JAXAの「地球観測衛星」について聞く
不定期シリーズ第4弾は、
「パラボラアンテナ篇」をお届けします。
地球観測衛星はもちろん、
宇宙の彼方の惑星探査機などと交信する
巨大パラボラアンテナについて、
その魅力や役割を、たっぷり聞きました。
直径64メートルもの巨大な「お椀」を、
「1000分の1度」の精度で動かすって、
ちょっと、信じがたいんですけど‥‥!
びっくりするようなお話ばっかりでした。
担当は「ほぼ日」奥野です。
正直アンテナにさほど興味なかったけど、
いまめちゃくちゃ気になってます。

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第3回 日本最大のパラボラアンテナは 手計算でつくった‥‥!?

──
領木さんのあこがれ、
日本最大の64メートルのアンテナって、
いつごろできたんですか。
領木
1984年です。
安部
あ、ぼくとほぼ同い年だ。
深田
臼田世代だね。
──
あー、松坂世代より少し下の(笑)。
領木
だから、40年ちかく稼働しています。
基本的にアンテナの寿命って
20年くらいだと言われてるんですが。
──
まだ、がんばってるんですか。
深田
ちょっとおじいちゃんな感じだけど、
はい、まだ動いていますね。
「はやぶさ2」とかも運用してます。
安部
えーっと、これは自分で撮った写真?
領木
そうです。どこだと思います?
深田
いやいや、アンテナクイズやっても、
ふつうの人答えられないから(笑)。
──
さっぱりわからないです。
領木
答えは、鹿児島県の内之浦にある
20メートル級のアンテナです!

内之浦20メートルアンテナ、領木さん撮影&提供 内之浦20メートルアンテナ、領木さん撮影&提供

──
領木さん、写真も上手なんですね。
深田
ほら、好きだから。異常に。
──
ですよね。親が撮る子の写真みたいに、
「愛」が写ってますもんね。
ちなみにですが、
こういうアンテナを設計してる人って、
どういった‥‥。
深田
臼田の64メートルのアンテナの場合だと、
三菱電機さんがつくったので、
三菱電機さんが設計しているんです。
でも、臼田の「後継」として建設された
54メートルの美笹のアンテナは、
2021年に運用がはじまったんですが、
プロジェクト開始の時点で
臼田の建設を経験した人がほぼいない、
という状態だったんです。
──
おおー、「プロジェクトX」みたい。
領木
なにせ「30年以上」の空白ですから。
臼田のときに新人だった人が、
大ベテランになってらっしゃったとか。
深田
臼田のときは、いまみたいに
「コンピュータシミュレーション」で
設計しておらず、
おどろくことに
手計算でやっていた時代なんですね。
だから、大げさでなく、
「どうやって計算したのかわからない」
ことも多かったし、
究極は「図面が残ってない」ケースも。
──
ひゃあ、おもしろい(笑)。
安部
アンテナに限らず、衛星なんかでも、
過去の設計資料を見ると
何だかよくわかんない手書きの図とか、
手計算の結果とかを
使っていたりするんです。
──
そうなんですか!
そういう、メモみたいなものの集積で、
64メートルもの大きさかつ
表面のゆがみ0.2ミリみたいな物体を
つくってしまうんだ‥‥人間って。
深田
現代では、耐震から何から、
1から10までコンピュータで設計して、
すべて記録が残せますけど。
手計算で組み立て上げたっていうのは、
本当に恐ろしい話です。
領木
信じられません。
深田
だから、実際どうやってつくったのか、
よくわからない部分もあるんです。
臼田の、64メートルのアンテナって。
──
そんなふうにして建設されたものが、
いまだにきちんと動いていて、
はるか遠くの宇宙にいる
「はやぶさ2」を追ってるだなんて。
深田
別格ですね。臼田は。
──
その臼田のあと、満を持して
みんなの期待を背負ってうまれたのが、
美笹の54メートルのアンテナ。
深田
そうです。35年ぶり、とかです。
──
その間も、
アンテナはつくってきたでしょうけど、
ようするに、
ここまで巨大なのは「臼田以来」だと。
領木
せいぜい34メートル級ですね。
──
つくる必要性が出てきた‥‥んですか。
ようするに。
深田
やっぱり、さみしいことですけれど、
臼田が、古くなってしまったんですね。
安部
とくに、内部の電気製品の部分って、
この30年の進化が半端なくて。
はっきりいって別物になってますし。

夏の美笹局、54メートルのアンテナ。深田さん撮影&提供 夏の美笹局、54メートルのアンテナ。深田さん撮影&提供

深田
かといって、駆動する部分、
とんでもない大きいモーターなんかは、
新品に取り替えようとしたら、
1回ぜんぶバラさなきゃいけないとか、
そんなことしてたら大変すぎる。
ようするに、
新しいものをつくるのと変わんないね、
みたいな話になるんです。
──
そこで「新たにつくろう」と、なった。
安部
そうです。逆に言えば、
ここまでの超大型パラボラアンテナは
この先しばらくつくらないと思うんで、
プロジェクトに携われた人は
本当にラッキーだったなと思いますね。
──
おふたりは‥‥ご担当されたんですか。
深田
はい。ただわたしは、どちらかというと、
アンテナが完成してから
いま現在、いろいろと担当していますね。
中身をバージョンアップしたり、だとか。
領木
わたしも、最後の方だけ関わりました。
──
おおー、よかったですね!
安部
次に、「ゴジラ」がやってきたときには、
ぜひともブッ壊してほしいです。
ゴジラに壊されるってことは、
日本の「ランドマーク」的なものとして、
認知してもらえた証拠なんで。
──
東京タワーみたいに。なるほど。
ちなみにですが、ゴジラじゃないけど、
こんな大きなお椀のところへ
台風が襲来したら、どうなるんですか。
領木
ホームポジションと呼んでるんですが、
お椀を真上へ向けて、
めちゃくちゃデカい鍵というか、
金属の棒を「ブスッ!」と刺すんです。
動かないよう物理的に固定するんです。

領木
台風って、大変なんですよ。本当に。
人工衛星を運用している側の人たちは、
台風を観測したいわけですけど、
こっちにしてみれば、
アンテナが壊れるかもしれませんから。
──
あー‥‥、なるほど!
たしかに
観測したい人の気持ちもわかりますが、
おふたりにしてみれば‥‥。
領木
運用を止めたいんです。
台風が接近するギリッギリまで粘って、
「いまだ! 止めろ!」
って言って金属の棒を入れようしても、
もう入らなかったりするんです!
深田
アンテナが強風でガタガタ揺れちゃって。
──
はあ‥‥いろんなことがあるなあ(笑)。
何か、巨大パラボラアンテナと言っても、
やっぱり「人間の話」なんですね。
安部
そう、ロケットの打ち上げとかも、
「本当ですか?」という話があるんです。
現代ではコンピュータを使って
軌道を予想したり確認したりできますが、
初期は「ワイヤスカイスクリーン係」
と呼ばれる人たちがいたそうなんですね。
──
ワイヤスカイスクリーン係。
安部
言葉で説明しづらいんですけど、
四角い木枠にロケットの軌道を描いた
斜めの針金が引いてあるんです。
その木枠に監視者の頭部を固定して、
枠内の軌道の針金の線と
実際に飛んでいくロケットの軌道とを
照らし合わせて、
重なっていれば「オッケー」みたいな、
ロケットの軌道を
肉眼で確認していた人たちなんです。

──
えええ‥‥ウソみたい。
いつまでいらしたんですか、その人たち。
安部
もちろん、ウン十年前ですけど。
当時は、打上げ直後は
ロケットのテレメトリ通信が安定しないので、
安定するまでの間の監視を
訓練を積んだ職員によって補っていたんです。
──
その人たちが見て、仮に軌道がズレてたら、
つまりは、もしかして‥‥?
安部
はい、「指令破壊」を検討することになります。
司令部に連絡して、
そこから指令破壊コマンドを送って
空中分解させます。
重要なのは、
変なところに飛んでいって被害が出ることを
防ぐことなので、
そうなる前に空中で破壊するんです。
──
そんな大役を、木と針金で作った道具と、
訓練を積んだ「おのれの眼(まなこ)」とで。
領木
すごいですね‥‥!
──
その仕組みって、
顔を固定する人の「その日の体調」とかに
よったりしないんですかね?
何ていうんですか、
その、今日は顔がむくんでます‥‥とか。
安部
昨日、飲みすぎちゃってとか?
さすがに
体調変化でどうこうはならないよう、
工夫して固定していると思います(笑)。
でも、驚きますよね。
領木
地上局でロケットを追跡していた人も、
初期のころは、
1と0の数字の連なりで、
位置情報を「読んで」いたそうですし。
──
というと?
深田
磁気テープに穴をあけた
「1」と「0」を表したデータを読んで、
「あ、大丈夫だね」とか。
熟練のベテラン職員になると、
その穴の連なりを、ひと目で読み取って、
ロケットの状態を知るという。
──
そんなふうにして、
ロケットって飛ばしていたんですか‥‥!
深田
まともなコンピュータがなかった時代は、
そんな感じだったそうです。

(つづきます)

2023-02-09-THU

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