こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
昨年、コマ撮りと言えばの
dwarfさんのスタジオへ行ったとき。
何やらめちゃくちゃカッコいい
木彫りの人形を動かしていたんです。
聞けば、伝説の彫刻職人・
左甚五郎が主人公のコマ撮りアニメを
撮影していると‥‥。
それが、『HIDARI』でした。
先ごろ完成したパイロット版を見たら、
(このページのいちばん下にあります)
想像以上のカッコよさ。
もう、フルバージョンが完成するまで、
勝手に応援することに決めました!
まずは、木彫の人形や美術を制作した
TECARAT(テカラ)の
八代さんと能勢さんへのインタビュー。
このあと、
「コマ撮り篇」としてdwarfさんを、
「物語篇」として
監督の川村真司さんの取材と続きます。
おたのしみに!

>八代健志さんのプロフィール

八代 健志(Takeshi Yashiro)

ディレクター/アニメーター/人形造形

1969年 秋田県生まれ。
1993年 東京芸術大学デザイン科卒業
CM制作会社太陽企画(株)にて、CMディレクターとして実写を中心に活動する傍ら、様々な手法のストップモーションアニメーションを扱ってきた。
2012年から本格的に人形アニメーションの制作を開始。
2015年、太陽企画内にアニメーションスタジオTECARAT(テカラ)を立ち上げ、現在は人形アニメーションを軸足に活動している。
脚本・監督とともに、美術制作、アニメート、木彫による人形造形なども手がける。
手から作り出される美術の素材感を大切にして、ストップモーションアニメーションならではの映像を目指している。
『ごん GON,THE LITTLE FOX』(2019)は、約160以上の国際映画祭にて受賞・オフィシャルセレクションに選出。最新作『プックラポッタと森の時間』(2021)は、毎日映画コンクールアニメーション部門にて大藤信郎賞を受賞。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門にて審査委員会推薦作品に選出。「Brain Online Video Award(BOVA)」用に制作した【Hair album】(タカラベルモント)では人形造形とアニメートを担当し「D&AD Awards 2022」アニメーション部門にて<Yellow Pencil>を受賞。

主な作品
[短編アニメーション]
●『プックラポッタと森の時間』(2021)
●『ごん GON THE LITTLE FOX』(2019)
●『ノーマン・ザ・スノーマン~流れ星のふる夜に~』(2016)
●『眠れない夜の月』(2015)
●『ノーマン・ザ・スノーマン~北の国のオーロラ~』(2013)
●『薪とカンタとじいじいと。』(2013)※東邦ガス ガスエネルギー館にて上映
●『11月うまれの男の子のために。』

[広告他]
●ABC ABC天気予報バックグラウンド映像「旅爺」(2016)
●日本マクドナルド エスコートキッズ募集「Fitaがつなぐもの」TVCM(2014)
●大塚製薬 SOYJOY「ダイズとリンゴ」、「ダイズとレーズン」web movie(2013)
●日本マクドナルド グラコロ「クリスタルツリーに集う」TVCM(2013)
●日本マクドナルド てりたまバーガー「桜の木の下で」TVCM(2012)
●サッポロ 冬物語「冬がはじまるよ」TVCM(2011)
●日本郵便 郵便年賀JPグリーティングムービー「人生バス」(2011)
●インテル バイラルムービー「Christmas Greetings」(2010)
●ネスレ ネスカフェフラジール インフォマーシャル「ヴェネチアングラス」(2010)
●Jリーグ100年構想「Mr.ピッチ夢を語る」TVCM(2009)
他多数

[アニメーション・人形造形で参加]
●BOVA 審査員特別賞 タカラベルモント
ヘアサロンで「人生が変わる瞬間」を描いた動画 [Hair album] (2021)
●ホリプロ×ドワーフ ミュージカルショートムービー『ギョロ劇場へ』(2021)
●TOHOシネマズ POP&COKE(2020)

[HP]tecarat.jp
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[Twitter]twitter.com/tecarat1
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Reel Takeshi Yashiro
https://vimeo.com/798646339/3b4a4b02f9

 

Takeshi Yashiro

Director
Animator
Doll Modeling Artist

Graduated from Tokyo University of the Arts Design Department. In addition to working at Taiyo Kikaku as a TV commercial director focusing on live action, he has also worked with various methods of stop-motion animation.
He established TECARAT in 2015 and switched emphasis to puppet animation. In addition to scriptwriting and directing, he is also involved in art, animation and puppet modeling.
He aims to produce images unique to stop-motion animation, emphasizing the texture produced when creating by hand.

○Pukkulapottas and Hours in the Forest(2021)
○GON THE LITTLE FOX(2019)
○NORMAN THE SNOWMAN-On a Night of Shooting Stars(2016)
○Moon of a sleepless night(2015)
○NORMAN THE SNOWMAN-The Northern Light(2013)
○FIREWOOD,KANTA&GRANPA.(2012)
○Dear November boy.(2012)

[HP]tecarat.jp
[instagram]instagram.com/tecarat_studio/
[Twitter]twitter.com/tecarat1
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>能勢恵弘さんのプロフィール

能勢 恵弘(YOSHIHIRO NOSE)

デザイナー/アニメーター/撮影監督
太陽企画株式会社 TECARAT所属

高野山大学密教学科卒。美術製作を中心に活動する。何事も追求する性があり、幅広い要望に対して遂行力がある。モーションコントロールの知識も持ち、ストップモーションアニメーション撮影監督も務める。アニメーターも行う。

●『ごん GON THE LITTLE FOX』(2019)(セットデザイナー/撮影/照明)
●『ノーマン・ザ・スノーマン~流れ星のふる夜に~』(2016)(セットデザイナー/撮影/照明)
●『眠れない夜の月』(2015)(セットデザイナー/撮影/照明)
その他CM、PV、MVなど幅広いジャンルで活動している。

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第1回 木の意見を聞きながら、彫る。

左:能勢恵弘さん 右:八代健志さん 左:能勢恵弘さん 右:八代健志さん

──
昨年のことですが、
ドワーフさんのスタジオへ行ったとき、
先ごろ公開になった
『HIDARI』の
パイロット版の撮影をやってたんです。
撮影序盤だったと思うんですが、
すでに、めちゃくちゃかっこよくって。
八代
はい。
──
それで、プロジェクトが動くときには、
ぜひ取材したいと思ってました。
で! こちらが左甚五郎!
まじまじ拝見します! かっこいい!
八代
ありがとうございます(笑)。

──
八代さんの人形そのものの造形も、
ドワーフさんの
コマ撮りアクションもカッコいいんですが、
自分は「木でできている」
というところが、カッコいいと思いました。
コマ撮りだと、めずらしくないですか。
八代
たしかに、いまはそうかもしれません。
でも、木彫りの人形って、
かつては、あたりまえだったんですよ。
能勢
昔は造形材料も限られていましたから。
──
たしかにレトロなイメージがあります。
人形アニメの神さま的存在、
川本喜八郎さんの作品なんかを思うと。
長野県の飯田の人形美術館で見ました。
八代
ストップモーションのアニメーション、
いわゆるコマ撮りって、
本来、勝手には動かない人形を、
少しずつ動かして撮る表現ですよね。
だから「動かすため」の
知恵と工夫を積み上げていく過程で、
いろんな造形素材が出てきたんです。
たとえば、
人間の皮膚のように柔らかい素材とか。
──
ドワーフさんの「こまねこ」なんかも、
ふわふわしたイメージですもんね。
八代
その「少しでもなめらかに」という
「正常進化」の先に、
CGというものがあるんですけどね。
──
なるほど。つい最近ですが、
AIが生成したアニメも見ました。
それは踊っている人間を
絵に変換するようなものでしたが。
八代
そういう時代に、
ぼくらが木の人形でやっているのは、
やはり「人形らしい魅力」が、
そこにはあると思っているからです。
で、その魅力を、きちんと活かすことが、
いま、ストップモーションをはじめ
手間ひまのかかる方法で、
アニメーションをつくる意味なのかなと。

──
なるほど。
八代
くわえて今回は、物語の主人公が、
左甚五郎という
伝説的な木彫の名人だったんです。
であれば、人形も木彫でやるべきだねと。
美術的な側面だけじゃなくて、
企画面での意味合いも、あったんですよ。
──
木でつくるのが、必然だったと。
こうして、
動かなくたってカッコいいわけですけど、
どのような道筋をたどって、
こんな「左甚五郎」がうまれたんですか。
八代
いろいろ木でやる理由を言いましたけど、
木彫ありきで
企画がスタートしたわけではなく、
やっぱりストーリーが先。
ですから、キャラクターの造形について、
最初に手を動かしたのは、
川村真司監督と、
共同監督のドワーフ小川育くんなんです。
まずは小川くんが絵を描いて、
大づかみなイメージをみんなで共有して。
甚五郎は、線の細い感じじゃなくて、
けっこうガタイのいいおじさんで、とか。
──
なるほど。
八代
そうやって検討しているところに
ぼくが途中から入っていった感じですね。
そこにあるような粘土で、
ちょっと試作モデルをつくってみたりね。
いま、あらためて見ると、
初期のころは細身の甚五郎だったんだな。
華奢っていうか。
──
そうやって監督たちと意見交換しながら、
このような甚五郎が、うまれた。
能勢
ただこれ、スっとうまれたわけでは‥‥
あ、俺がしゃべっていい?
えと、実際に人形を彫っていくことを
ぼくら
「八代化」って言うんですよ。
つまり平面に描いたキャラクターって、
木彫に落とし込むさいに、
どうしても、絶対、違っちゃうんです。
彫るまでわからないというか、
彫る前には
完全にはイメージできないんですよね。

──
そうなんですか‥‥へええ。
細部まで決め込んでつくってるのかな、
と、何となく思ってましたが。
じゃあ、試作を、けっこうつくったり。
八代
木を彫る、となると時間がかかるので、
まずは粘土で方向性を見るんです。
でも、盛り付けて造形する粘土と、
削って形を出す木とではぜんぜん違う。
粘土で話をしてる時間はほんの一瞬で、
はやく木に移行しないと
いつまで経っても
ディテールの話ができないんです。
──
つまり‥‥小川さんによるイメージを
受け取った八代さんが、
ある「振り幅」の中で、
最終的なフィニッシュにもっていった。
八代
ふつうの「キャラクターデザイン」って、
ディテールを
少しずつ積み重ねて決めていく、
というつくり方をすると思うんですけど、
木の場合には、そうはいかない。
さっきも言いましたけど
イメージ通りには、絶対にならないから。
それをむりやり
ある「型」にはめ込んでしまったら、
木でつくる意味がないと、
ぼくなんかは、思っているんですけどね。
──
なるほど。
八代
木には「木目」というものあるんです。
「こう割れたい」とか、
「こう削られたい」という性質がある。
その性質を活かす方向性で、
ぼくらは、木と対話してつくってます。
木の意見を無視して、
模型どおりにつくってしまったら、
やっぱり
木でやってるおもしろさがないんです。
──
ようするに‥‥「木の意見」っていう、
事前の計画だとか目論見では
どうにもならないような、
ある意味で
偶然の産物を活かしてつくったほうが、
木の魅力が出るってことですか。
八代
たとえば‥‥少し木目のねじれた木を
なりゆきで彫っていくと、
木目に沿って、
少しずつゆがんだりとかするんですね。
それが「木の意見」で、
そこをカチッと決めすぎずにやるのが
木彫の場合は自然なんです。
能勢
その意味で、「八代化」するときには、
絶対に何かが変わってくるから、
これくらいの決め方でいいよね、
というような感じで進めていくんです。
八代
だから、現代のアニメーションでは
あんまり使われなくなってるんですね。
たくさんの人が
約束事を固めてつくっていく作業には、
合わないところもあるので。
──
なるほどー。だから
あまり見たことがないなという感じを
受けたのかもしれません。
だって、パイロット版を見た人みんな、
「かっこいい!」って言いますもん。
それくらい一般の人にとっては、
見たことないもの、だったような気が。

八代
そうなんですね。
ただ、えらそうなことを言いましたが、
今回は、
甚五郎の頭をふたつつくってるんです。
なぜかというと、
この先の映画化を見据えたときには、
甚五郎を2体つくって、
並行して、撮影を進めていきたいので。
──
コマ撮りという方法は、
ただでさえ時間かかりますもんね。
以前ドワーフの峰岸裕和さんに
インタビューしたとき
「8時間、撮影してやっと4秒半」
みたいなことを言ってました。
八代
これまで説明したような理由があって、
ふつうは、
木では同じものをふたつはつくれない。
でも、今回は、
「複製」もひとつのチャレンジでした。
まったく別の木から部材をとると、
木目も木の質も変わってくるんですが、
同じ木をふたつにわければ、
木目も質も、
ゆがみ方も、けっこう似てくるんです。
──
結果的に、どうだったんですか。
ようするに、ふたつの左甚五甚の頭が、
映画の中で混ざっても
わからない、くらいにしなければ‥‥。
八代
よーく見れば、やっぱりわかりますけど、
映像に撮ってみたら、
ぼくも、どっちかわかんなかったですね。
──
すごい。
八代
ただ、人形を動かすアニメーターさんは、
わかるみたいです。
見た目は、ほとんど変わらないんだけど、
「俺が動かしてたほう、こっち」
って言いますから。

(つづきます)

2023-04-21-FRI

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  • TOBICHIで甚五郎に会える!
    HIDARIの続きが見たい!展

     

    神保町のTOBICHIでは
    いま、『HIDARI』の木彫人形を
    どどーんと展示しています。
    これがとにかくカッコいいのです。
    コマ撮りといえばの
    dwarfさんによるパイロット版も
    当然カッコいいじゃないですか。
    でも、動かなくても、
    そこにいるだけでカッコいい‥‥。
    甚五郎、犬丸など
    登場キャラクターはもちろん、
    細かいところまで作り込まれた
    甚五郎の道具類や、
    敵の親玉・犬丸が乗っている
    強そうなロボット(?)も、必見。
    開催は、4月25日まで。
    なお長編制作のための
    クラウドファンディングも実施中。
    くわしいことは、
    まずは、日本語の説明が読める
    こちらのページでご確認ください。