ」という発想にいたったときに、
びっくりしたのと同時に、
ほんとに作れるかな、という不安がありました。
- 糸井
- 作れるかな、というのは
技術的な問題ですか?
- 上杉
- はい、単純に吸収量を増やすには、
吸収させる素材をたくさん入れればいいので、
考えやすいんです。
逆に、薄型で3時間用というのは、
機能を短時間用に最適化する中で
吸収量を削ぎ落とすことになるので、
そのことが不安でした。
- 糸井
- 赤ちゃんの1回あたりのおしっこの量、
といったデータは、
きっとお持ちなんですよね。
- 上杉
- そうですね。
たとえば1時間長く使ったことによって、
もれてしまうようなことがあったら、
品質上大問題だなと。
開発する側の心理としては、
全くもれない方向へいきたくなっちゃうんですよね。
そこを逆に向かうには勇気が必要で、
濱口さんと一緒じゃないと、できなかったです。
- 濱口
- 全く存在していないものを世に出すときって、
不安は山ほどありますからね。
今回は「12時間用」と
「3時間用」の2タイプを作りましたが、
3時間用という発想が出てきたのは、
このプロジェクトのかなり後半なんです。
- 上杉
- ほんとに、後半でした。
発売に間に合うのか、というギリギリのところを
完成させた商品です。
- 濱口
- そもそもが難しいプロジェクトでしたよね。
ぼく、女性ものって苦手なんです。
女性心理が分からへんから(笑)。
- 糸井
- まあ、そうでしょうね。
- 濱口
- でもプロジェクトチームには、
女性がたくさんいて助かりました。
ネピアチームは開発も知的財産も女性がいて、
うちからは宇野さんという
メンバーに入ってもらいました。
さらに、ネピアで働く育児現役のお父さんや
お母さんの声ももらって、
安心してプロジェクトを進めることができました。
「3時間」という発想はここから出てきた。
でも、この商品は、
3時間という発想だけがポイントじゃないんです。
- 糸井
- というと‥‥。
- 濱口
- 今回のプロジェクトには、
もう一つのアイデアがありまして、
それに関してぼくから説明させてください。
これまでの紙おむつ業界が最優先にしてきたのは、
どれだけたくさん吸うかという「吸収性」です。
二番目は「通気性」。
紙おむつって紙じゃないんです。
不織布という合成繊維やフイルムが
全体を覆っているので
本来、通気性は良くないものなんですよ。
三番目は「フィット性」。
これが問題で、どれだけフィットするか。
紙おむつって、平べったいものを
お尻にそって丸めているだけだから、
そもそもフィットしないものなんです。
- 上杉
- ごわっとしますよね。
- 濱口
- そこで各社がギャザーをつけたりして、
何とかフィットさせているんですね。
この業界は歴史がかなり長くて、
どこの商品も技術的には
かつかつまで設計しているんです。
たとえば「うちは吸収性で進みたい」、
「うちは通気性で」みたいに勝負をかけている。
各社ギリギリで競い合ってるんですね。
今回、新しい紙おむつを作りたいと相談を受けて、
最初に技術の方々と話して、
性能では差が付けられないかもしれないな、
とまず思いました。
じゃあどこで勝負するのか。
まあ、最初に考えるのはデザインですよね。
- 糸井
- ああ。
- 上杉
- 私たち開発チームとしては
技術を何とかしたいと思うんですけども、
それには限界があるんだったら、
もう見た目で勝負だ、みたいになって。
パッケージもそうですし、
紙おむつ1個1個も、
ほんとにかわいいデザインはなにか、
ということに悩んで、何か月も経ちました。
- 濱口
- そう。それでぼく、
すごくかわいいヒラヒラが付いた
デザインの紙おむつも考えました。
そこにストーリーをうまくのせれば
勝負できるかも、と。
でも、やっぱりこれじゃいかんな、と思いました。
イノベイティブなものを作るんだったら、
自分が最も無理だと思うところを
ひっくり返さなあかん。
これ以上の他社との差別化が極めて困難だと言われた
技術面で勝負したい、と。
- 糸井
- 具体的には、どういうことをなさったんですか?
- 濱口
- 考え続けた末、
今回の紙おむつに使われている
「キルティングテクノロジー」という
アイデアが生まれたんです。
簡単に言ってしまえば、
上からプレスして溝を作ることで、
吸収性と通気性とフィット性を飛躍的に向上させる、
というものでして。
- 糸井
- へええ。溝を?
- 濱口
- まず吸収性の面から説明します。
一般に紙おむつの内部には、
高分子吸水材という、
水をむちゃくちゃ吸う
プラスチックのつぶつぶが入ってます。
でも、赤ちゃんがおしっこをすると、
一部分の高分子吸水材だけが吸って
タプタプになって、端の方など、
使いきってない部分がけっこうあるんです。
この中に高分子吸収材が入っているんですけど‥‥。
(おむつを見せる)
- 糸井
- はいはい。
この感じ、犬のペットシーツでも
見覚えがあります。
- 濱口
- 性能を上げようと思って
おしっこを吸収する部分のパルプや
高分子吸水材を増やすと、
股下のところがどんどん厚くなって
ボテボテおむつになります。
なのに、従来の紙おむつでは、
実は入っている高分子吸水材を
全部使いきれていない、という問題がありました。
それでどうしたかというとですね、
紙おむつの表面にキルティング状の溝をプレスして、
おしっこがその溝を通って
遠くまで流れるようにしました。
- 糸井
- 水路を作る、ということですか。
- 濱口
- ええ、表面上に水路があるから
流れていきます。
しかも上から溝をプレスすることで、
内側のパルプがグッと押さえつけられるんですね。
毛管現象という、水がチューッと
上がってくる仕組みを
科学で習った人もいるかもしれませんが、
その毛管現象も起こるから水が吸い込まれやすいんです。
おしっこを素早く運んで
できるだけたくさんの高分子吸水材を使って
おしっこを吸収させる。
これだけで吸収性が上がります。
- 濱口
- 次、通気性はどうなってるかというと、
プレスして押さえたことで、
溝に囲まれた中央部分が丘状になるから、
面じゃなくて点で肌にふれるような感じになります。
- 糸井
- 無圧布団みたいなこと?
- 濱口
- そうです。
さらに溝のなかを空気が動くので、
通気性が抜群に上がります。
そして、プレスされた溝の部分で
折れ曲がるからフィット性も上がる。
ただ溝をグワーッと押すだけで、
吸水性と通気性とフィット性を
一気に上げるという技術なんです。
- 糸井
- つまり、全部の性能が上がったんだ。
- 上杉
- はい。この技術のおかげで、結果的に
3時間用だけでなく、もうひとつの
12時間のほうも薄くできまして。
実際に紙おむつを付ける赤ちゃんにとって
一番快適なものを作りたい、というのが
私たちの考えでしたし、
それが実現できて、本当によかったと思っています。
(つづきます)
2019-04-11-THU
-
「生活のたのしみ展」で
サンプルを無料配布します。
2019年4月17日(水)~21日(日)に
東京・丸の内で開催するイベント
「生活のたのしみ展」では、
王子ネピアさんのブースも登場します。
今回の鼎談で話題に挙がった
「ネピアWhito(ホワイト)」
(3時間/12時間用)の
サンプルをサイズごとに配布いたします。
ぜひお越しください。