- 谷山
- 次にご紹介するコピーが西武百貨店の
「不思議、大好き。」がありまして、
その後に「おいしい生活。」が続きます。
その2本が連続していることは印象的でした。
- 糸井
- はいはい。
- 谷山
- ご本人の前で言うのもあれですけど、
1980年代のコピーライターブームの
真ん中にあったのが、
連続するこの2本だった気がするんです。
西武百貨店のお仕事は、
それ以前にも書いてらっしゃいますよね。
- 糸井
- 西武百貨店ではその前に
「じぶん、新発見。」もあったよね。
赤ちゃんが水泳してるポスター。
- 谷山
- ありましたねえ、はいはいはい。
- 糸井
- 西武百貨店の仕事は、
浅葉克己さんとの仕事がほとんどなんです。
浅葉さんのキャリアに比べると
年の差が8つぐらいあって、
ぼくなんかは新人みたいなものです。
- 谷山
- あ、けっこう離れているんですね。
- 糸井
- 浅葉さんはすでに、業界のスターだったんですよ。
そんな浅葉さんのさらに先輩というか、
先生にあたる場所に田中一光さんがいました。
田中一光さんは、西武の仕事で
堤清二さんとデザインや広告のやりとりをする時の、
言ってみれば千利休の役をしていたわけです。
浅葉さんは、田中一光さんに
ピックアップされた選手の1人で、
ほかにも山口はるみさんとか、
いろいろな人が西武の仕事をしていたんですよね。
浅葉さんがそこにぼくを入れたのか、
それが一光さんなのかもしれないんだけど、
「ちょこちょこっと出てきた
コピーライターいるじゃない?」
というのが、ぼくだったわけです。
- 谷山
- 「ちょこちょこっと出てきた」(笑)。
- 糸井
- だってさ、最初に入った会社の社長から、
「おまえはなぁ、地方競馬出身だから」って
よく言われていたんだから。
- 谷山
- 前にも言ってらっしゃいましたねえ!
- 糸井
- ぼくは褒められたような気がしてたんだけど、
べつに褒めてなかったなって、あとで気づくんです。
最近のSNSを見ていても、
何々の仕事をやっていたって名乗ってるみんなは、
たいした会社にいるんですよ。
電通だの博報堂だの何だのって会社名を言うと
「ああ、そうですか」って感心してもらえるの。
でも、ぼくは地方競馬なんで(笑)。
- 谷山
- はい(笑)。
- 糸井
- だから、仕事で「ああ、いいですね」っていうのを
作るしかないんで、ある意味で野心的なんですよ。
浅葉さんと最初に組んだ仕事も、
西武の仕事よりも前があるんですよね。
当時の松下電器の宣伝部は事業部制で、
他の部から予算をもらって仕事をしていたんです。
だから、広告賞を受賞することで
社内での仕事を受注したがっていたんですよね。
賞を取って箔をつけていくような時代に、
「イトイちゃん来ない?」って言われたのが‥‥。
- 谷山
- 「おねしょ」ですか?
- 糸井
- それもあった。
それも、きっかけです。
- 谷山
- 「おねしょ」だけじゃ、若い方には通じませんね。
「100万人の、おねしょともだちへ。」という
新聞広告があったんです。
- 糸井
- 最初に浅葉さんと作ったのは、
「ゾウの脚。原寸大。」っていう
大型テレビの広告だったかな。
- 谷山
- あっ、それでしたか。
- 糸井
- 松下電器の仕事は、企画から全部できたんです。
西武百貨店の「じぶん、新発見。」でも
プランナー的な仕事もやってましたよ。
コピーライターとして入ってるんだけど、
赤ちゃん水泳の場面を先に考えたの。
- 谷山
- へえーっ、そうだったんですか。
その他のお仕事でも、
糸井さんがビジュアルのアイディアを
けっこう考えていたと聞いたことはあります。
- 糸井
- 仕事としてギャランティになるわけじゃないから、
ほんとは考える必要もないんだけど、
じれったいから出しちゃうんだよね。
「だったらさあ」って提案すると、
そのアイディアを実現するための資料が集まって、
もうコンテが書けちゃうんですよ。
そこにどんなコピーが入るといいかなって
考えるのが、自分の仕事の順番でした。
で、そういう時代の中だったけれど、
「不思議、大好き。」は
めずらしくコピーが先にできたんです。
- 谷山
- へえー、そうでしたか。
- 糸井
- 西武百貨店の年間キャンペーンを頼まれて、
この年の夏の目玉は
エジプト展の開催だって話を聞いたんです。
その展示で、ピンとくるようなものを
年間でやった方がいいなっていうのが、
まず最初に思うことですよね。 - その打ち合わせをしている時に、
世界の七不思議でやろうかって話したんです。
それから出てきたのが
「不思議、大好き。」っていうコピー。
いま覚えていることで言うと、
ピラミッドに行って、ピラミッドから降りてって、
アブシンベル神殿に行って、
その後はストーンヘンジとか、
そんなに追っかけきれないんだけどね。
でも、理屈できゅうきゅうとしてるものより
不思議の成分があった方がいいよねって、
デパートの広告として
それを年間テーマでやりましょうって話したんです。 - 思えば、30歳ぐらいの若造が、
そんなことをやりましょうって言って、
「そうですね」って言ってくれる
クライアントがすてきですよね。
- 谷山
- それは堤清二さんがご判断されたわけですよね。
- 糸井
- そうですね。
- 谷山
- エジプト展がきっかけだったという話は
聞いたことがあるんですけども、
広告を見た時には、決してエジプト展だからとか、
そういうことは全然思わなかったんですよ。 - 当時の大学生が言うのもなんですが、
ものすごく時代を切り取った言葉を、
百貨店が腰を据えて言い出したなあって。
「私は不思議が大好きなんですよ」って
世の中に宣言してる感じがしたんです。
大学生だから、1回の広告だとか年間テーマだとか、
わかってるわけじゃなかったんですけどね。
今の若い人はどう思うかわかりませんが、
その時の二十歳ぐらいの人間からしたら、
「うわっ、すごい新しいことを言いはじめた!」
というのが感じられたんですよ。
- 糸井
- この広告はね、秋山具義くんが、
通学途中の池袋駅に貼られる
西武のポスターを見るのが楽しみで、
デザイナーになろうと思ったって話してましたね。
- 谷山
- 「これもアリなんだ!」って感じが本当にしました。
1980年ごろって、漫画やお笑いみたいな、
いわゆるサブカルチャーと言われてきたものが、
勢いを持ってメインに変わっていく時代でしたよね。
それらと一緒に広告も変わってきて、
その広告の先頭がこれなんだって理解していました。
雑誌の『宝島』にも、忌野清志郎やYMOと並んで
糸井さんが同列で出てくるんですよ。
そういうことも含めて、
もう単純に「かっこいい!」って思ってました。
- 糸井
- そういう時代だったのはあるだろうけど、
環境がないと仕事にはならないんでね。
その意味で、ちょっと余計にがんばらないと
西武百貨店の仕事は突破できなかったんですよね。
つまり、ぼくが大尊敬する土屋耕一さんが
伊勢丹の広告ですばらしい仕事を
ずっと作っていたんですよ。
ぼくとしては土屋さんと同じ土俵で
勝負しちゃいけないから。
- 谷山
- 当時大学生だったぼくとしては、
土屋さんの伊勢丹がズバリの時代ではなくて、
糸井さんの西武がズバリの時代なんで、
ちょっとわからないところもあるんですが。
- 糸井
- 同じラインだって思わせちゃったら
ぼくは勝てないんですよ。
ほら、ぼくは地方競馬出身だから(笑)。
- 谷山
- (笑)
- 糸井
- すばらしい先輩に教わってないから、
「これだったらいいよ」って言ってくれる人が
2人ぐらいいればもっと普通の広告が
作れたかもしれませんね。
ぼくの場合は、そういうことをやってたんじゃ
商売にならないから、もうお届けは早いし、
デザイナーと一緒に徹夜するし。
そんな仕事ばっかりしてましたよ。
- 谷山
- 土屋さんは1975年に伊勢丹で、
「なぜ年齢をきくの」っていうコピーを書いていて、
いまなら普通だよって思われるかもしれませんが、
1975年にデパートがそれを発信するのって、
けっこうすごいかもしれませんね。
- 糸井
- それとか、1977年に伊勢丹の外の地下鉄の
大きいポスターに、赤ん坊の写真があって、
「ことし生まれた赤ちゃんが、
お嫁にいくのは21世紀です。」って
土屋さんのコピーが書いてあって、
ちょっとジーンとするんですよ。
- 谷山
- なるほど。
- 糸井
- 土屋さんのやっていた仕事って、
すてきなノンフィクションなんですよ。
ぼくが書くのはフィクションに近いんですよね。
だって、日本のデパートの広告を作るのに、
エジプトに行っちゃうんだもん(笑)。
- 谷山
- たしか、このコピーが出る前は
「不思議」っていう言葉は、
好きとか嫌いという対象じゃなかったというお話は
聞いたことがあるんですが。
- 糸井
- 不思議って字はさ、
ぐちゃぐちゃしてるのに、みんな読めますよね。
「不」はわかるだろうけど、
「思(し)」って、すっと出ないかもしれない。
みんなの読める難しい漢字が、
ここに乗っかっているっていうのは、
ロゴみたいにコピーを考えたい
ぼくからするといいなあって思うの。
- 谷山
- なるほど。
- 糸井
- 「大好き」については、
スポーツ大好き少年とかっていう言い方で、
いくらでもありましたからね。
だから、「大好き」っていうのは簡単で、
さっきの「世界一」と同じで、
他からいただいてきた言葉なんですよ。
- 谷山
- たしかに、「不思議」をじっと見てると、
ちょっとゲシュタルト崩壊を起こしそうな。
- 糸井
- そうそうそう。
自分で書けないけれど、
誰でも「薔薇」って読めるのに近いよね。
「不思議」という字は誰でも読める。
そういう違和感がよかったんです。
- 谷山
- 実は糸井さんのコピーには、
漢字が多かったんですね。
- 糸井
- やっぱり最後はデザインなんですよ。
ここではデザイナーも聞いている前で
お恥ずかしいんだけど、
コピーライターはデザイナーなんです、最後は。
考えてみれば、コピーっていうのは
言葉のデザインをしているわけですよね。
- 谷山
- ぼくも、若い人たちにコピーを教える時に、
コピーはビジュアルであることを
忘れないようにいつも伝えていますよ。
意外に忘れちゃうんですよね。
つい意味だけでコピーを考えちゃって、
何を発しているかを忘れちゃうっていう‥‥。
ああっ、今日はぼくが話す会じゃないのに!
- 糸井
- 谷山くんはつい、
塾の先生みたいになっちゃうんだよ。
- 谷山
- いやいや(笑)。
- 糸井
- すっごいよねえ。
(この流れのまま次回は、
「おいしい生活。」へとつづきます)
2024-10-13-SUN