画家の山口一郎さんに
2025年のホワイトボードカレンダーの
月の数字を描いていただきました。
発売から20年目の記念すべき年を、
山口さんならではの「お花の絵」で、
素敵に飾っていただきました。
月が変わってめくるたびに、
うれしい気持ちになるカレンダーです。
山口さんの創作論も、おもしろかった。
ぜひ、お読みください。
担当は「ほぼ日」奥野です。
山口一郎(やまぐち・いちろう)
画家。 1969年静岡県生まれ、香川県在住。 セツ・モードセミナー卒。 在学中にマガジンハウスの雑誌『Olive』で イラストレーターとしてデビュー。 卒業後はマガジンハウスの仕事を中心に 雑誌・広告でイラストレーターとして活躍。 2007年に東京・南青山のギャラリー DEE’S HALLにて画家として初個展をひらく。 現在は日本、海外の各地で絵の展示を続けている。 ︎
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- ──
- 日本中で売ってる化粧品の仕事のあと、
浜松のパン屋さんで
アルバイトをしながら、
絵は描き続けてらっしゃったんですか。
- 山口
- はい。自分でホームページをつくって、
好きな絵を描いて、
それを、毎日毎日アップしていました。 - で‥‥ホームページを見てくれる人が
だんだん増えてきたときに、
知り合いが
「山口さんをギャラリーに紹介したい」
と言って、
青山のギャラリー「DEE'S HALL」を
紹介してくれたんです。
- ──
- なるほど‥‥。
- 山口
- そこからですね。
- 画家という肩書で、
絵を描きはじめることになったのは。
- ──
- パン屋さんのアルバイトも、辞めて。
- 山口
- はい。画家という肩書を持ったから
というよりも、
パン屋の店長さんが、
まあ、ちょっと怒りっぽい人で(笑)。 - 最後の最後も怒られて、
じゃあ、ぼく辞めますみたいな感じで、
辞めることになったんです。
けっこう長くバイトしてたんですけど。
- ──
- はああ。ちなみにおうかがいしますと、
パン屋さんになりたかったのって、
いったいどうして‥‥なんでしょうね。
- 山口
- 単純に憧れてたんですかね。
夢にあふれるイメージも、ありますし。 - ただ、実際にやってみると、
パン屋さんって、すごくきつい仕事で。
ちっちゃな子が
大きくなったらパン屋さんになりたい
とかってよく言いますけど、
いまでは
「いやいや、大変だよ!」って(笑)。
朝は早いし、休みはほぼないし。
- ──
- そうなんですか。朝は何時ですか。
- 山口
- ぼくは仕込みが終わってからの勤務で
朝7時からでしたけど、
店長は
朝4時か5時から仕込みをしてました。
パン屋の人って、お店が休みの日でも、
夕方には明日の仕込みをしてるんです。
だから、まるまる一日のお休みがない。 - パンの発酵にあわせて
自分の体を動かさないといけないので、
疲れたからといっても休めない。
だって、パンが発酵しちゃってるんで。
- ──
- うわー‥‥。
- 山口
- 大げさでなく、「秒単位」で
パンに合わせて人間が動いてますから。
- ──
- 生きもの相手みたいな仕事ってことか。
- 山口
- パンに関わっていること自体は、
やっぱり、うれしかったんですけどね。
それ以上に大変でした。
それでも、2~3年はやってたのかな。
- ──
- さっき山口さんも言ってましたが、
ちっちゃい子に
「大きくなったら、何になりたい?」
って聞くと、
パン屋さんやケーキ屋さんって答え、
多いじゃないですか。 - あれって、どうしてなんでしょうね。
- 山口
- んー、夢を感じるからなんですかね。
パンやケーキって
甘くておいしくてキラキラしてるし。
- ──
- 花も、そういうところありますよね。
かわいくて、いい香りがして、
色鮮やかで、みんな大好きですしね。 - 理由はわからないけど、
惹かれるものって、あるんですよね。
- 山口
- ありますね。ぼくの場合は、
それが、花やパンだったんですよね。
- ──
- パン屋さんのバイトを辞めたあとは、
ふたたび「絵筆一本」で。
- 山口
- いやいや、画家という肩書で
絵を描きはじめてはみたんですけど、
最初から絵なんか売れないし、
お金も稼げないから、
結局、郵便局でバイトしながらです。
- ──
- わあ、そうですか。
- 山口
- バイトが終わったら、
すぐ家に帰って、絵を描きたかった。
だから、通勤に時間のかからない
近所の郵便局で、
配達をやりながら描いていたんです。
- ──
- じゃあ、ニューヨークへ行ったのは、
そのあとですか?
- 山口
- はい。でも、3か月だけですけどね。
- まったく英語ができなくて
たったの3日でホームシックに罹り、
ノイローゼっぽくなって‥‥。
- ──
- えっ、3日で‥‥ですか。
- 山口
- はい、本当に、ほんの「3日」でしたね。
- 現地に住んでらっしゃる日本人のかたに
いろいろサポートしてもらって‥‥。
3日で「帰りたい」と言ったら、
何しに来たんですかって言われましたが。
- ──
- それでも3か月、がんばった。
- 山口
- はい。一念発起して、
ニューヨークで個展をやるって決心して
日本を飛び出したんですが、
そんな精神状態だから、
描く絵描く絵がぜんぶ「暗い」んですよ。 - 暗すぎて、発表できませんでした(笑)。
- ──
- えええ、そこまで暗い絵だったんですか。
想像できないなあ。 - 山口さんの絵って、
色が塗られていなくてもどこか明るくて、
見ていると、
何だかやさしい気持ちになるから、
発表できないほど暗い絵って、
ちょっと、ぜんぜん想像できないですよ。
- 山口
- とにかく、色調が「暗い」んです。
- 部屋にいると息詰まりそうになるから、
つねに外を歩きまわってました。
だから、ほとんど絵は描いてなかった。
もうね、われながら、
いったい何しに来たんだろうと(笑)。
- ──
- 多忙な売れっ子イラストレーターから、
パン屋さんのアルバイト、
画家になって、ニューヨークへ飛んで、
絵が描けなくなって‥‥。
- 山口
- いろいろありましたねえ(笑)。
(つづきます)
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