入社以来、
週刊少年ジャンプ一筋の本田佑行さんは、
これまでに『ハイキュー!!』『暗殺教室』
『Dr.STONE』『アンデッドアンラック』など、
アニメ化や映画化された
数々のヒット作を世に送り出してきた
名編集者です。

本田さんなら、
人の心を動かす強いコンテンツの生み出し方を
知っているのでは?
ということでお話を聞いてきました。
打ち合わせのときのコミュニケーションの仕方、
チームで目標を共有するときのコツ、
企画が通らないときの切り替え方など、
実際のやり方を明らかにしてもらいました。
人と協力してものを生み出すことって楽しい!

ライティング/浦上藍子

>本田佑行さんプロフィール

本田佑行(ほんだひろゆき)

「週刊少年ジャンプ」の副編集長。
「勉タメジャンプ」の担当編集者。
1983年生まれ。宮城県仙台市出身。
2007年に集英社に入社後、
週刊少年ジャンプ編集部に配属となり、
『初恋限定。』『魔人探偵脳噛ネウロ』『NARUTO-ナルト-』
『銀魂』などを担当。
また『ハイキュー‼』『暗殺教室』『Dr.STONE』
『アンデッドアンラック』などの人気作品の立ち上げに
関わる。2023年に小学生向けの学習マンガ誌
「勉タメジャンプ 」を立ち上げた。

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第2回 マンガ編集者の仕事は“翻訳者”である

──
マンガ家さんとのコミュニケーションで
大切にしていることはありますか?
本田
マンガの編集者の仕事って
翻訳に似ているな、と思っていて。
マンガ家さんが感じている「おもしろいこと」を
多くの読者に伝える言葉にするのが
僕らの仕事かな、と思っているんです。
──
マンガ家さんの「おもしろい」を
伝わりやすく翻訳する。
本田
はい。
あとは若いマンガ家さんだと、
自分が思うおもしろさが
はっきり言語化できていないことがあって。
そういう場合には、
まず「どこにおもしろさを感じているか」を
自覚できるように手伝っていきます。
これも、ある意味では翻訳に近いのかな、と。
──
会話のなかで、マンガ家さんの感性を翻訳して、
「これが自分の作品のおもしろさだ!」と
気が付けるようにサポートしていくんですね。
本田
だから、マンガ編集者って話してばかりなんです。
マンガ家さんとの毎週の打ち合わせ、
アニメーションの打ち合わせ、グッズや宣伝の打ち合わせ、
日々、打ち合わせの連続です。

──
自分の思いをうまく伝えたり、
相手の意見を引き出したりしていると思うんですが、
打ち合わせのコツってあるんですか?
本田
どんな仕事にもいえることですが、
打ち合わせのゴールを設定することは大事です。
その点、僕らの仕事の最終ゴールは明確で、
最終のゴールは「おもしろい作品を作る」ことのみです。
だから、連載企画の打ち合わせでも、
アニメの脚本の打ち合わせでも、
どんな打ち合わせでも、いかにそこに近づくかです。
そして、その場にいるみんなが納得して、
みんなが自分事として思えるように
その場の雰囲気を持っていくのが大切だと思います。
そのために、何がおもしろいのか、何をしたらいいのかって
手を替え品を替え、伝えて納得してもらう。
あたかも、はじめから自分たちがそれを
目指していたかのようにゴール地点に誘導するっていうのが
打ち合わせだと思います。
──
打ち合わせのときは、
とにかく言葉をつくして説得するという感じでしょうか?
本田
僕は編集者の中ではよく話すタイプだと思うんですが、
それが絶対正しいという方法ではなくて、
打ち合わせの相手のタイプによると思うんです。
あるマンガ家さんと打ち合わせをしているときに、
うんともすんとも言わない、ということがあって。
最初は伝わっていないのかなと思って
どうにか納得してもらおうと
いつものように僕が話しまくっていたんだけど、
あるとき
「無言の時間は、マンガ家さんが考えを
巡らせるのに必要な時間だったんだ」と
気づいたんですね。
それで、次の打ち合わせでは、
僕が意見を言って、マンガ家さんが話すのを
ひたすら待ったんです。
返事が返ってこないけれど、
とにかく待つことにしました。
1時間後ですよ、
マンガ家さんの「はい」をいただいたのは。
──
長考ですね‥‥!
本田
本当ですよ、
将棋指してるんじゃないんだからっていう(笑)。
電話しながらだったんで、
僕も途中で本を読んだりして待っていました。
地獄の底から上がってきたような渋い声で
返事がきましたね。
──
1時間待った本田さんも、
1時間考えたマンガ家さんもすごいです。
本田
ガマン比べですね。
お互い意地になっているところもあったかな。
でも、じっくり考えて納得したうえで
受け入れてくださった。
たくさん言葉を重ねたほうがいいときもあれば、
待つのが大切なときもあって、
それはそれぞれの相手の個性に合わせて、
使い分けたほうがいいなと思っています。

──
取材に同行されることも多いと伺いました。
本田
マンガ家さんが何を感じ、何を気にされているのか、
編集者も共有していないと
いい打ち合わせができないので、
取材にはできる限りはご一緒しています。
──
資料から知識を得るだけでなく、
現場を取材することも大切なんですね。
本田
『ハイキュー!!』の古舘先生は取材が上手で、
「疑問を探しに行くのが取材である」
といったことをおっしゃっていて、
すごく印象的でした。
──
疑問を解消するためではなく?
本田
そう。僕は、取材に対して
答え合わせのようなイメージを持っていたんです。
調べたいことの答え合わせだと。
でも、古舘先生は全然違って、
自分が何を知らないかを知るために取材に行くと。
たとえばロッカールームの構造や設備は
調べればわかることですよね。
でも、試合を見て、
試合中の選手の姿を目の当たりにしたとき、
「これって知らなかったかも」「ここが気になる」
という発見や疑問があったとしたら
それは取材でしか見つからないものですよね。
そういう発見や疑問を見つけにいっているんです。
──
そうした取材で得た疑問が作品に活かされているんですね。
本田
『ハイキュー!!』では多くの試合にうかがったり、
学校にもご協力いただきましたが、
やはり作品中のセリフ、キャラクターの考え方には、
取材で会った選手や先生たちの言葉から
勉強させていただいたことがたくさん反映されています。
でも、最初に学校にアポイントとるのって、
ちょっとこわいんですよ。
僕、先生に怒られたイメージしかないんでね(笑)。
──
アポをとるのも編集者の仕事なんですね。
本田
そうです。
雑誌や新聞などメディアの取材と違い、
マンガの下準備の段階の取材の場合、
取材した結果が形になるかどうかもわからない。
世に出るかも決まっていない取材に
1時間、2時間と時間を割いていただく
心苦しさもあります。
でも、同じテーマに興味を持っているという
共通点があるので、
「興味を持ってくれてありがとう」と
前向きに考えてくださいます。
いろいろな都合から、取材が叶わない場合もありますが、
よい関係でいられるのはありがたいことですね。

(つづきます)

2024-07-06-SAT

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  • 学習マンガ雑誌
    『勉タメジャンプ』


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