- 谷山
- さあ、いよいよラストのコピーです。
これだけ一気に時代が飛びますが、
ほぼ日の「夢に手足を。」です。
これ、最高のコピーだなあって思ったんですよ。
- 糸井
- ああ、ありがとね。
- 谷山
- 2016年に出されたもので、ほぼ日は
こういうことをやっていく会社だっていう、
いわゆるスローガンですね。
「夢に手足を。」に続くボディコピーで
ステートメントもありましたよね。
ほぼ日のみなさんは当然、知っていると思うんですが、
意外にね、広告界の人は知らない人が多い。
- 糸井
- いや、だって広告賞に出してないからさ。
- 谷山
- TCC賞とかに応募してないんでね。
- 糸井
- 応募する必要ないじゃない(笑)。
- 一同
- (笑)
- 谷山
- 2016年にこの言葉を見た時に、
ぼくは「うわあーっ!」って思いました。
これはすごいコピーだぞって。
- 糸井
- まず思ったのは、「夢」って言葉を
なるべく使わない方がいいってことですね。
「夢」とか「愛」とか「地球」とか、
みんないいに決まってるじゃないですか。
つまり、絵を描きなさいって言われたときに、
真ん中に赤いバラの花を1本描く人はいないんです。
あまりにも「バラの花だなあ!」ってところで
終わっちゃうんでね。 - だから、「夢」って書いちゃったら
もうそこで思考が停止されちゃうんですよね。
「愛」でもやっぱりそうで、
あらゆるいいものを「愛」って言うんだとなれば、
もうそれで済んじゃうんですよ。
- 谷山
- はい、そうですね。
- 糸井
- 「夢」って言葉の使われ方も気になったんです。
「夢があっていいですねえ」とか、
「夢を持たなきゃ」とか、
「もっと大きい夢を持てよ」とか言うんだけど、
なんか言葉だけで済んじゃう話になってるんです。
だから、「夢」っていう言葉を
そのまま使うことはできなかったんですよね。
でも、「もっと夢を見よう」じゃなくて、
「夢が見えたんだったら動かせよ」と考え直したら、
「夢」って言葉が使えるようになったんです。 - ぼく自身も「夢がないなぁ」って思っていたんだけど、
それは、夢がないんじゃなくて、
本当にしようとしているから
「夢」と呼べなくなっちゃうんだって思いました。
それを「夢に手足を。」っていう言葉で表現したら、
社内で使える言葉になったんですよね。
- 谷山
- じつは、この収録前に雑談していたことで、
「夢」とか「未来」を使ったいいコピーって、
ほとんどないんだって話をしていたんです。
いま糸井さんがおっしゃったことと同じで、
「夢に手足を。」って、
「夢」という言葉が入ったコピーの中で、
ダントツナンバーワンの
コピーなんじゃないかって思うんですよ。
たとえばよくある表現で
「夢には翼がある」ってありますよね。
- 糸井
- きみを高く飛ばしてくれるっていうよね。
- 谷山
- すてきなことのように言うんだけど、
翼の前に、もっと必要なものが
あるんじゃないかっていうことを、
こんなに明確に書いたコピーって、
マジですごいなって思ったんですよね。
逆に言うと、もう手足のない夢を、
「夢とか言ってる場合じゃねえだろ」
みたいに思っちゃうぐらい感心しました。
ほぼ日のみなさんはね、
こんなすごい言葉を会社の言葉として
持っているっていうのは絶対に感謝すべきですよ。
- 糸井
- ギャラをくれ!
- 一同
- (笑)
- 谷山
- いやあ、こんなすごいことを言う
経営者はいませんっていうぐらい、もう大好き。
- 糸井
- このコピーはさ、
「うちでも使っていいですか?」って
よく言われるんですよ。
- 谷山
- ああ、ほんとですか。
絶対すごいこと言ってるって思いましたもん。
さっきも広告賞には応募しないって
おっしゃっていましたけど、
当時、CMプランナーの山崎隆明くんに
「夢に手足を。」の話をしたら、いたく感動して、
「これ絶対、今年のグランプリですわ!」って、
ふたりで盛り上がったんですが、応募されないから。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- だって、広告してないんだもん。
ポスターでも作ればいいの?
- 谷山
- いやあ、少なくともぼくと山崎くんの間では、
2016年のTCC賞グランプリは
これってことになってましたね(笑)。
ぼくもあんまり、自分で夢って持たないんです。
- 糸井
- うん。
- 谷山
- 「夢」と思うとあれだから、
「計画」だということにしておこうとか思って、
いろんなことをやっていくタイプの人間で、
ちょっと「夢」を遠ざけてたんですけど、
「手足」が入ることで、
夢ってすばらしいな、と思いました。
ということで感動したんです、ぼくは。
- 糸井
- もうこのコピーでおしまいなんだよね。
- 谷山
- これが最終回です。
- 糸井
- はあー、そうですか。
- 谷山
- 糸井さんはコピーの話をするときに、
現場だったり、そこに至るまでの話、
あるいは、人との出会いみたいなことも
詳細に話されるということに、
ぼくはちょっと驚いたんですよ。
糸井さんにとっては、きっとそういう部分が
コピーを書くっていうことにおいて
すごく大きな要素だったんですね。
- 糸井
- それは、すごく大きいと思いますね。
気張らなきゃいけないときっていうのは
状況が作ったわけですからね。
気張りすぎてもいけないときもあるし。 - ぼくもたくさんインタビューの仕事をしてきたけど、
インタビューとも何ともつかない
雑談をしに行くっていうのを
定期的にやっていたのが
吉本隆明さんなんですよね。
吉本さんにいろんなことを聞いて
答えてもらうんだけど、
歳を取ってからっていうのは特に、
あっけないことを言っていたんですよ。
ぼくが期待しているような、
吉本さんならではの磨かれた答えが
出てくるのかと思ったら、
普通の人みたいなことを言うことがありました。
- 谷山
- へえー、そうでしたか。
- 糸井
- さっき谷山くんがね、
「おちこんだりもしたけれど~」は
自分には書けないって言ったけど、
まさにそれと近いんじゃないかな。
たとえば、吉本さんのお家では
いつもテレビが点いていたんですよ。
見てもいないのに、ずーっと点いてたんです。
それってぼくからすると、
「内側の世界の外側に何かがあって、
いつも動いてるっていうのを感じていたいから?」
と谷山解説みたいに想像するわけですよ。
- 谷山
- 谷山解説(笑)。
- 糸井
- 吉本さんに聞いてみたら、
さみしいからじゃないかって言うんです。
「老人っていうのはさみしいんですよ。
なんかそういうのがあった方がさみしくないから
点けてるんじゃないでしょうかね」っていう
自己批評が返ってきたんですよ。
- 谷山
- (笑)
- 糸井
- そうやって言えるくらいまで
自分を客体視できたらいいなあって思いました。
ついでだから、吉本さんのことでもうひとつ。
吉本さんはいろんな人のことを書いているわけですが、
中でも親鸞については
一番意識していた人のように思えたんです。
親鸞がその昔に言ったことが、
普通の会話の中にも
先生を語るように出てきたわけです。
吉本さんがそうやって強く惹かれて、
興味をずっと持続しているっていうのには、
思い当たる理由があるのか聞いてみたんですよ。
そうしたら、
「家が浄土真宗だったからじゃないでしょうかね。
案外、信心深い家だったんで、
それが大きいと思いますねぇ」って。
- 谷山
- これまた、ものすごく普通の答えですね。
- 糸井
- そこまで言えてはじめて、
本当のことを言う人なんだなって思えるんです。
考えようによっては、
違う理由をいくらでも思いつくと思うんですよ。
それを「家が浄土真宗だったから」って言うんだから。
それをまともに言えるところまで
真っ平らになれるっていうのは、いいなぁと思うんです。
それと同じにはなれないんだけど、
みんなが行きたい世界ってそこなんじゃないかな。
- 谷山
- ぼくは自分自身で、そんなに言葉にばかり
こだわっている人間だとは思っていなかったんですけど、
やっぱりどこかにコピーオタク性があるんだなと
ちょっと反省いたしました。
糸井さんと比較したときに、
より細かいところが気になって話してしまう
クセがあるんだなっていうのを思っています。
いや、今日はありがとうございました。
- 糸井
- ありがとうございました。
自分が生まれる前のコピーの話っていうのは、
おもしろいものなんでしょうかねえ。
ちょっと不安だったんだけど、
ほぼ日のみんなも、よく我慢して聞いてくれたね。
それじゃあね、「夢に手足を。」だよー!
(糸井重里のコピー解説はおしまいです。
おつきあいありがとうございました)
2024-10-21-MON