- 谷山
- 糸井さんとコピーの話をするっていうのは、
正直、ちょっと緊張するんです。
一応、東京コピーライターズクラブの会長なんで、
そんなこと言ってちゃいけないんですけど。
- 糸井
- なにをいまさら(笑)。
- 谷山
- 広告関係の人っていうのはやっぱり、
糸井さんの前で緊張してしまうんですよ。
「わあっ、糸井さんだ!」ってなっちゃう。
ぼくは大学生の頃から
広告学校で糸井さんの授業を受けて
お世話になっていたというご縁もあるので、
まだ緊張しないほうだとは思うんです。
そういうこともあって、宣伝会議さんから
谷山を聞き手にすればいいんじゃないかって
依頼をされたんじゃないかなと。
- 糸井
- うん、いい考えだよね。
- 谷山
- そういうことで、糸井さんの書かれたコピーから
10本を選んでみたんですけど、
正直に言うと「自分だけが好き」みたいな
マニアックなチョイスはしませんでした。
糸井さんはもうずいぶん、
自分の書いた広告コピーについて
話されていないと思うので、
いわゆる代表作と呼ばれるコピーを中心に
選ばせていただきました。
- 糸井
- 自分が書いたコピーのことは、
もともとそんなにしゃべってないですよ。
- 谷山
- でも『糸井重里全仕事(マドラ出版)』を
読み返してみると、
けっこう書いていらっしゃいますよ。
- 糸井
- ああ、そうでしたか。
でもそれ、30年ぐらい前でしょ?
- 谷山
- 発売が1983年なんで、40年前ですね。
- 糸井
- ああ、それはもう若気の至りだね。
- 谷山
- いまの糸井さんと比べたら
コピーについて解説をしてらっしゃいますけど、
広告の仕事を辞めてからは
コピーの話をされるのをあまり聞いていません。
なので、これからご紹介する10本は、
多くのかたが知っていそうなものを中心に
時系列の順番で選んでみました。
ひょっとしたら、その当時に
もうたくさんしゃべったような
コピーも出てくるかもしれませんが。
- 糸井
- 大丈夫です、話したことは忘れてるから。
- 谷山
- あら、忘れてますか。
それでは1個ずつ、いきましょう。
- 谷山
- パルコの「僕の君は世界一。」というコピー。
先ほど糸井さんは忘れちゃったと言っていた
『糸井重里全仕事』を読み返したときに、
当時の糸井さんはご自身で、
「これは、ぼく、すごく好きなコピーなの」と
おっしゃっていたんですよ。
ちなみにそのとき、ぼくはまだ大学生だったんです。
- 糸井
- ああ、そうかあ。
- 谷山
- ちょっとだけ説明をさせてもらいますと、
訊き手の谷山は、大学に入るために
1980年に大阪から東京に出てきて、
1984年に博報堂に入って、
そこからコピーライターになりました。
大学時代に糸井さんを知った、
まさに糸井さんのコピー直撃世代です。
糸井さんがいろいろな広告を作っていた中で
特に好きだとおっしゃっていたのがこのコピーで、
大学生のぼくは、そうなんだ! と
ちょっと驚いたところもあったんですよね。
まずはここからお話を聞きたいなと。
- 糸井
- これ、ね。
ほら、まあいいじゃないですか(笑)。
- 谷山
- 「いいじゃないですか」ですか。
その当時はけっこう論理的に、
このコピーがなぜ気に入っているかを
説明してらっしゃいましたけど。
- 糸井
- コピーそのものについての説明というか、
気持ちっていうことを言うなら、
「愛は主観です」ってことですよね。
- 谷山
- 愛は主観、そうですね。
- 糸井
- それはみんなが心に持っていたらいい、
おまじないみたいなところもあります。
「自分にとってこの人は世界一だ」っていう、
客観的にあり得ないことを思える素晴らしさを、
このコピーでは言っているんです。
でもほんとはね、コピーっていうのは、
解説しなくてもいいのが一番なんです。
- 谷山
- はい、それはわかります。
- 糸井
- たとえばさ、俳句を作った後で
自分で解説する人はあんまりいませんよね。
それは他人が解説するものなんです。
その意味でも、コピーそのものを解説するよりも、
どうできたかっていうことを言いたいな。
このコピーが出ざるを得なかった経緯というか、
ある場所にはまったっていうことを覚えてるのは
ぼくしかいないわけだから、
それをしゃべったらおもしろいんじゃないかな。
- 谷山
- 当時のことを教えていただけるんですか。
- 糸井
- ぼくがこのコピーを好きになった理由って、
コピーそのものじゃなくて、
状況の中にあったんだと思うんですよ。
このコピーを書くきっかけになったのは、
パルコの広告を川崎徹さんが
作ることになったというところなんです。
川崎さんは電通映画社にいて、
関西電通の仕事をずいぶんしてた人だから。
- 谷山
- キンチョールですね。
- 糸井
- それに、関西電気保安協会もね。
- 谷山
- いまだにあの音楽、
大阪の人はみんな知ってますよ。
かんさい~でんき、ほ~あんきょ~かい♪
- 糸井
- それってすごいことですよね。
関西電気保安協会のCMは
ナショナルブランドに思えないような
小さいサイズの仕事に見えるんだけど、
TCC賞に応募されてきた時に、
「これを作ってる人はすごい!」
と思って周りに伝えたんですよ。
その時代はまだ、
CMのジャンルの人とコピーライターが
合流してなかったんですよね。
- 谷山
- 昔は、グラフィックとCMで
作る人がパッと分かれてましたね。
- 糸井
- だから、コピーライターの業界で
CMの人たちが考えていることを
「いいね」って言えるチャンスがなかったの。
川崎さんがそのCMを作っているって知って、
すごいなと思っていたんですよね。
サントリービールの「生樽」だとかで
その凄みがだんだんとみんなに伝わってきたんです。
アンダーグラウンドに見えた川崎さんの世界が、
ナショナルブランドのサントリーみたいな仕事で
ポン! と出てきて勢いがありました。
CMのコンテの言葉として書かれた言葉が、
「いかにも一般大衆が喜びそうな」っていう(笑)。
- 谷山
- ああ、ありましたね。
- 糸井
- そのセリフはコピーライターじゃなくて、
川崎さんが考えたものなんですよね。
いまだとコピーライターのクラブで、
CMを作る人たちが賞をもらってるだろうけど、
その褒められる対象になったのは、
関西電気保安協会の頃からじゃないかな。
で、CMの持っているパワーに
コピーが対抗し得るかっていうと‥‥、
コピーライターとしては、対抗しきれないな。
- 谷山
- え、糸井さんでもそう思うんですか?
- 糸井
- 「糸井さんでも」って言うけどさあ、
だって、みんなはテレビを見て、
そこで語られている言葉とか、
そこで使われてる言葉を覚えるわけでしょう?
みんなが「いいね」っていうのもCMなわけで、
ぼくらは新聞広告とか雑誌広告とか、
キャンペーン全体のテレビ広告の最後の一行とか、
ナレーションのちょっとだけとか、
コピーだけで関わっていたわけですよ。
全部まるごとで広告を作っている方が
おもしろいに決まっているんです。
ぼくはこの頃まで、
川崎さんっていう人を知らなかったけど、
いつか会うんだろうなあとは思っていました。
- 谷山
- まだお知り合いじゃなかったんですね。
- 糸井
- 伝説だけはちらっと聞こえてくるわけです。
あまり笑わないとか、そういう話だけ。
谷山くんはまだ大学生だから知らないわけでしょ?
- 谷山
- いえ、ぼくは学生の時に、
広告批評でバイトをしていたんで、
糸井さんも来られるし、
川崎さんもよくいらしていました。
おふたりはずっと前からの
知り合いだと思っていたんですが、
そうじゃなかったんですね。
昔からの盟友みたいな感じで
話していらっしゃったから。
- 糸井
- うん、そうなんだよ。
そんな状態で川崎さんが
パルコの仕事をやることになって、
コピー書いてほしいって頼まれたんです。
- 谷山
- それが「僕の君は世界一。」になったんですね。
(次回は『僕の君は世界一。』が
どう生まれたかのお話です)
2024-10-11-FRI