コーデュロイは、
生地を織った後にもたくさんの加工を施します。
まずはパイルをカットして、
畝を作り出します。
そのカットを担うのが、
コーデュロイ生地のカッチング専門工場、
カネタカ石田さん。
日本にもう数軒しか残っていない、
貴重な技術の持ち主です。
カッチングの極意とは?
そして残された技術をどう繋いでゆくのか?
HUIS代表の松下昌樹さん、
カネタ織物の太田充俊さん、
タケミクロスの竹内さんと一緒に、
お話をうかがいました。
カネタカ石田株式会社
カッチング専門工場として創業。
コーデュロイなどのパイル織物のカッチング加工を
行っている。
石田大輔(いしだ だいすけ)さんは、
カネタカ石田株式会社の2代目。
- 石田
- ここがうちの工場です。
機屋さんで織ったものがここに来て、
うちでカッチングの加工をして、次に仕上げ加工、
そして染色、という流れですね。
コール天の工程でいうと2番目になります。
機屋さんで織ってきた生地を
カッチング機械にかけます。
- ──
- カッチングというのは、
どういうことをするのですか?
- 石田
- コール天の生地は、緯(よこ)糸で
パイルがまっすぐに作られた生地なんですね。
その緯パイル糸を、カットする。
切る作業です。
- 太田
- 織られた時点ではまだ畝のない、
パイル状の生地なんです。
- ──
- パイル生地というと、タオルのような?
- 太田
- タオルは経(たて)糸をパイル状に織っていますが、
コール天は緯糸をパイルにしています。
- ──
- そうなんですね。
そのパイルを、切ってしまう?
- 太田
- そう、パイルを切ることで、
コール天のあの畝ができるんです。
- ──
- あーー、なるほど!
- 石田
- わたしたちは、その畝を出現させるために、
カッターでパイルを適切にカットする、
それを専門でやっている職人です。
- ──
- この丸いのがカッターですか?
- 石田
- そうです、これがカッター。
カッターが何枚もシャフトにセットされています。
これがキレイに回ってないと
キレイに加工ができません。
ブレちゃいけないところなんですよ。
- ──
- いちばん大事なところなんですね。
- 石田
- まず、ガイドニードルという工具で
パイル部分の糸だけをすくっていきます。
そのガイドの間をカッターが通って、
すくった糸だけが切れるという仕組みです。
- ──
- はぁ〜すごい。
この細いパイル部分に、
ガイドを一本ずつ入れるんですか。
そこはもうほんとの手作業なんですね?
- 石田
- ああ、そうですね。はい。
ここは完全な手作業ですね。
どうやっても自動化できないんですよ。
- ──
- いちいち手でやる。
- 石田
- はい、根気がいります(笑)。
ちなみに今ここにある生地だと、
220本ぐらいカッターがセットされています。
畝が、布幅いっぱい経(たて)方向に
220本あるということです。
220本ってまだ少ない方なんですよ。
太畝のたぐいです。
- 松下
- 一番細い微塵コールだとどのくらいですか。
- 石田
- 1,120本あります。
そうすると1回で切ることができないんで、
そういう細かいものは、
1本おきに2回に分けて切っていくんです。
- ──
- え、同じ工程を2回やるんですか。
- 石田
- そうです。
1,120本の半分ですから、560本ずつを、2回。
1本あけで切ったら、
ひっくり返してもとに戻して、
また同じ方向からザーッと切るんです。
- 石田
- カッターと生地の距離が重要なんです。
緯パイル糸ってすこーし浮いてるんですけど、
それでも地の生地まで数ミリですから。
地の生地を切ってしまってはいけないし、
パイル糸はしっかりと切らなくてはいけない。
コンマ数ミリで、切れ味が変わってきます。
- ──
- その調節はどうされるんですか。
- 石田
- 最初にテストみたいなことをします。
そこでまず、
だいたいこのくらいの刃の深さだなって
あたりをつけといて、
そこから微調整しながら判断します。
- 竹内
- これが一番、難しいところですよね。
- ──
- 最初は職人の勘で、深さを決めるんですか?
- 石田
- そうですね、まずは。
あとは、記録に取っておいてます。
どういう組織で、どういう癖があるかとか、
そういうのを書いたファイルが過去何十年分、
たくさんあるので、
それを参考に、ヒントを得て、試してみてますね。
- 竹内
- すごい、虎の巻だ。
- 石田
- なくなったら困っちゃう(笑)。
これでいいだろうって思ってやっちゃうと、
たいていはだめになるんですよ。
同じ組織、同じ糸の太さでも、
毎回、やっぱり違いますからね。
だからね、まず疑ってかかる。
- 松下
- だろう運転じゃだめってことですね。
- 石田
- そう。
ほんとうにコンマ数ミリに集中して、
カットしていきます。
- 石田
- 布の張り方、これもすごく重要です。
布がこう、機械で動いてるものなので、
たわむんですよ。
そうするとやっぱりたわんだ分、
カッターの入り具合も変わってしまって、
ちょっと地を切っちゃったり。
なので、いつも均一な
布の張り方を保たなきゃいけない。
- 太田
- 布を張るときって、湿度も重要ですよね?
- 石田
- そうね、急に雨が降ると、
すごい湿気を吸うんですよ。
海も近いもんで。
- ──
- 天候でも変わってくるんですね。
- 石田
- すごく変わります。
なので、梅雨時期はすごくやりにくいんですよ、実は。
機械にかける前にちょっと外に置いておくと、
それだけで、メチャクチャ吸うんですよ、湿気を。
- ──
- 置いておくだけで、ですか。
- 石田
- そのまま機械かけると、
電気で制御しているので、
ものすごい湿気を吸ってる生地だと
動かなくなっちゃう。
通電しちゃうんですよ。
- ──
- ええー、そんなに。
- 松下
- 天然繊維って、
ほんとうに生きものなんだなって思います。
- ──
- 今回、ほぼ日でご紹介するコーデュロイも、
カネタ織物さんで織ったものを、
こちらでカッチングをされているんですよね。
- 松下
- そうですね。
一番生地が薄くて、畝が細かい微塵コール、
大変だったんじゃないですか?
- 石田
- ああ、あれはもう(笑)。
- 松下
- 石田さん泣かせでしたか。
- 石田
- いや、大変でした。
でも切れたときに、
すごく表面がキレイなんですよね。
おお、これキレイに切れてる!
と思うと嬉しくなる。
- 松下
- それならよかった。
畝が細かくて、布も薄いから、
針と刃と、布の調整がすごく細かいですよね。
- 石田
- うん、そうですね。ほんとに薄い。
コンマ数ミリ、どころじゃない。
0.0何ミリの世界で調整してるんでね。
- 松下
- 聞いちゃうと申し訳ない気持ちになります。
- 太田
- 糸を細くすれば当然軽くなるし、
やわらかくなるし、薄くなるんですよ。
だから、できるだけ
細い糸を使いたかったんですけど、
糸が細いと強度がないので。
- 松下
- 強度が問題だったんですよね、最初ね。
- 太田
- コール天って緯糸がすごく多いんですね。
生地って、糸が多い方に裂けやすいんですよ。
でも、強度を出すのに密度を甘くしていくと、
今度はゆるくなっちゃって、毛が抜けてしまう。
そのせめぎ合いがメチャクチャ難しくて。
2年ぐらいかかって、いろいろ調整して、
ちょうどいい塩梅のところができました。
- 松下
- やろうと思ってもかなりの技術がないとね。
あの薄さであの強度で、しかもシャトルで。
- ──
- 宝のような生地を作っていただき、
ありがとうございます。
- 太田
- この微塵コールは特に、
世界一薄くて軽いコール天です。
- 松下
- コール天をシャトルで織る機屋さんは
もう残ってないんです、天龍社の中にも。
カネタ織物さんだけ。
- ──
- だけ?
- 太田
- そうですね。
世界で、シャトルでコール天を織ってるのは、
たぶんうちだけ。
- ──
- わあ。世界で唯一のものなんですね。
- 太田
- コール天は、
緯糸がパイルと地の二重に織られていて。
横にぎゅっと密度が高くなって、
織り縮みも発生するんです。
だから、横に負けないように
経糸をしっかり張らないといけなくて、
織機にパワーが必要なんですけど、
シャトル織機って良くも悪くもパワーが弱いんです。
そういう面で、
シャトル織機は実はコール天には不向き。
エアジェットのような
革新織機の方が相性はいいんです。
- ──
- そうなんですか。
では、なぜシャトル織機で?
- 太田
- やっぱり、軽くてふっくらした生地になるんです。
パワーが足りないけど、手間をかけて、
じっくり、ゆっくり織る。
前回の春夏物の生地でも
ご紹介しましたけども、
糸が扁平につぶれることなく、
ふっくら織り上がるんです。
- 松下
- 糸にテンションをかけすぎずに、
ふにゃふにゃでぎゅうぎゅうに高密度で織る。
遠州織物の特徴ですね。
- 太田
- そうです。
密度が高いから、
コール天の畝も嵩高でふっくらしています。
シャトル織機のコール天は、
着てみてなんとなく
「あ、なんか違うぞ」っていう
やわらかさが感じられるんです。
- ──
- 春夏物でご紹介した
シャトル織機で織られた生地も、
高密度なのに柔らかくて、
しなやかで、落ち感もあるから
ほんとうに着心地がよかったです。
- 太田
- そこがシャトル織機で織られた生地の
最大の特徴ですね。
でもまあ、シャトルでコール天を織るなんて
基本的には向いてないんでね(笑)。
世界でうちだけだろうなと思いながら作ってます。
- 竹内
- 石田さんの機械は、やっぱり改良を?
- 石田
- この2台は親父が改良しました。
- ──
- どう改良されたんですか。
- 石田
- もともとカッチングの機械ではあるんですけど。
昔は幅がすごく狭かったんですよ。
で、幅を広くしなきゃいけないっていって、
うちの親父も昔、機械の設計とかやってたんで、
作ってみるか、って勢いでこれを作ったんです。
- ──
- そういうことができちゃうのが、産地ですね。
- 松下
- カッチングの職人さんって、日本でも
遠州産地にしかいないと思うんですけど。
石田さんのほかには?
- 石田
- もうじき80歳くらいの方と、
イベントとかに出てる、
同じくらいご高齢の方がお一人いますかね。
- 太田
- 僕はもう石田さんしかいないと思ってやってます。
- 石田
- 仕上げの磐田産業さんも、1社だけだし。
技術は継いでいかなきゃいけないんですよ。
若い子に継いでもらいたいなと思う。
- 松下
- 大学生の子、見学に来るらしいですね。
- 石田
- 来ますよ。そこの静岡産業大学とか愛知大学とか。
あと、静岡の大学が何校か集まって、
地場産業のカリキュラムがあったりね。
- 松下
- 石田さんは、今日もそうですけど、
こうやってすごく積極的に受け入れてくれて。
その時間、お仕事が止まっちゃうのに。
- ──
- ほんとうにありがとうございます。
- 石田
- 口で言っても、説明しにくいからね。
やっぱりこうやって見てもらって。
理解していただけるのが
一番、うれしいんですよ。
- 松下
- そうですね。
後継者になれば、
日本のコーデュロイを背負えるっていう、
すごい技術を身につけられるんですから。
- ──
- 期待したいですね。
ありがとうございました。
(カネタカ石田・おわりです)
明日は、水洗い・毛焼き加工の、
磐田産業さんのインタビューをお届けします。
2024-10-31-THU
-
販売日|2024年11月7日(木)午前11時より
販売方法|通常販売
出荷時期|1~3営業日以内