糸井重里がこれまでにやってきた仕事には
いろんなジャンルがありますが、
やっぱり、いちばんの根っこには
コピーライターとしての経験が活きています。
「ほぼ日」の社内でもあまり語ってこなかった
自身の手がけた広告コピーについて、
糸井重里本人がたっぷり10本分を語りました。
訊き手は東京コピーライターズクラブの会長で、
糸井のコピー直撃世代でもある谷山雅計さん。
どんな状況でそのコピーが生まれたのかを、
なによりも大切にしたい糸井のコピー解説です。

※宣伝会議『アドバタイムズ』の企画記事を
「ほぼ日」編集バージョンでお届けします。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。この対談の動画は後日「ほぼ日の學校」で
ご覧いただけます。

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(11)「夢に手足を。」

谷山
さあ、いよいよラストのコピーです。
これだけ一気に時代が飛びますが、
ほぼ日の「夢に手足を。」です。
これ、最高のコピーだなあって思ったんですよ。

2016 夢に手足を。(ほぼ日)

糸井
ああ、ありがとね。
谷山
2016年に出されたもので、ほぼ日は
こういうことをやっていく会社だっていう、
いわゆるスローガンですね。
「夢に手足を。」に続くボディコピーで
ステートメントもありましたよね。
ほぼ日のみなさんは当然、知っていると思うんですが、
意外にね、広告界の人は知らない人が多い。
糸井
いや、だって広告賞に出してないからさ。
谷山
TCC賞とかに応募してないんでね。
糸井
応募する必要ないじゃない(笑)。
一同
(笑)
谷山
2016年にこの言葉を見た時に、
ぼくは「うわあーっ!」って思いました。
これはすごいコピーだぞって。
糸井
まず思ったのは、「夢」って言葉を
なるべく使わない方がいいってことですね。
「夢」とか「愛」とか「地球」とか、
みんないいに決まってるじゃないですか。
つまり、絵を描きなさいって言われたときに、
真ん中に赤いバラの花を1本描く人はいないんです。
あまりにも「バラの花だなあ!」ってところで
終わっちゃうんでね。
だから、「夢」って書いちゃったら
もうそこで思考が停止されちゃうんですよね。
「愛」でもやっぱりそうで、
あらゆるいいものを「愛」って言うんだとなれば、
もうそれで済んじゃうんですよ。
谷山
はい、そうですね。
糸井
「夢」って言葉の使われ方も気になったんです。
「夢があっていいですねえ」とか、
「夢を持たなきゃ」とか、
「もっと大きい夢を持てよ」とか言うんだけど、
なんか言葉だけで済んじゃう話になってるんです。
だから、「夢」っていう言葉を
そのまま使うことはできなかったんですよね。
でも、「もっと夢を見よう」じゃなくて、
「夢が見えたんだったら動かせよ」と考え直したら、
「夢」って言葉が使えるようになったんです。
ぼく自身も「夢がないなぁ」って思っていたんだけど、
それは、夢がないんじゃなくて、
本当にしようとしているから
「夢」と呼べなくなっちゃうんだって思いました。
それを「夢に手足を。」っていう言葉で表現したら、
社内で使える言葉になったんですよね。
谷山
じつは、この収録前に雑談していたことで、
「夢」とか「未来」を使ったいいコピーって、
ほとんどないんだって話をしていたんです。
いま糸井さんがおっしゃったことと同じで、
「夢に手足を。」って、
「夢」という言葉が入ったコピーの中で、
ダントツナンバーワンの
コピーなんじゃないかって思うんですよ。
たとえばよくある表現で
「夢には翼がある」ってありますよね。
糸井
きみを高く飛ばしてくれるっていうよね。
谷山
すてきなことのように言うんだけど、
翼の前に、もっと必要なものが
あるんじゃないかっていうことを、
こんなに明確に書いたコピーって、
マジですごいなって思ったんですよね。
逆に言うと、もう手足のない夢を、
「夢とか言ってる場合じゃねえだろ」
みたいに思っちゃうぐらい感心しました。
ほぼ日のみなさんはね、
こんなすごい言葉を会社の言葉として
持っているっていうのは絶対に感謝すべきですよ。
糸井
ギャラをくれ!
一同
(笑)
谷山
いやあ、こんなすごいことを言う
経営者はいませんっていうぐらい、もう大好き。
糸井
このコピーはさ、
「うちでも使っていいですか?」って
よく言われるんですよ。
谷山
ああ、ほんとですか。
絶対すごいこと言ってるって思いましたもん。
さっきも広告賞には応募しないって
おっしゃっていましたけど、
当時、CMプランナーの山崎隆明くんに
「夢に手足を。」の話をしたら、いたく感動して、
「これ絶対、今年のグランプリですわ!」って、
ふたりで盛り上がったんですが、応募されないから。

一同
(笑)
糸井
だって、広告してないんだもん。
ポスターでも作ればいいの?
谷山
いやあ、少なくともぼくと山崎くんの間では、
2016年のTCC賞グランプリは
これってことになってましたね(笑)。
ぼくもあんまり、自分で夢って持たないんです。
糸井
うん。
谷山
「夢」と思うとあれだから、
「計画」だということにしておこうとか思って、
いろんなことをやっていくタイプの人間で、
ちょっと「夢」を遠ざけてたんですけど、
「手足」が入ることで、
夢ってすばらしいな、と思いました。
ということで感動したんです、ぼくは。
糸井
もうこのコピーでおしまいなんだよね。
谷山
これが最終回です。
糸井
はあー、そうですか。

谷山
糸井さんはコピーの話をするときに、
現場だったり、そこに至るまでの話、
あるいは、人との出会いみたいなことも
詳細に話されるということに、
ぼくはちょっと驚いたんですよ。
糸井さんにとっては、きっとそういう部分が
コピーを書くっていうことにおいて
すごく大きな要素だったんですね。
糸井
それは、すごく大きいと思いますね。
気張らなきゃいけないときっていうのは
状況が作ったわけですからね。
気張りすぎてもいけないときもあるし。
ぼくもたくさんインタビューの仕事をしてきたけど、
インタビューとも何ともつかない
雑談をしに行くっていうのを
定期的にやっていたのが
吉本隆明さんなんですよね。
吉本さんにいろんなことを聞いて
答えてもらうんだけど、
歳を取ってからっていうのは特に、
あっけないことを言っていたんですよ。
ぼくが期待しているような、
吉本さんならではの磨かれた答えが
出てくるのかと思ったら、
普通の人みたいなことを言うことがありました。
谷山
へえー、そうでしたか。
糸井
さっき谷山くんがね、
「おちこんだりもしたけれど~」は
自分には書けないって言ったけど、
まさにそれと近いんじゃないかな。
たとえば、吉本さんのお家では
いつもテレビが点いていたんですよ。
見てもいないのに、ずーっと点いてたんです。
それってぼくからすると、
「内側の世界の外側に何かがあって、
いつも動いてるっていうのを感じていたいから?」
と谷山解説みたいに想像するわけですよ。
谷山
谷山解説(笑)。
糸井
吉本さんに聞いてみたら、
さみしいからじゃないかって言うんです。
「老人っていうのはさみしいんですよ。
なんかそういうのがあった方がさみしくないから
点けてるんじゃないでしょうかね」っていう
自己批評が返ってきたんですよ。
谷山
(笑)
糸井
そうやって言えるくらいまで
自分を客体視できたらいいなあって思いました。
ついでだから、吉本さんのことでもうひとつ。
吉本さんはいろんな人のことを書いているわけですが、
中でも親鸞については
一番意識していた人のように思えたんです。
親鸞がその昔に言ったことが、
普通の会話の中にも
先生を語るように出てきたわけです。
吉本さんがそうやって強く惹かれて、
興味をずっと持続しているっていうのには、
思い当たる理由があるのか聞いてみたんですよ。
そうしたら、
「家が浄土真宗だったからじゃないでしょうかね。
案外、信心深い家だったんで、
それが大きいと思いますねぇ」って。
谷山
これまた、ものすごく普通の答えですね。
糸井
そこまで言えてはじめて、
本当のことを言う人なんだなって思えるんです。
考えようによっては、
違う理由をいくらでも思いつくと思うんですよ。
それを「家が浄土真宗だったから」って言うんだから。
それをまともに言えるところまで
真っ平らになれるっていうのは、いいなぁと思うんです。
それと同じにはなれないんだけど、
みんなが行きたい世界ってそこなんじゃないかな。
谷山
ぼくは自分自身で、そんなに言葉にばかり
こだわっている人間だとは思っていなかったんですけど、
やっぱりどこかにコピーオタク性があるんだなと
ちょっと反省いたしました。
糸井さんと比較したときに、
より細かいところが気になって話してしまう
クセがあるんだなっていうのを思っています。
いや、今日はありがとうございました。
糸井
ありがとうございました。
自分が生まれる前のコピーの話っていうのは、
おもしろいものなんでしょうかねえ。
ちょっと不安だったんだけど、
ほぼ日のみんなも、よく我慢して聞いてくれたね。
それじゃあね、「夢に手足を。」だよー!

(糸井重里のコピー解説はおしまいです。
おつきあいありがとうございました)

2024-10-21-MON

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