糸井重里がこれまでにやってきた仕事には
いろんなジャンルがありますが、
やっぱり、いちばんの根っこには
コピーライターとしての経験が活きています。
「ほぼ日」の社内でもあまり語ってこなかった
自身の手がけた広告コピーについて、
糸井重里本人がたっぷり10本分を語りました。
訊き手は東京コピーライターズクラブの会長で、
糸井のコピー直撃世代でもある谷山雅計さん。
どんな状況でそのコピーが生まれたのかを、
なによりも大切にしたい糸井のコピー解説です。

※宣伝会議『アドバタイムズ』の企画記事を
「ほぼ日」編集バージョンでお届けします。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。この対談の動画は後日「ほぼ日の學校」で
ご覧いただけます。

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(2)「僕の君は世界一。」その2

糸井
さて、「僕の君は世界一。」がどうできたか。
自分でコピーも書けちゃう川崎徹さんにしてみれば、
本来コピーライターを必要としてないんですよ。
それなのに、ぼくに頼んでくれたっていうのは、
なんだろうな、ラブレターじゃないけど、
おたよりを受け取った感じがするわけです。
谷山
なるほど、おたより。
糸井
へぇーと思って、うれしかったの。
川崎さんが「糸井さんがいい」って
言ってくれたような話が聞こえてきたんで、
ぼくとしてはうれしいんですよ。
甲子園球児で、ほかの学校のよく打つ選手から、
「おまえちょっと、うちのチームとやらないか」って
言われたみたいなところがあって。
谷山
それはどの時代でも、
制作者にはそういう喜びはありますよね。
ほかで活躍しているプランナーや
アートディレクターから頼まれるっていうのは、
クライアントから頼まれるより
うれしくなるっていうことはあります。
糸井
それで電通に行って
打ち合わせをしたんだけど‥‥、
たしかそのとき、
川崎さんは来てなかったんじゃないかな。
谷山
えっ! 声をかけてくれた川崎さんが
いらっしゃらなかったんですか。
糸井
しかも、CMの絵コンテどころか、
もうアメリカでロケまでして
フィルムは撮っちゃってあったんですよ。
谷山
ああっ、先に映像ができあがっていた!
前時代的な作り方だったんですね。
糸井
うん、その方法はけっこう多かったんですよ。
浅葉克己さんとの仕事でも、
もうポスターのアイデアができていて、
「この写真で一句お願いしたいんだよね」
っていうことはよくあったから。
谷山
1970年代ぐらいまではそういう仕事が多かったと
話は聞いたことがありましたが、
意外と1980年代でもそうでしたか。
糸井
ものすごく多かったんじゃないかな。
考えようによっては、
ポスターにコピーを入れる必要もないわけだし。
谷山
商品の写真とか、商品名とかが入っていれば、
成立はするわけですから、たしかに。
糸井
当時だったら、水着の女の人で
すごく良く撮れている写真があって、
商品名が入れば、それでもうポスターだから。
そこにコピーを入れるっていうのは、
ある時代にコピーライターが努力して
肩からねじ込んで作っていった
仕事のような気がするんですよ。
で、川崎さんの撮ったフィルムが
どういうものかって言うと、
アメリカの片田舎でオーバーオールを着た
少女と少年がいるんですね。
16、17歳ぐらいかな、
ちょっとこう粗い画像の中で、
ふたりがお互いに向かい合って、
相手の名前を呼ぶんだよ。
谷山
ああ、そうでしたね。
糸井
「タニヤマ~?」「イトイ~?」みたいに。
谷山
ぼくたちの名前だと変ですけど(笑)。
糸井
ほら、ちょっとおもしろくしないとさ。
ぼくは責任感が強いから(笑)。
で、ふたりが呼び合っているのを見て
「いいな!」と思うわけ、やっぱり。
この広告ではスターでもない、
無名の誰かを撮っているわけです。
それまでのパルコの広告といえば、
チャック・ベリーが出るだとか、
フェイ・ダナウェイが卵を食べるCMみたいな
スターが出てくるイメージだったから。
谷山
はいはい、そうですよね。
実はぼくも、このコピーを選んだ理由に、
それまでのパルコとは
ずいぶん変わったなって改めて思ったんですよ。
糸井
この少年少女はオーディションで選んだ
普通の人なわけですよ。
そのふたりが名前を呼び合うだけで、
古びた印画紙のような粗い映像で、
素人臭くしているわけ。
そこに、川崎さんが作った
家系図のメモを渡されるんですよ。
映ってるのはふたりしかいないのに、
その子たちの家系図があるんです。
谷山
はあー! 設定としてバックストーリーを
書いてこられる演出家はそれなりにいますけど、
家系図まで用意なさるっていうのは
あんまり聞いたことがないですね。
糸井
お父さんはどういう人で、
なんの仕事をしているかとか全部書いてるの。
CMにその情報は何も映ってないんだけど、
ぼく自身は半分できているものに出会ってるから、
もう、そこで軽く感動してるの。
すでに川崎さんが作った脚本があって、
さあ、ぼくは何すればいいの?
谷山
もう、コピーなくていいんじゃないですかって、
言いたくなるかもしれませんね。
糸井
そういうときって、一番楽しいわけだよ。
「いや、でもやるんだ!」って思うんです。
そのときのパルコって勢いのある場所だったから、
仕事を頼まれてうれしかったんですよね。
川崎さんから頼まれたこともおもしろかったし、
名前を呼び合うだけの田舎の少年少女もよかった。
ぼくは、その状況の全部が気に入ったんですよ。
で、ニコリとも笑わないと噂の川崎さんに、
「糸井さん、そういうの書くんだ‥‥」って
言われたくないじゃない?
谷山
言われたくないですねえ(笑)。
糸井
拍手が欲しいとまでは言わないけどさ、
「ああ、あるでしょうね、そういうのね」
みたいなことを言われたくないの。
そこまで脚本ができているところに
どう入っていくんだろうっていう、
「どうする、おれ?」がありました。
それは、仕事としていちばんたのしいね。
谷山
うんうんうん。
糸井
そんな仕事を引き受けちゃったわけだけど、
苦しいときほど早く書けたりしない?
谷山
あ、そうかもしれないです。
「もう、これしかないんじゃないか」ってなると、
スピードが出るのはわかります。
糸井
まわりができちゃっているところで、
穴が1個開いているだけなんですよね。
早めにこのコピーができて、
あとはこれを漢字にするかどうかだけが、
ぼくの悩みになったんです。
「僕の君は世界一。」って一見、
漢字の多いカチンカチンカチンとした
コピーではあるんですよ。
谷山
そう、そうなんです。漢字が多い!
広告を見て受ける印象とか、記憶に比べると、
たしかに漢字が多いコピーですよね。

糸井
そう、じつは多いんですよ。
だけど、見慣れてる漢字だけでしょ?
ちょっと素人っぽい映像みたいに見せてる映像に、
ひらがなで「ぼくのきみは世界一。」だと、
受け取り方がまた違いますよね。
谷山
ああ、そうですよね。
糸井
ロゴを作るようにコピーを作っていって、
最後にこの形になりました。
あとは川崎さんがなんて言おうが
構わないっていうところに収まって、
自分としては、できたからオッケー。
谷山
糸井さんが過去に書いた本かなにかで
読んだ記憶があるんですが、
ちょっと確認してもいいですか?
「僕の君」って書いたところでは、
ものすごくパーソナルでプライベートなことなんだけど、
それに「世界一」がつながることによって、
それが一気に普遍と繋がるような、
なにか開けていくようなところが気に入っている、
というようなことをおっしゃっていました。
糸井
その解釈はもう、そうに決まってるわけです。
ぼくはね、名も無い誰かの恋みたいなものに対して、
ものすごく応援したい気持ちがあるわけ。
電車の中で見つめ合う高校生とかいるじゃない?
今はスマホ見てるから少なくなったけど、
冬にほっぺを赤くした若い高校生とかが
見つめ合ってるのを見ると、
がんばれ‥‥! って思うんだよ。
谷山
わははは!
糸井
ほんっとに思うの。
他に何も見えてないんだなって人たちを見るのは、
ぼくはものすごく好きなんです。
谷山
このコピーについて過去に書かれた本を読んでも、
川崎さんが先にストーリーを作っていたとか、
そこに至る事情までは書いてませんよね。
今日は意外と生々しい話が聞けておもしろいです。
糸井
おもしろいでしょ。
谷山
結果的にできあがった「僕の君は世界一。」の
言葉や考え方っていうのは、
糸井さんがいま「ほぼ日」で
やってらっしゃることとも、
どこか通じているような気もするんですよ。
パーソナルなものと、普遍なものを
繋げていくみたいなことですから。
糸井
それはずっとそうですよ。
谷山
糸井さんが気に入ってるというのもあって、
最初にこのコピーを選ばせてもらいました。
糸井
‥‥これさあ、10本もあるのに
こんなに長くしゃべってていいの?
谷山
あ、いやいや最初の1本なんで(笑)。
と言いつつ最後にこれはもう完全に
コピーライター的な感想なんですけど、
「僕」を漢字にするのってすごいですよね。
なかなか「僕」って漢字にできないので。
糸井
そうだよね、「しもべ」って字だから。
谷山
そうなんです、漢字はそれぞれに意味を持っていて、
違う意味に受け取られかねないんですよね。
「僕」を「下僕(げぼく)」と思われたくないから、
できれば漢字で使いたくないんですよ。
だけど、このコピーは漢字だからいいんだよなあって。
かなり狭い世界の話をしているかもしれませんが、
思った以上に漢字だらけだなぁと思いました。
糸井
「君」と対応させれば、
「僕」は活きるんですよね。
もうね、趣味のコピー講座だよ(笑)。
谷山
7文字中の5文字が漢字か‥‥。
いや、ちょっとマニアックすぎますね。
つぎに行きましょうか。
糸井
ああ、こうやって10本も
紹介していくんだね。

(次回は西武百貨店の
「不思議、大好き。」につづきます)

2024-10-12-SAT

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