入社以来、
週刊少年ジャンプ一筋の本田佑行さんは、
これまでに『ハイキュー!!』『暗殺教室』
『Dr.STONE』『アンデッドアンラック』など、
アニメ化や映画化された
数々のヒット作を世に送り出してきた
名編集者です。
本田さんなら、
人の心を動かす強いコンテンツの生み出し方を
知っているのでは?
ということでお話を聞いてきました。
打ち合わせのときのコミュニケーションの仕方、
チームで目標を共有するときのコツ、
企画が通らないときの切り替え方など、
実際のやり方を明らかにしてもらいました。
人と協力してものを生み出すことって楽しい!
ライティング/浦上藍子
本田佑行(ほんだひろゆき)
「週刊少年ジャンプ」の副編集長。
「勉タメジャンプ」の担当編集者。
1983年生まれ。宮城県仙台市出身。
2007年に集英社に入社後、
週刊少年ジャンプ編集部に配属となり、
『初恋限定。』『魔人探偵脳噛ネウロ』『NARUTO-ナルト-』
『銀魂』などを担当。
また『ハイキュー‼』『暗殺教室』『Dr.STONE』
『アンデッドアンラック』などの人気作品の立ち上げに
関わる。2023年に小学生向けの学習マンガ誌
「勉タメジャンプ 」を立ち上げた。
- ──
- 本田さんは新卒で集英社に入って以来、
ずっと週刊少年ジャンプ編集部一筋なんですよね?
- 本田
- そうです、かれこれ17年。
雨の日も風の日も、同じ編集部に通い続けています。
- ──
- 『ハイキュー!!』『暗殺教室』『Dr.STONE』
『アンデッドアンラック』と、
アニメ化・映画化された
大ヒット作品の立ち上げの編集者なんですよね。
- 本田
- いや〜ただ運がよかっただけなんです。
日頃の行いもよかったのかな、ふふふ。
- ──
- 今日はどうして大ヒット作を生み出してきたのか、
どうすれば人の心を動かすコンテンツを作り出せるのか、
そのヒントを伺えたらと思っています。 - 「週刊少年ジャンプ」の場合、
編集者が担当するマンガ家さんは、
どうやって決まるのですか?
- 本田
- 2通りのパターンがあります。
1つは先輩編集者から連載中の作品を引き継ぐケース。
僕の場合、最初に担当した
河下水希先生の『初恋限定。(ハツコイリミテッド)』や
岸本斉史先生の『NARUTO-ナルト‐』、
空知英秋先生の『銀魂』が、このパターンです。 - もう1つは、新人作家と一緒に作品を作っていく仕事。
その中には、
マンガ家さんが作品を編集部に持ってきてくれる、
いわゆる「持ち込み」と、
マンガ賞に応募された作品の中から
お声がけをするという、
おもに2つの方法があります。 - 持ち込みの場合は、「作品を見てください」という
電話をとった人が担当になる、
という決まりがありまして。
だから入社1〜2年目のころは、
編集部の電話をとるのに必死なんです。
- ──
- 早押しクイズみたいですね。
- 本田
- そうそう。
いかに早く受話器を取れるかが勝負!
読者からの問い合わせってことも多いんですけれど、
マンガ家さんだったらラッキーで。
「編集部に電話をしてこられるのは初めてですか?」
と伺って、
「はい、初めてです」と返ってきたら
ガッツポーズです。
- ──
- マンガ賞の場合は、
どのように担当を決めるのですか?
- 本田
- 若い編集者に優先指名権があります。
入社年次の低い編集者から、
自分がおもしろいと思った作品、
一緒に仕事をしてみたい作家さんに声をかけていきます。
- ──
- 若い編集者から、好きな作品を選んでいく‥‥。
その理由は?
- 本田
- 「週刊少年ジャンプ」は少年マンガ誌なので
読者に近い人が作るものが
最もおもしろいはずだからです。
経験をつめば、スキルは身についていくので、
ベテランほどスキルは持っているわけです。
けれど、ベテランのスキルは
若い人の「おもしろい!」「新しい!」という感性には
かなわないと思っています。
スキルよりも感性のほうが、僕らにとっては大切なんです。
- ──
- 若者の感覚は、読者の少年たちの感覚に
近いという考えからなんですね。
- 本田
- そうです。そして新人のマンガ家さんと
時間をかけて二人三脚で作品を作っていくという感じです。
はじめは新人賞を取りましょう。
次に増刊のジャンプの掲載を目指しましょう。
週刊少年ジャンプの本紙に読み切りを載せましょう。
本紙の読み切りで結果が出たら連載をしましょう。
というように、
どんどんステップアップしていくというイメージです。 - 僕の場合は、『ハイキュー!!』の古舘春一先生、
『アンデッドアンラック』の戸塚慶文先生は、
新人のころに持ち込みで出会い、
一緒にお仕事をしてきたマンガ家さんです。
そういうふうにして常に新しいマンガ家さんと
出会い、描いていただくというのを続けることが、
「週刊少年ジャンプ」の哲学かな、と思います。
- ──
- 連載を引き継ぐのか、
新しく立ち上げるのか、
2つのパターンによって
編集者のお仕事に違いはありますか?
- 本田
- マンガ家さんが描くおもしろいものに対して、
「そのおもしろさがちゃんと伝わるか」を
一緒に考えていくのが編集者の仕事。
やっていることに、大きな違いはないですね。
- ──
- 読者が夢中になる作品は
どのように生まれているのでしょうか。
- 本田
- そうですね。
『ハイキュー‼』は
古舘先生のその前の作品である
『詭弁学派、四ツ谷先輩の怪談。』という
ホラーマンガが終了したとき、
アイデアとして出てきたのが
バレーボールをテーマにしたマンガだったんです。
もともと古舘先生がバレーボールマンガを書きたいと
おっしゃっていたので、
2回目の連載で起死回生を狙おうと。
- 本田
- どう見せたらジャンプの読者に喜んでもらえる作品に
できるか、というところで試行錯誤してつくったのが
『ハイキュー‼』なんですよ。 - 『暗殺教室』の立ち上げのときは、
ある日、松井優征先生の仕事場に行ったら
「ちょっとできたんだけど、読んでくれる?」って
新しい作品のネームを渡されたんです。
- 本田
- 『暗殺教室』は、「起立、礼、暗殺!」という
凄まじい3ページから始まるんですけれど、
この冒頭で完全につかまれまして。
「はーーー! おもしろい!」と思いました。
僕がしたのは、途中で主人公の感情が
ちょっとわかりづらいかなという場面があったので、
そこを少しだけ相談したくらいです。 - 作品の生まれ方って、本当にそれぞれで。
たとえば、『Dr.STONE』は、
Boichi先生と稲垣理一郎先生が「週刊少年ジャンプ」での
最後のチャレンジとして考えた企画だったんです。
それまで日の目を見なかった企画がいくつかあって、
次に結果が出なかったら
青年誌に移籍することも考えたい、と。
それで3つ出してくれた企画のうちの1つが
『Dr.STONE』だったんです。
- ──
- 3つの企画のなかで、
いちばんおもしろかったのが
『Dr.STONE』だったんですか?
- 本田
- いや、全部おもしろそうだったんですよ。
ただ、この『Dr.STONE』という企画が
いちばん仕上がりが見えない作品だったんですね。 - ほかの2つは、
僕だったらこんなふうに編集するな、
という組み立て方や仕上がりが見えたんですけれど、
『Dr.STONE』に関してはさっぱり見えなくて。
どうやって毎週続けていくんだろう?
どうやっておもしろくしていくんだろう?ということが
わからなかったからこそ、
いちばん興味が湧いたんですよね。
- ──
- 先が見えないものを選んだんですね。
どれもおもしろいものの中から、
1つだけを選ぶって‥‥しびれます。
- 本田
- 戸塚先生のときも、なかなか結果が出なくて‥‥。
でも、ある作品で、
『アンデッドアンラック』の主人公2人
(「不死」な男と、
触れた人に「不運」をもたらせてしまう少女)の
原型となるようなキャラクターが出てきたんですね。
- 本田
- 「ストーリーはもう一歩だけど、
このキャラクターたちはおもしろい。
もっと見たいね」というところから、
「じゃあ2人が生きる作品を探っていこう」ということで、
まず読み切りを1本作って。
そこから連載化していった、という感じです。
(つづきます)
2024-07-05-FRI
-
学習マンガ雑誌
『勉タメジャンプ』
2023年4月に創刊号が発売され、
2024年7月で現在5号が発売されています。
『ハイキュー‼』の古舘春一さんや
『Dr. STONE』のBoichiさんも連載陣に
参加。
毎回豪華な付録あり。
ネット書店のほか全国の書店で購入できます。Amazonはこちら