静岡県西部を南北に流れる天竜川。
その東にコーデュロイの産地、
天龍社があります。
国内に流通している
コーデュロイの服の生地は、
99%は海外産で、
日本産はわずか1%です。
そのうち、じつに95%以上を、
天龍社産地で作っています。
今回「ほぼ日」が
HUISさんと組んでつくった
コーデュロイのアイテムは、
パンツ、ジャケット、ワンピースの3つ。
天龍社産地のみなさんが、
手間と、時間と、職人技を
惜しみなくそそいだのものばかりです。
「ほぼ日」の“布好き”な
「/縫う/織る/編む/」プロジェクトチームが、
天龍社産のコーデュロイについて、
取材に行ったぬいとみちこがぞんぶんに語りました。
金子 縫
金子 縫
2021年から「ほぼ日」の商品事業部で
「〈O2〉」「つきのみせ」
「marikomikuni」など
アパレルの企画・生産管理を担当。
初就職からずっとアパレル一筋20年、
「ほぼ日」に来る前はセレクトショップの会社で
下着やルームウェアの
商品計画などを担当していたこともあり、
このプロジェクトの中心人物ながら、
「コンテンツをつくる仕事」は、ほぼ、はじめて。
名前の「縫」(ぬい)は本名、
好きなものは裁縫、布、服地と断言。
スターウォーズも好き。
渡辺 やえ
渡辺 やえ
「ほぼ日」古株乗組員。2005年入社。
商品事業部に籍を置き、
「ほぼ日手帳」や「やさしいタオル」
「BIWACOTTON」などの工業製品系から、
「アトリエシムラ」「うちの土鍋の宇宙。」
「MITTAN」「tretre」
「そろそろ、いいもの。」などの手仕事系まで
さまざまなコンテンツに携わる。
最近力を注いでいるのは、
そういうこととはまた別の「MOTHERプロジェクト」。
自他ともに認める猪突猛進型のOTAKU気質で、
ゲーム、マンガ、歌舞伎など、多方面に詳しく、
どせいさんとピカチュウが大好き。
オーディオも家具も陶磁器も、
好きになったものや、好きな人が好きなものには、
専門書まで読んで勉強し専門家なみの知識をもつが、
「カメラとクルマだけは、モノにならなかった」。
モノを集めすぎて、女性誌で受けた自宅取材で
「汚部屋度満点」という名誉を授かったが、
あくまでもモノが多すぎるだけで、
じぶんなりの整理整頓はできているという。
山川 路子
山川路子
「ほぼ日」デザイナー。2007年入社。
編み物が好きで、自分が着る冬のニットの多くはお手製。
三國万理子さんを師と仰ぎ、「Miknits」を立ち上げ、
プロジェクトリーダーを10年以上にわたりつとめている。
デザイナーながら、情熱的で冷静な編集者的視点をもち、
伊藤まさこさんの「weeksdays」や
なかしましほさんの「OYATSU」プロジェクトなどにも
企画立案から参加している。
私生活では双子(プリンセスブーム中の女児)の母。
酒井 菜生
酒井菜生
「ほぼ日」商品事業部所属。2019年入社。
中・高はフランスで教育を受けたという帰国子女。
渡辺やえと組み生産管理を担当することが多く、
やえの商品愛ゆえの
暴走に近い仕事ぶりをコントロールできる
唯一の存在とも言われ、なにかと頼られている。
その表情はつねにクールかつ
アルカイックスマイル。
お寺(名刹らしい)の娘という出自ゆえか。
- コーデュロイの産地、磐田に行ってまいりました。
ここは、大きいくくりでは遠州なんですけど、
2024春夏物でご紹介した浜松とは、
天竜川をはさんで東側にありまして、
織物にかんしては「天龍社」と呼ばれるところなんです。
- ぬいさんはコーデュロイに特別な思いがあるんですってね。
- そうなんです。
私、最初に入った会社が
遠州のコーデュロイをあつかっていて、
実際に私も着てたんですよ。
それはすごくやわらかいものだったから、
ずっと好きで着ていて、
コーデュロイってそういうものだ
と思ってたんですよね。
でも、最近、見かけるものって
なんかゴワゴワするし、
全然違うなーって感じていたんですよ。
じつは、以前、HUIS(ハウス)さんのモノづくりを見たときに、
今回のコーデュロイの話を聞いたんです。
もはや加工するところが1社しか残ってない、って。
それで、どうしても見てみたい!と思ったんです。
- 実際に見て、どうでした?
- 思っていた以上でした。すごかった。
生地に仕上がるまでに、
ここまで手間と時間をかけるんだ、って驚き。
- コーデュロイって実際、
どうやってできるものなんですか。
- できるまでには、長〜い道のりが。
まず、生地が織られます。
- たしか、まずパイルを織るんですね。それが最初。
- タオルとは違って、
規則正しい並びをしてるパイルですよね。
- 整然としたパイルですよね。
- タオルは基本的に経糸(たていと)がパイルになってますよね。
コーデュロイは、緯糸(よこいと)がパイル。
- なるほど。
- そのよこ糸のパイルが一列に、こう。
- 並んでる。畳みたいなことですね。
- そうです、そうです。
そのパイルの、ループ状のところを切る。
というのが次のカッチングっていう工程で、
織りとは別の専門の工場で行います。
ループになってるところを切ると、
畝(うね)ができて、コーデュロイになるんです。
- そもそも生地からして違うんですよね。
それを織ってるのが‥‥。
- 今回お邪魔した、カネタ織物さん。
シャトル織機ひとすじの機屋さんです。
春夏で大好評だった、高密度の生地を
織ってくださったところです。
今回のコーデュロイも
シャトル織機で織られてますけど、
シャトルでコーデュロイを織るっていうのは
非常にたいへんで効率が悪いらしいんですよ。
- シャトル織機でコーデュロイを織ってるのは、
もううちだけだって、カネタ織物の太田さんが。
- 一番向いてないんですって。
超高密度でパイルを織っていくと、
経糸が負けちゃって、どうしても強度が悪くなる。
そこを克服するために、ものすごく研究して、
いろいろ大変だっていうのを
太田さんが楽しそうに説明してくださいました。
くわしくは今後のコンテンツでお読みいただけます。
- で、次がカッチング専門の工場。
カッチングをする人も、もう少ないんですよね。
ここの職人さん、石田さんが
カッチングの手順を説明してくださって。
- このループにね、ひとつひとつ手作業で
刃を通していくんですよ。
- え、全部、手で?
- そう。全部手作業で!
それから切っていく。
- 半端なく細かくて、気を遣う作業。
すごいなと思いました。
あえてコール天と呼ぶ。
- ここまででもすごいんですけど、
カッチングの次の工程が、
いよいよ磐田産業での加工です。
- へえー。
ここが、もう1社だけしか残っていない、っていう。
どんなことをするんですか。
- まずひたすら洗うんです。
糊をとって、洗ってっていうのを、
大量のお水を使って、
かなり長い距離かけて進めていきます。
叩き洗いをして、やわらかくするんです。
- ビルの3階ぐらいの高さまで上げて、
落として、たたみ直して、乾かして、とか、
いろんなことをするんですけど、
もちろん全部ちゃんと意味があって。
- そして最後に毛焼きというダイナミックなことをします。
- 毛焼き?
- そう、文字通り、毛羽を焼くんです。
ものすごい火力で。
- クライマックスですねー。
やっぱりグワッと熱くなります?
- うん、熱かった。
- 布が燃えちゃったりしないんですか。
- 素人目に見たら燃えてる、もう。
終わったら焦げてるもん。
茶色になってるの。
- やっぱり?
- えっ? って思う。
でも、穴が開いたりはしてない。
- それをまた洗うと、焦げがとれる。
で、染め屋さんに行く。
- すごい道のりでした。
- そもそも、焼くのは、なんのために?
- 布の余分なケバを取るんです。
これをすることで、きれいに染まる、仕上がる。
- ものによっては、
染めたあとにエアータンブラーっていう、
風圧をかける工程があったりして。
- だからこのコーデュロイは、
相当苦労して大人になってる(笑)。
- ほんとにもう人間だったら耐えられない。
- そう、厳しくされ、鍛え抜かれた生地。
だからこそ、ふっくらするんですよね。
もみ込まれるからそうなるんですって。
- あらら、過酷な人生のようだわ。
それまでの間にカットはしないんですね。
毛並みの芝刈りみたいなことはせず。
- それはしないんですって。
必要ないってことでしょうね。
カッチングのところできっちり整ってるし、
もっといえば最初の織りがいいから、
途中での調整はいらないんじゃないかな。
- それぞれの工程がものすごくていねい!
そうやってできたのが、
このコーデュロイなんですねぇ。
- コーデュロイは、明治時代に海外から入ってきて、
日本でも真似て作りはじめたんだけれど、
天龍社でどんどん独自に改良・発展して、
いまでは、海外のコーデュロイとは
見た目は似ているけど、クオリティが違うんです。
うんと高い品質を持っている。
だから、このあたりの方はみなさん、
プライドを持って、
和名の「コール天」って呼んでるんです。
- この磐田の、天龍社のコーデュロイの
いちばんのよさっていうと?
- 作ってるみなさんは、やわらかさって言ってました。
ふっくらしててやわらかくて、しなやか。
それに、光沢もあって。
- シャトル織機で織ったことも、
やわらかさの一つの理由になるの?
- そうですね、高密度で丁寧に織ってるから
あのもみ込みに耐えられてっていうことですね。
もみ込めるから、やわらかくなる。
- でもシャトルで織るのは、時間もかかるし、
いろいろ大変そうですね。
- 私、すごいなと思ったのが、
HUISさんがもう年間で発注してるんですって。
カネタ織物さんのところのある特定の織機は、
一年中ずーっとコーデュロイだけを織るように
年間の計画を立ててるんですね。
- なるほど、なるほど。立派ですね。
- そうやって、効率が悪くても
採算が取れるように工夫されてる。
- そういうの、ほんとに大事ですよね。
- カッチングも加工も、みなさん、
とても手間がかかって効率は良くないけど、
やっぱり好きで、楽しくやってる感じでしたね。
- ほかの、一般的なコーデュロイとはどう違うんでしょう。
- 一般的なコーデュロイは
もみ込みとかは全然されてないから、要するに硬いんです。
しかも洗うとどんどんゴワゴワになっていく。
そういうものとはまったく違っているんですね。
そこがみなさんのプライドとして、胸にあることみたい。
- あの工程を見ちゃうとこちらもそれを感じますね。
- コーデュロイ、ちゃんとわかってなかったなあ。
- そうですね。
自分の服がそういう過程を踏んで
手元に届くっていうことを想像すると、
やっぱり、大事にしよう、
ちゃんと手入れして、ちゃんと保管して、
長く着ていこう、って
そういう気持ちになりますよね。
- そうですよね。
- カッチングの取材が終わったあとに、
工場の前でHUISの松下さんが、
「サンプルがあるんですよ」って、
みんなで見ましょう、って仕上がったばかりの服を出してくれて。
カッチングって途中の工程だから、
何になるかわからないのがふつうで、
完成形がどうなのかはほとんど知らない。
染色も先の工程なので、何色になるのかも。
- でね、「着てみてください」って松下さんが。
- HUISさんの服はフリーサイズで、全員着られるから、
取り替えっこしながらね。
- そうそうそう。
工場のみなさんも、うれしそうに着てくださって。
- それはうれしいですねえ。
- 私、なんか感動しました。
いい空間、いい時間でしたね。
- すごいよかったですよ。
- 好きだからやってるんだなっていうのを
改めて感じましたね。
- 今回のラインナップのポイントは。
- はい。
まずパンツは、HUISさんの人気の形がベースです。
ウエストが全ゴムなのを、
前部分だけをゴムじゃなくして、すっきりとさせました。
コーデュロイってどうしてもモコモコしてしまうので。
- 前部分がすっきりすると、
お腹がポッコリしにくくなりますね。
- そうなんです。
ジャケットとワンピースはもう
ほぼ完全にオリジナルになりました。
もともとは、HUISさんのシャツがあったんです。
それをまず、着丈を長くしてワンピースに。
もうひとつは、丈を短くして、ジャケットに。
- HUISさんのロングシャツが原型だけど、
ジャケットとワンピースっていう
まったく違うアイテムになったんですね。
- コーデュロイの畝の太さが違うことも、
別なものの感じを強めてますよね。
- ワンピースは薄い生地を、
ジャケットは中くらいのと厚めの生地、
パンツはしっかり厚手の生地で作っています。
- ワンピース、やっぱりこの落ち感が最高ですね。
たっぷり生地を使ってるのに、軽いです。
- そうでしょう?
コーデュロイなのに、このしなやかさ!
全然ゴワつかないの。
最初出来上がってきたとき、感動しましたもん。
- ここの箱ポケットもオリジナルで、つけてもらって?
- あっ、いいですね。アクセントになってて。
- いろんな人が着て、すごく似合う。
- これ、ワンサイズでしたよね。
でも、わたしのような大柄なタイプでも
着られそう。
- ツヤツヤしてるね、やっぱりね。
しっとりした布の感じが上品。
- やわらかくて、光沢がありますよ。
- 最近の冬は暖冬なので、長いコートより
ちょっとした羽織りが結構長く使えそう。
- コーデュロイは空気をたくさん含むから、
綿100%だけどあったかいっていうことですね。
- これでこの冬、いけちゃう。
- おうちでお洗濯できるんですか?
- もちろん大丈夫です。
- いいですねえ(笑)。
- そんな3アイテムになりました。
- 楽しみー。何色にしよう。
- ほんとに悩みますね。どうしよう。
楽しみだなぁ。
- 私たちも欲しいですもんね。
みなさんもいっしょに、楽しく迷っていただければ。
(座談会、おわりです)
2024-10-29-TUE
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販売日|2024年11月7日(木)午前11時より
販売方法|通常販売
出荷時期|1~3営業日以内