いつもお世話になっているPARCOさんから
「JAXAさんと、何かやりません?」
と、うれしいお誘いをいただきました。
そこで、わたしたちの生活に
とーっても重要な役割を果たしているけど、
「地味で、激シブで、どマイナーな」
(JAXAさん曰くです)
「地球観測衛星」について、
特集を組ませていただくことにしました。
これまで、南米・仏領ギアナの
熱帯雨林のど真ん中から、
大型ロケット発射の生中継をしたり、
宇宙飛行士さんの話をうかがったりしてきた
われわれ「ほぼ日」ですが、
「地味・激シブ・どマイナー」と言われる
地球観測衛星の話も、まったく同じく
おもしろく、胸がワクワクするものでした。
全4本のインタビューに、途中、
アニメ「ガンダム」シリーズを手掛ける
サンライズの小形尚弘プロデューサーと
JAXAさんとの特別対談もあります!
まずは「地球観測衛星の開発」篇から。
担当は「ほぼ日」奥野です。さあ、どうぞ。
- ──
- ぼくたち『ほぼ日刊イトイ新聞』では、
これまで
たびたび宇宙関連コンテンツをやってきました。 - たとえば、種子島から、
日本の誇る「Hー2Bロケット」の打ち上げを
インターネット中継したりとか‥‥。
- 安部
- おお(笑)。
- ──
- あるいは、ブラジルのお隣にある仏領ギアナへ
2泊5日というおかしな日程で行き、
熱帯雨林のど真ん中にあるロケットの射点から、
アリアン5という
どデカい欧州製ロケットが飛んでいくさまを、
森の中で何の電波も飛んでなかったので、
人工衛星の電波をお借りして、
またまたインターネット中継したりとか‥‥。
- 安部
- 上(=宇宙)を使ったんですか?
- ──
- 当時、三菱電機さんのご協力で、
国際宇宙ステーションに物資を運ぶ宇宙の補給機
「こうのとり2号機」の取材をしていたんです。
- 安部
- こうのとりって、つまり「HTV」ですね。
- ──
- その流れで、
先日ウクライナで悲しくも破壊された
世界最大の輸送機
アントノフ225(通称ムリーヤ)の
量産機体An-124通称ルスラーンに乗せられ、
中部国際空港セントレアから
仏領ギアナへ飛んでいった人工衛星が
深い森の中の射点から打ち上げられるところも
中継させていただいたんです。 - そのときに、何かもう‥‥
ロケットって本当に人間が上げているのか、と。
- 安部
- なるほど。
- ──
- あの轟音、衝撃波、直視できないほどの閃光、
超巨大な物体が、
地球の重力に全力でケンカを売って飛んでいく、
その光景全体は、
まるで、人智の及ばない存在が、
遠い宇宙へと飛び去って行くかのようでした。
- 安部
- そういう意味では、今回インタビューいただく
われわれの地球観測衛星の話は、
正直言いまして、地味で、かなりシブいんです。 - 「どマイナー」です。
- ──
- 地味。シブ。どマイナー。
何も、そこまで言わなくたって‥‥。
- 安部
- 以前、認知度調査をやってみたんです、
自分たちで調査会社にお願いして。 - わたしが「GOSAT-2」という観測衛星に
携わっているときに調べたら、
3パーかそこらだったんです、
地球観測衛星たちの知名度が。
初号機である「GOSAT」の愛称は
「いぶき」って言うんですけど、誰も知らない 。
他にも「だいち」だとか「しずく」だとか‥‥。
- ──
- たしかに、はじめまして‥‥。
- 安部
- 他方で、小惑星探査機「はやぶさ」の認知度は
「65パー」だとか、
気象衛星「ひまわり」なんかですと、
「70パー」を超えてくるんです。 - なので、今日のお話は、
通好みと言えば、そうとも言えるのですが‥‥。
- ──
- いや、めちゃくちゃおもしろそうです。
- 地球観測衛星の開発や運用の話はどうですかと、
お話をいただいた瞬間に「是非」と。
あまり知られてないからこそ、おもしろい。
安部さん、さっそくたっぷり聞かせてください。
- 安部
- 本当ですか。ありがとうございます!
- ──
- でも、ただの宇宙好きの素人ですんで、
まずは「地球観測衛星」とは何ぞや‥‥という、
基本の「き」からお願いできれば、と。
- 安部
- わかりました。宇宙まわりのトピックについて、
きっと多くの方がご存知なのは、
宇宙飛行士とか、いま出た「はやぶさ」とか。
- ──
- ええ、華とか夢がありますよね。
将来的に日本人が月に行く計画もあるそうだし。
- 安部
- でも、その影で、
地球を見る、観測するための人工衛星を、
われわれJAXAは、
80年代から、飛ばしてきているんです。
- ──
- おお。
- 安部
- 日本初の地球観測衛星は、「もも1号」。
- ──
- もも1号。すみません、はじめまして‥‥。
- 安部
- いいんです。1987年に打上げられました。
- いま「夢」というワードが出ましたけど。
地球観測衛星は、
徹底的に地球の現実を見続けてきました。
- ──
- 現実。
- 安部
- 宇宙から地球を見て、
たとえば、温室効果ガスなどを観測して、
気候変動への対応や、
防災に役立てるための
さまざまなデータを取っているんですね。 - つまり、じつは、わたしたちの実生活に
いちばん近くに寄り添っているのが、
地球観測衛星だとも言えると思うんです。
- ──
- 宇宙から地球を見てみると、
地球上で観測するより、いいことがある?
- 安部
- やっぱり、高いところから俯瞰する場合、
広範囲な観測が可能となりますし。
- ──
- 宇宙から地球を見るって発想は、
なんかもう、とんでもないと思うんです。 - それを最初にやってみようぜと思うのが、
まず、ものすごいことですよね。
きっと、アメリカとかなんでしょうけど。
- 安部
- 本当に。あんなロケットまで開発して。
- ──
- ロケットをつくって人工衛星を乗っけて、
宇宙まで連れて行って、
軌道に乗せてしまえば
あとは地球のまわりをグルグル回るって、
計算上というか、
理論的にはわかってたかもしれないけど、
はじめてのときは、
「やってみなきゃわかんないことだらけ」
なわけじゃないですか。
- 安部
- そうですね。
- しかも、進化は、さらに加速しています。
わたしがJAXAに入った2009年には、
ベンチャー企業の衛星などは
ほとんど飛んでなかったと思いますけど、
いまはスペースXのスターリンクはじめ、
民間衛星がどんどん打上げられています。
- ──
- 競争が激しくなってきているわけですね。
そのなかで日本の現在地は、どのような。
- 安部
- 第2次世界大戦後、日本は、連合国から、
10年くらいの間、
航空宇宙の開発を禁止されていたんです。 - そこで一気に
世界との差がついてしまったんですけれど、
追いつけ追い越せと、
わたしたちの先輩方が必死に努力されて、
いまでは
地球観測衛星の分野に関しては、
世界でも、トップクラスに入っていますね。
- ──
- わあ、すごい。
- 安部
- ですので現在は世界の航空宇宙関係者と、
協力しつつ、競争しつつ‥‥という段階。
- ──
- そのなかで安部さんは、
どのようなお仕事をなさっているんですか。
- 安部
- はい、2009年にJAXAに入社しましたが、
入社3年目くらいに、
先ほども話に出た「GOSAT-2」という、
地球の温室効果ガスを測定するための
人工衛星プロジェクトに配属されました。 - 幸せなことに、
プロジェクトの立ち上げのところから、
衛星の開発、打ち上げ、
最終的には「定常移行」まで見届け、
足かけ6年間ほど携わることができました。
いまは
新しい人工衛星プロジェクトを考えようと、
そういうセクションにいます。
- ──
- 新しい人工衛星を考えるというのは、
つまり「地球の何を見るかを考える」、と。
- 安部
- どんなことをすれば世の中の役に立つのか、
さらには、そのミッションを
人工衛星を使って実現するとしたら、
どうすればいいかということを考えてます。
- ──
- その「GOSAT-2」の6年間では、
具体的にはどういうことをしてたんですか。
- 安部
- プロジェクトを立ち上げ、
実際の人工衛星の製造を
どのメーカーさんにお願いするか検討して、
契約を結んで、
実際の衛星の開発については
メーカーさんが設計製造責任を持ちますが、
われわれは、完成まで
ずっと横にいて、伴走をしていました。 - そして、わたしは、最終的には
打ち上げの際の衛星指揮官をつとめました。
- ──
- 衛星指揮官?
- 安部
- ロケットを打ち上げるときに、
人工衛星の管制指揮をするんですけれども、
そのとき、衛星の運用に対して
一瞬だけ全権を握る人が、衛星指揮官です。
- ──
- 全権‥‥! ‥‥かっこいい。
- 安部
- それは、何かあったときに、
すべて対応しなければならないポジション。 - とくに地球を回る地球観測衛星というのは、
静止衛星と違って、
いつも通信できるわけではありません。
地球を一周するあいだ、
何回か通信できるタイミングがあるのですが、
いずれも 10分くらいしか
アンテナで捉えられないんです。
だから、もしも、何かが起こったとしたら、
その10分で対処しきらないと、
次に見えてくるまでに、
またしばらく時間がかかってしまうんです。
- ──
- 時間との戦いでもある。映画になりそう!
- 安部
- 最悪、次に見えて来るまでの間に、
衛星が壊れてしまったりする可能性もある。 - そういった異常事態への対応なども含めて、
すべてを指揮する役割なので、
あの仕事は‥‥やっぱり、しびれましたね。
- ──
- それは、入社して何年目だったんですか。
- 安部
- 2018年‥‥入社10年めのことでした。
(つづきます)
2022-09-13-TUE
-
シリーズ、ぞくぞく更新予定!
001 地球観測衛星の「開発」 篇
002 地球観測衛星の「運用」 篇
003 JAXA+ガンダム スペシャル座談会
004「パラボラアンテナ」 篇
005「周波数調整」 篇
006「軌道力学」 篇地球観測衛星の情報については
「JAXA サテナビ」でチェックを!