日本のすばらしい生地の産地をめぐり、
人と会い、いっしょにアイテムをつくる試み。
「/縫う/織る/編む/」。
やわらかく、しなやかで、何年たっても美しい、
MADE IN JAPANの希少なコーデュロイに出会いました。

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やわらかく、しなやかで、何年たっても美しい、 MADE IN JAPANの希少なコーデュロイ。 その作り方を訊きました。 世界唯一の仕上げ加工 磐田産業 雪島さんインタビュー

日本産の希少なコーデュロイは、
生地を織った後にもたくさんの加工を施します。

パイルをカットして畝が出来た後に、
仕上げ加工をしているのが、
磐田産業さん。

その仕上げ加工とは、
水で、炎で、風で、
生地をくたくたに揉み込むというもの。
世界でもここだけという、
昔ながらの技術が残っています。

手間と、時間と、職人の技とを、
惜しみなくそそいだコーデュロイは、
やわらかくしなやかで、
畝もふっくらとしています。

今回ほぼ日でご紹介するコーデュロイも、
磐田産業さんで加工を施したものです。

HUIS代表の松下昌樹さん、
カネタ織物の太田充俊さん、
遠州・タケミクロスの竹内さんと一緒に、
お話をうかがいました。

ヨーロッパのコーデュロイを
日本のコール天に。

──
専務さんはこのお仕事は、ご実家を継がれて。
専務
はい。
父が早く亡くなっちゃったもんだから、
若いときからずっと。
もう、30年以上ですね。
──
その頃は、こちらのような仕上げの工場が
このあたりにたくさんあったんですか。
専務
だいたいこの辺に20軒ぐらいあったのかな。
松下
すごい、集中してたんですね。
──
織ってるところも多かったんですか?
竹内
このあたりはもともとコール天の産地で、
織機もカット屋も、
たくさんあったんですよね。
太田
ありましたね。
機屋なんて、
1,500社くらいあったって聞きましたよ。

松下
カッチング屋さんもたくさんいた。
専務
そうですね、昔はね、たくさんいましたね。
──
ここがコーデュロイの産地になったのは、
どうしてなんでしょう。
太田
コーデュロイって、
元々はヨーロッパで作られた生地なんですね。
一説には、ルイ14世の戴冠式に献上されたもので、
Corde du Roi(王様の畝)って
意味の名前がつけられたと言われています。
その生地が日本に入ってきて、
独自に研究して自分たちで作り始めたのが、
この天龍社産地の人なんですよ。
竹内
技術が渡って来たわけじゃなくて、
見よう見まねでオリジナルでね。
──
布を見て、作っちゃった?

太田
そう。布を見て。
それを作るにはどうしたらいいかって考えて、
カッチング機を作った人が、
ここ天龍社産地の人らしいんです。
そこからコール天作りが始まって。
──
研究して、作っちゃうんですね。
太田
見よう見まねで作っちゃうだけではなく、
独自に発展していったんです。
もっとやわらかくするにはどうしたらいいか、
もっと丈夫にするには、
艶を出すには、って研究して、
欧米のものを超えていった。
だから日本のコール天って、独特なんです。
ここだけのものなんですね。
松下
自分たちで見よう見まねで作って、
結局、海外を超えちゃうっていうのが
日本のね、織りの歴史だと思うんですよね。

──
先ほどから、コーデュロイのことを
「コール天」と呼んでらっしゃいますけど?
竹内
欧米では「コーデュロイ」ですけど、
こっちでは、「コール天」っていうんですよ。
特に天龍社産地の人は。
太田
ヨーロッパから、同じようにパイルをカットする生地である
「ビロード」が届いたんですが、
それは日本で「天鵞絨(てんがじゅう)」といいます。
厳密に言うとビロードは経パイル織物なので、
コール天とは別物ですが、
パイルをカットする織物はまとめて「天鵞絨」と呼ばれていて。
コーデュロイは、
「畝=コール」がある「天鵞絨」だから、
「コール天」と呼ばれました。
竹内
そう。コール天って意地でも呼んでる(笑)。
──
海外のコーデュロイとはクオリティが違うから、
コーデュロイではなくて、コール天と呼んでいるんですね。
産地のプライドを感じます。

世界でもここだけの、仕上げの技術
松下
天龍社産地のコール天に欠かせないのが、
磐田産業さんが担っている仕上げの工程なんです。
専務
カッチングされた生地を、糊抜きや水洗い、
毛焼き、エアタンブラーという加工をするのが、
うちの仕事です。

松下
かなりダイナミックですよね。

竹内
日本だけのやり方で、できるのはもうここ1社だけですから、
世界でもここだけ、っていうことです。
この工程があるから、日本のコール天って
生地がメチャクチャやわらかいんですよ。
──
ポイントは水、ですか。
竹内
そうですね。
ほかではここまでしっかりした
水洗いをやらないですね。
軽くは通すんですけど、
ここまでしっかり通して、
叩きながら洗うと、生地がもみほぐされて、
ふっくらするんですよ。

太田
コール天って、
パイルの部分をカッチングしただけでは
まだ毛が寝たままなんですね。
この水洗いのおかげで、毛が立って、
しっかりとした畝が出るんです。

専務
この仕上工程の工場が
どうしてここかっていうと、
ここの地名が「中泉」っていうくらい、
水がたくさんある地域なんですよ。
──
水、たくさん使いますもんね、
見せていただいて、びっくりしました。
松下
それでこのあたりに加工場が集中したって
いうことなんですね。
竹内
昔はコール天も天竜川で洗ってたっていう。
一番元祖のときは。
太田
あ、そうなんですね。
専務
川で洗うか、機械で洗うか、その違いですね。
──
糊抜きをして、揉みながら、
叩きながら水で洗って、
生地を広げるために引っ張り上げて。
長い道のりですよね。
でもそれで、いい風合いが生まれる。

太田
それから乾燥させると、
生地がある程度
ふっくら起毛されてる状態になります。
そしてそこから、毛焼きですね。
──
毛焼きっていうのがまたすごいですよね。
まさか火を使うとは。
松下
びっくりするでしょ?
僕も最初、ほんとうに驚いた。

──
毛焼きはなんのために?どんないいことがあるんですか?
竹内
布の表面のケバケバがなくなるんです。
繊維が整う感じ。ざらつきがなくなる。
──
表面がなめらかになる?
太田
そうですね。タッチがぜんぜん違いますね。
肌触り、手触りが。見た目も光沢が増えたりとか。
毛焼きって、染色工場でもやったりしますけど、
磐田産業さんのは、
もう火の威力がぜんぜん違います。

竹内
そう。火力が違うんでね。
染色工場でやる毛焼きは、ゴーッと火は出ない。
普通にガスの青い火でサーッとやるだけなんで。
──
強い火力でやるのはどんなメリットが?
専務
表面だけじゃなくて、
コール天の畝の間まで、ケバをなくすんです。
そうしないと、染めにムラが出るんですよ。
太田
磐田産業さんは毛焼きの後、
生地の表面がしっかり焦げてるんです。

──
え? 焦げる?!焦げた生地をその後どうするんですか?
竹内
もう一回、さらして、水洗いするんです。
ひたすら洗って、やわらかくする。
太田
それから、エアータンブラーを使って、
空気の力で壁に生地をぶち当てる工程があります。

竹内
空気のちからで壁に生地をぶち当てることで、さらに生地をほぐして、
毛を立ち上がらせるんです。
風速300m/sもの空気の力で、
生地を揉むんでね。
風合いがさらにやわらかくなるんですよ。
──
風速300m/s!
徹底的に生地をいじめるんですね。わあ。
太田
そうです、それに耐えられる生地を織ってます。

手間をかけるから、いい風合いになる。
松下
他の国、たとえばアジアあたりだと、
もっと効率化した機械を最初から作っちゃって、
安価な生地を作れるんですよ。
化学薬品を使ってそれっぽい加工をするので、
見た目は同じようなものができて。
ーー
そういった安価なコーデュロイと、
天龍社産地で作られたコール天は、
どういったところが違うんでしょう?
太田
まず、糸の密度が全然違いますね。
言い方は悪いですけれど、安価なコーデュロイって
「スカスカ」に織られてるんです。
コール天の畝、毛羽の量が少ないんですね。
そうすると、毛羽が抜けやすくて、
品質が悪くなります。

竹内
密度がスカスカだと、こういった水洗いだとか、
毛焼きだとかには耐えられないんですよね。
だから、化学薬品とかで、表面的に処理しちゃう。
松下
時代の流れって言えばそうなんですけど、
天龍社産地で作っている日本のコール天は、
昔の設備をそのまま使い続けてるんで、
手間が当然かかるんです。
だけど、その良さは、着れば一発でわかるんですよ。
やわらかくて、ほんとうにしなやか。

──
磐田産業さんの機械って、
昔から変わってないんですか。
専務
基本的には同じだけれども、
常にこう、まあ少しずつ変えてますよ。
松下
改良を加えたりしてるんですね。
竹内
創業は何年ぐらいになるんですか。
専務
もう、85、6年かな。
松下
機械はそのままですもんね、たぶん。
専務
そのまま。

──
工程は省略できないっていうことですよね。
専務
あ、それはそうです。
松下
効率化なんて考えなかったんでしょうね。
だから今、すばらしいコール天が着られる。
──
ありがたいことですね。
松下
設備もですけど、職人さんの手作業ですよね。
そこも大きいと思うんですよ。
みなさんベテランですよね。
長く働かれてる方が多いんでしょうね。
専務
長いですよ、みんな長い。

松下
そうでしょうね。
動きがやっぱりね、機敏っていうか。
──
うん。無駄がないですよね。
松下
ササッと動く。
僕ら、毛焼きの火がつく瞬間なんか、
ちょっと「うわっ」って
たじろいじゃいましたけど。
みなさん、平然と。
──
高温の機械を前に自然に動いてらして。
あまりにも普通なんで、
ちょっと見とれてしまいました。
専務
あ、そうですか。
外から見ると、そう見えるんですかね。
松下
見えます、見えます。
竹内
エアータンブラーを担当されてる三谷さんも、
かなりのベテランですけど、
大きな機械相手に、
そりゃあ軽々と動いてますよね。

──
コール天って、織られてから、
カッチングがあって、
ここでの仕上げがあって、染めがあって。
とてもたくさんの工程があって、
それぞれをみなさんが担ってますよね。
どんな服になっているのかは、
あんまり伝わってこないんでしょうか。
太田
最終的にどんな服になるかっていうのは、
生地の作り手ってあんまり知らないんですよね。
ここまで伝わってはこない
専務
ああ、でもね、洋服を見に行くと
おもしろいんですよ。
売り場の洋服に触ると、
それだけで織機の違いがわかる。
自分の感覚でわかるんですね。

松下
ああ、そうですか。
それはやっぱり、毎日いろんな布触ってるから。
専務
たぶん、みなさん同じだと思うけど。
どんな感じかなって、指先で確かめるのが楽しい。
松下
すごいなぁ。プロならではの楽しみですね。
──
いいお話が聞けました。
ありがとうございました。

(磐田産業・おわりです)

2024-11-01-FRI

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  • 販売日|2024年11月7日(木)午前11時より
    販売方法|通常販売
    出荷時期|1~3営業日以内